第25話 最後の街へ

 「なるほど、ケイルスとリジーはそこにいる二人に手助けとして力を授けたのか。なら私も力を授けるとしよう」ここまでの経緯を話したベイアオは快く協力してくれた。

「どうする?セレスがもらっておくか?」セレスが力を継承させてもらおうとしたのだが、

「む?君は氷の魔法が使えないのか、だとすると力を与えても扱うことができない、誰か使えるものがいればいいのだが、」

「そういえばチャロはどうなんだ?今のところ全部の守護獣の力を借りれてるよな?」

「でもチャロと私たち力を受け継いだものとは別よ」

「まずはチャロが力をもらえればそれだけでも戦力アップにはなるんじゃないかな」

「それじゃまずは僕がもらうよ!」最初にチャロが力を授かることになった。

「君も不思議だな。竜とはいえここまでたくさんの守護獣の力を受け継ぐことができるとは、これならあと一人の力も継承できそうだ」

「魔物は人間よりもたくさんの属性を扱えるのは知ってたけど守護獣の力は別だものね」

「言われてみれば火、風、木、それに今回で氷と。確かに人のそれとは違うな」

「ふっふーん!って火はドラゴンの能力だから!でも僕ってもしかして天才?」

「チャロが天才かどうかはいいから。ベイアオ様の力は誰がもらうの?」

「そういえばジークは?エルフなら3種類以上使えるかもしれないでしょ?」

「残念だが俺は魔法に関しちゃ下手な部類でな。ここまで生きて来たが使える魔法はウインドだけだ。あんまり期待しない方がいいぜ」

「それでも一回やってみようよ!」仲間たちに言われジークが授かろうとしたが

「むぅ、君はケイルスの力を授かりさらに自分のものにしているな。これ以上は危険だろう」

「まじかよ、」

「やっぱりファードゥラと戦った時のあの力はケイルス様の力だったんだね。ルリナの力も覚醒するのかな」

「さあね。それよりもどうするのよ。私は氷使えないし、他に誰が、」ルリナが困惑していると、そこに猛烈なアピールをするものが

「ねえねえ!ティキならできる?」

「お前が?まあ確かに雪だるまだし氷は使えそうだけど、」

「ティキ、あなたはファイナちゃんたちのそばにいてあげて?お父さんの事も説明しなくちゃいけないから」セレスがティキを説得した。アルカージはどこかへと消えてしまったのだ。まさか彼が魔王の手下でしたなんて説明することはできない。少しでも一緒にいられるものが必要だ。だがティキはひかない。

「だけど!ファイナのお父さん、すごく苦しそうだったよ。なんというか心が感情にあやつられているような、ティキ、ファイナのお父さんをたすけたい!」心が感情に支配されている。とても今日生まれたばかりの生き物から出る言葉ではない。というか本当にただの雪だるまか?確かにアルカージを助けたいのはセレスたちも同じだ。するとベイアオが

「君の力、やはりただものではないな。君が彼女たちとともに魔王を倒しに行く川わからないが、私の力は君に託すとしよう」と言った。どうも彼にはティキの正体が少しだけわかったようだった。それを見込んでベイアオの力はティキが受け継ぐことになった。こうしてセレスたちは一度メルキスへと戻ることにした。

 「おねがい!ティキもつれてって!ファイナのお父さんはティキが絶対助けるから」帰ってきてからも一向にひかないティキ。

「なあ、考えたんだがよ、ティキ一人を置いていったとしてその方がまずくないか?一向に帰ってこない一家の主人なんて嫌でも心配するだろ?」

噓をつくことはよくない。だが世の中には本音と建前がある。人のためを思う噓もあるのだ。最後にセレスたちが下した決断は

 部屋から出てきたファイナはモニカに挨拶をしたのち、あることを聞いた。

「パパは?パパはどこに行ったの?」

「昨日のお姉ちゃんたちがさっき戻ってきて教えてくれたわよ。パパ

漁の船に乗れたって」

「ええ!そうなの?じゃあしばらくは帰ってこない?」

「寂しい?」

「うん、でもお仕事だもん、パパが帰ってくるまでいい子で待ってる!」

「そうね、ママと一緒に待っていましょうね」そんなファイナが作っておいた雪だるまがなくなってしまうことに気付くのはしばらくたってからである。そこにはティキの手足に似た木の棒などが置かれていた。

 暗く不気味な靄の先でアルカージは不気味な手とその部下と話していた。

「今回もすべての力を手に入れることはできなかったか、奴らもなかなかやるようだな」

「も、申し訳ありません」

「いやよい、目的は達している。人の身にしては大した成果だ。復活まであと少し、もしわが野望が達成されたなら貴様の願いもかなえてやるとしよう」

「ありがたきお言葉、感謝します」こうは言ったが、今のアルカージにははっきりとした望みが分からなくなっていた。まるで思考にも靄がかかってしまったようだ。とはいえ、後戻りはできない。ここまで来たらこの手の通りに進むしかない。

「いずれまた貴様にも任を与えるだろう。それまではここで休むがいい。これ以上人といては面倒だ。今日はもう下がるがよい」

「はっ」アルカージが靄へと消えたのち、不気味な手に部下が進言した。

「我が主よ、残る守護獣はあと一人です。ここは私が、」

「まぁ待て、奴はほかの守護獣たちと比べても一番の切れ者、貴様の力をもってしてもそうやすやすとはいかぬ」

「くっ」

「月の街の守護獣、ルナフェンリル。もっとも厄介な奴だ。奴さえいなければ500年前の戦いの結果も違っていただろう。だが私にも策はある。貴様の出番はそのあとだ」

「...はっ」

「いよいよだ。いよいよ私がこの地を、世界を支配できる。500年前にはかなわなかった悲願がついに、」

 メルキスで雪だるまのティキを仲間に引き入れたセレスたちは最後の街であるラーヴァントへと出発した。その道中話題はティキのあの能力についてになった。

「あんなことができるなんて改めて考えてもすごいよな」

「魔法でも攻撃を防いだり魔法だけなら弾き返せるものはあるけど、物理的な攻撃の、しかもダメージだけを返せるなんて魔法聞いたことないわ」

「あれって魔術とかなのかな?」

「それすら怪しいんだよな。俺はどうも魔法とは違うものに感じられてならない、」

「魔法じゃないのか尚更不思議ね」

「ねえねえティキってやっぱりすごいの?」自分のことに興味津々なティキ、先ほど感じた雰囲気はどこにもない。まさに無邪気な子供そのものだ。

「ティキは生まれたばっかりなのに本当にすごいよね!これからよろしく!」

「チャロはどれくらい生きてるの?」ティキの突然の質問にチャロは思わず

「僕?聞いて驚くなよ?なんとごひゃんぐっ!」慌ててチャロの口を抑えるセレス。

「5歳!チャロはまだ5歳なの!ティキと同じようにまだまだ子供なんだよ!」

「どうしたんだセレス。急に慌てて」

「確かに、でもチャロって5歳だったんだ。そりゃまだ小さいよね。でもあと10年もしないうちに見違えるくらい大きくなるみたいよ。竜は大器晩成、ある日突然どーんと大きくなるなんて話もあるわ」なんだかチャロに話題がそれ始めた。このままではまずい、何とかして軌道を変えねば。

「そうだ!ティキのその力に名前決めようよ!」

「あの能力の名前か、うーん」

「相手の攻撃をそっくりそのまま反射する技か。なんだか鏡みたいだな」

「確かに、じゃあジークの鏡を入れて魔氷鏡なんてどうかしら?」

「まひょうきょう!いいね!ティキそれ好き!」

「本人が喜んでるし、それでいいか!」

「改めてよろしくね!ティキ!」

「うん!」不思議な仲間も引き連れてセレスたちの旅は続く、

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