第22話 雪、醒める
遊んでいたところを見られセレスも気まずいかと思っていたら
「あ、二人ともこんなとこまで来て何してるの?」といきなり天然な発言を返してくる。
「こんなとこまでって、え今こっちが質問される方⁉」戸惑いを隠せないジークに代わってルリナが答える
「港で聞き込みをしていたらこの人が同業?の漁師さんたちにひどい扱いをされていたのよ。それを助けて、お礼ってことで来させてもらったの」
「なるほど、」
「今度はこっちの番よ。どうしてここで子供と遊んでいるのかしら」ルリナに問い詰められるセレス
「それは、」セレスは二人にここまでの経緯を説明した。
ジークたちと別れたのちに街中で守護獣について情報を探していたセレスとチャロはなかなか有力な情報が得られないまま気がつけば街の中心地から外れ住民たちの居住区にまでやってきた。
「ねえねえ!そこのおねいちゃん!」と呼び止める子供の声がした。
声のする方を向くと一軒の家の庭にある木から女の子がこちらを見ている。
「どうしたの?」近づいて声をかける。
「雪だるまつくろう?いっしょに作ると楽しいよ!」無邪気に話す少女。無垢な笑顔に思わず付き合ってあげたくなってしまう。しかし今セレスたちは守護獣に関して聞き込みの真っ最中、気持ちは悪いがお断りしよう。
「ごめんね。私たちある魔物について調べてるの。また今度来た時に遊んであげるからね」しかし少女の方も引かない。
「そのまものって海のまもの?だったらパパが知ってるかも!パパはりょうしだからね!ここで雪だるま作って待ってようよ!」パパが漁師?それなら確かに情報が得られるかもしれない。ジークたちが聞きぞびれてしまう可能性もあるし、ここで待っていた方が確実かもしれない。そう思ったセレスたちはここで少女とともに“情報を集めるため”にここで少女の父親を待っていたということだった。
「なるほどね、その子のお父さんに私たちが会ったと、」
「そういえばあんた、名前はなんていうんだ?」
「アルカージです。アルカージ・コゾロフ」
「ファイナはファイナだよ!」セレスと遊んでいた少女も父親に続いて名乗った。
「娘と遊んでくださっていたようですし、どうぞ皆さん私の家へ我々家族では少々広すぎるくらいでしたから」アルカージに言われてセレスたちは彼の家へと上がったのだった。
「あなた、おかえりなさい。もうすぐご飯できますよ」家に入ると奥の方から女性の声がした。
「あぁ、ただいま」アルカージがそう告げると女性はさらに続けて
「今外でファイナと雪だるまを作っている女の子がいるでしょ?その子にも良ければ入ってきてもらえないかしら。あの子と遊んでくれたお礼がしたいの」
「それなんだけど」
「ただいまー!」「おじゃましまーす!」ファイナとチャロが同時に叫んだ。寒いのを嫌がっていたチャロだが、温かい家の中に入って一転。すぐに元気を取り戻したようだ。セレスたちもそれに続いてあいさつをする。
「あらこんなに大勢?」
「いや、僕が港で知り合った人たちもいたんだ。ちょうどお仲間さんたちだったみたいで。
「そうなの?今手が離せなくてご挨拶できなくてごめんなさいね。たくさんいるならもっと準備しなくちゃ」
「そんな、ただ上がらせてもらうだけでも十分ですよ」そう言うセレスをよそに
「奥さん!そんなたくさん料理するのは大変でしょう!ここはひとつ!わしも手伝いますよ!」なぜか急にジークが乗り出した。
「あなたねぇ、」ルリナがジークを止めようとしたように見えたのだが
「それなら私も負けられないわ!生意気なウィルを黙らせた私の腕前見せてあげるんだから!」彼女も同様にスイッチが入ってしまったようだ。急なことでセレスは止めることもできず、気づいた時には2人がアルカージの奥さんと共に料理を作り終えて食卓を囲んでいるところであった。アルカージの奥さんの料理ももちろんなのだが、ルリナの料理も素材をうまく使いこなした料理になっていた。サクトゥスとは食材の雰囲気がだいぶ違うところを見るにその腕前は確かなもののようだ。そして何より驚いたのがジークの料理だ。一見ただ豪快に作っただけのようだが、味付けなどの細かな部分にこだわりが感じられる。200年以上生きているとどんな人でもうまくなるものなのかもしれない。実際それの倍以上生きている人の味で育ったセレスでも驚くようなおいしさだった。
「そういえばアルカージさんは、フロストクラーケンっていう魔物のこと知っていますか?」一通りごちそうになってしまったのちにセレスが質問を切り出した。
「すみません。ファイナの事もあったのに、僕からは何もお伝えできることがありません。大きな魔物ならきっと遠洋の方にいるのではないかと、」残念ながらここでも手掛かりは得られなかった。
「うーん、どうするかねぇ、」
「もし守護獣に影響があったら街にも異変が起きるのよね。今この街で変なことが起きてるとかありますか?」
「いいえ、とくにはないと思います。街も普通な感じでしたし、」結局情報を得られなかったセレスたちは後手に回ることになりながらも様子見のためにアルカージの家の部屋を借りてその日は寝泊まりさせてもらうことになった。
次の日、セレスは朝早く目を覚ました。チャロや同じ部屋で寝ていたルリナを起こさないようにそっとベットから出る。すでにアルカージは家を出たようだ。彼の奥さんがセレスたちの分の料理を作っているようだった。
「あの、」
「モニカです。ごめんなさいね。今日も漁に出るというので、先に準備してあげたんです。同僚の人たちからひどいことされてるから、行かないでと止めるのですが、聞いてくれなくて」厳しい環境のメルキスで大きな儲けを出すには漁業につくしかないのだろうか。何も言えなかった自分が悔しくてセレスは一度外の空気を吸うために着替えて家の外に出た。家の外には昨日ファイナ一緒に作った雪だるまが、雪だるまがあるはずの場所にない。どういうことだ?溶けるにしては早すぎるしそもそも溶けた後がない。よく見るとそこには何かが這ったような跡があった。まるで雪だるまが歩いて行ったような。と
「君!昨日ティキを作ってくれた子だよね!」聞いたことない声にゆっくりと振り返ると、そこには確かに昨日セレスたちが作った雪だるまがいたのだった。
「キャアアア!!!」セレスは今までの旅の中ですらないくらいの声をメルキスの冷たい朝に響かせた。
「ゆ、ゆゆ、雪だるまが動いて喋った⁉」驚きのあまり状況説明をしてしまうセレスにとうの雪だるまは
「そうなんだよ!朝になったら動けるようになっててね、自分でもびっくりだよ、なんでこんなことに」それもこれもこっちが聞きたいのだが、むこうも本意ではなかったようだ。そもそも雪だるまに意志なんてあったのだろうか?セレスがあっけにとられていると声を聴いたジークたちも家の外に出てきた。これだけの人数が叫ぶのはさすがにまずいと思い、叫んでしまったせめてもの報いとしてセレスはみんなの叫ぶ口を必死で抑えた。
「なんなんだ?こいつは!」叫ぶこと自体は防いだもののやはり突っ込まずにはいられないジーク。
「これがまさか、フロストクラーケンによる異変?」異常ながらも冷静に分析しようとするルリナ。
「雪だるまがしゃべるなんて、不思議なこともあるんだね」と自分も人語を直接話すのは驚かれる種族であることを忘れて感心するチャロ。三者三葉の反応を見せる中、不思議な雪だるまは
「でも足がないな、これじゃ動きにくいよ」と自らの足を要求した。
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