第23話 暗界を覗くもの
昨日セレスたちが雪だるまを作っていた時、ファイナが二人に向かって
「ねえねえ、この子の名前何にする?」と聞いてきた。しばらく考えるもいい案の出なかった二人は
「ファイナは何がいいの?」と聞いてみた。ファイナも少し考えて
「ティキ!この子のなまえはティキがいい!」そう言って名を決めていたのだった。だが問題はそんなことじゃない。
「昨日作ったってことは、そん時にセレスが何かしたのか?」
「そんな、何でもないものを動かせる魔法なんて私はまだ使えないよ」
「それじゃまさかファイナちゃんが?見た感じウィルと同じか少し下くらいだし、この年頃って何か魔法に関して非凡なの?」
「可能性としてはそれしかないよな、周りの雪だるまは動いてる様子がない。しかしこれゴーレムとかに使われてる魔術の仕組みだろ?しかもしゃべるなんて、普通のそれ以上だな、」やっぱり原理がわからない。当の雪だるま、ティキといえば無邪気にファイナと戯れている。子供ゆえにこの状況にも純粋に適応しているのだろうか?別に危険がありそうでもないし何より朝は特別冷える。遊んでいるファイナも連れてセレスたちは一度家の中に入った。中ではすでにモニカが朝食を作り終えていた。
「私たちの分まで作ってくださって本当にありがとうございます」
「いいんですよ。ゆっくり召し上がってください」朝食にはメルキスでとれた野菜や海鮮の入ったシチューだった。おなかの中からぽかぽかに温めてくれる絶品料理を堪能したセレスたちは、一宿二飯の恩義で家事などを手伝いながら今日の作戦を立てていた。
「さて、街自体には異変もなし、情報もなしだが、どうする?」
「先に月の街に行くのもありじゃない?アルカージさんの言っていた通りだとすれば私たちじゃ歯が立たないし、魔王のやつらとすれ違ってたら手遅れになるかもしれない。すこしでも手を打てる方に行くべきよ」
「そうだな。セレスはどう思う?」
「私もそれでいいかな、だけど、その昨日雪だるまを作っていたからもう少しだけここで聞き込みしてからにしない?」
「ははっ、じゃあそうするか手ぶらよりかは最後まで調べた方が後腐れがない」そう言って手伝いもあらかた終わってきた時の事、突然チャロが
「いる、この街にいる」と急にしゃべり始めた。ジークたちは驚いたがセレスはこの異変にすぐ気が付いた。風の街でも起きたあの予感である。
「みんな!魔王の手下よ!また出たんだと思う!」
「なんでそう言えるの?」
「風の街の守護獣が襲われたときにもチャロが何か感じ取っていたの、そしてその場所には必ずあの不気味な手がいる」
「なるほど、それであの時お前たちはあんな山に登ってたのか!」腑に落ちたようなジーク。
「全部に反応してるわけじゃないけど、こうなったら今まで絶対あいつらが出てきてるの!もしかしたら今回も街に奴らが現れたのかも!」
「じゃあ行くしかないわね!」
「けど手伝いがまだ、」それを聞いたモニカがやってきて
「大丈夫ですよ。後は私ができますからお手伝いありがとうございました。何かあったらまた来てくださいね」そう言って送り出してくれた。
「ありがとうございます!」セレスたちは急いで支度をしてチャロの示す方へと向かった。慌てて出て行ったセレスたちを外で待っていたティキは興味深そうに見ていた。
メルキスの中心地では、黒い靄を身にまとった人のようなものが暴れていた。街の人々も戦うが、次々に払いのけられてしまう。とうとう街中の店を破壊しようとしたところで間一髪間に合ったルリナの雷魔法が突き刺さる。
「グオ、」横からの攻撃に驚いた様子だ。だが効いているとは思えない。当たったところをよく見ると体にあの不気味な手がしがみついている、いやこの場合は握りついているとでもいうべきか、あそこから魔力が出ているのだろうか。靄の切れ目からはわずかに服や肌が見える。人間だ。人間にとりついている。仲間たちもそれに気づいたようだ。
「おいおいどうするよ、あれじゃうかつに切れないぞ、」ネラーボやシャミアのように化け物の姿になれば割り切るしかないのかもしれないが人の姿のものを斬るのはさすがにジークも躊躇する。こうしてみると暴れているのではなく突然不気味な手に操られて苦しんでいるのではないかとさえ思う。
「なんとかして助けられないかな、」
「助けるって言ったってどうするのよ、あの手の部分が原因だっていうのはわかるけど、」
「何とかしてあの部分を攻撃できないか、」セレスたちが困惑しているうちにも不気味な人影はこちらに攻めかかってくる。あれこれと考えている時間はないようだ。ついには向こうが魔法を仕掛けてきた。水の初級魔法、アクアだ。魔法からしてもまだ人間の要素は残っているらしい。だが感心している場合ではない。魔法はよけられたが今度はこちらに突進してきた。不気味な人影はセレスに狙いを定め、一撃を叩き込もうとする。もう命中する。そう思った時、セレスの前に何者かが立ちはだかった。チャロかと思ったが大きさが全然違う。しかし間に入っただけではその人がやられる。そう思ったのも束の間、なんと殴り掛かった不気味な人影が後ろへと吹き飛ばされた。まるで何かに跳ね返されたかのように、弾かれた者も何が起きたかわからないようだ。セレスを攻撃から守ったのは意外なことにあのティキであった。
「ティキ!?何でここに?」
「みんなが気になってついてきちゃった。セレスちゃんをかばったのは、なんでだろう?気がついたら体が動いてたかな」セレスちゃんとは、あまり呼ばれたことのない呼び方にこれまた驚くセレス。
「お前、人でもこんなことしないぞ?どんだけ度胸があるんだよ、」むしろ当たったら雪だるまらしく砕けるとかそういうことも頭にはないのかもしれない。
「それにそもそも攻撃を受けるどころか跳ね返してたよな?ますますどういうことなんだ?」
「うーん、わかんない」聞くだけ無駄だったかもしれない。
「おしゃべりは後にして!また来るよ!」チャロが注意を促す。戦闘態勢に戻る二人だが、それをティキが止める。
「ここはティキに任せて!」もう一度アクアで攻めてくる不気味な人影、それに対してティキの体を不思議な光が包み込む。水の魔法はその光のベールに触れるとそれをそっくりそのまま敵に向けて跳ね返した。攻撃は人影の手の部分に命中し、不気味な手はそのまま靄の中へと消えていった。
不気味な手から解放された人物にセレスたちは駆け寄る。
「あんたは!」その人物にジークとルリナは驚いた。なぜならそれは、昨日の港でアルカージをいじめていた者の一人。その中でも最も体格のいいボスのようなあの人物だったからだ。
「いっててて、あれ、私は一体」
「なんであんたがここに?」
「お前さんたちは昨日の!まさかあいつに言われて私を見張っていたのか?」
「なにがなんだかわかんないわよ!何があったのか教えて頂戴」
「今朝、いよいよ漁に出るぞって港に出るところでアルカージの野郎に会って、あいつが言ったんだ。イグナート、貴様もこれで終わりだ。暗黒の呪いに苦しめって。それからは記憶がなくってよ。気づいたらこんなところに」
「そんな、アルカージさんが⁉」とんでもない話が飛び出してきた。アルカージが魔王の手下だとでもいうのか?
「アルカージさんはどこに行ったんだ!答えてくれ!」
「お、落ち着けよ。俺も途中からは覚えてないって言っただろ?ただ、あいつが一人で釣るなら街はずれの氷の洞窟だ。向こうには看板もある。いるとしたら多分そこだ、」イグナートから聞いた話によりセレスたちはアルカージを追うのだった。
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