第20話 力の条件
不意打ちに失敗したファードゥラは実力行使に出る。巨体に合ったものすさまじい翼で風を起こす。風圧だけでこちらを圧倒してくる。体が小さいうえに飛んでいるチャロはセレスに捕まっているしかない。ジークがウインドで反撃するが、効果があるとは思えなかった。暴風の中で風の初級魔法では押されてしまうだろう。ならばとルリナがボルトを放った。稲妻はファードゥラの方へと突き進んでいき、漆黒の体を貫いた。
「ギャア!」と叫び声をあげるファードゥラ、雷属性は有効なようだ。しかし、いくら何でもこれだけで致命傷とはいかない。どうにかしてここを突破しなければ。ルリナの攻撃で怯んだところにチャロとセレスが攻撃を叩き込む。攻撃されたファードゥラはさらに興奮して足をじたばたさせた。ただの鳥ならいざ知らず、相手はこちらを軽くしのぐほどの大きさである。うっかり踏みつぶされればただでは済まない。たまらず一度距離をとるセレスたち。ちりじりになったところで再びファードゥラが攻撃してきた。モンスターにおける闇の初級魔法、ミルズだ。暗く重い球状の魔法がセレスに襲い掛かる。セレスもバーンを使ってしのぐが拮抗する二つの魔法を突き破ってファードゥラの槍のような長い嘴で突き殺そうとしてくる。今思えば最初の一撃は口を開けていたため捕食のためだったのだろう。しかし今回はセレスの体を貫き、確実に殺すためのやり方だ。ここで一人でも人数を減らしておくつもりなのだろうか。ファードゥラにとってこの戦いはすでに捕食から闘争に変わっていたのだ。とはいえその嘴からセレスでは逃げ切れない。もう捕まるとなったその時、ジークの風魔法がセレスを外側へと押し出した。ファードゥラの嘴はそのまま空を切り再び地面に突き刺さった。勢いもあったために今回はすぐに嘴を抜くことができない。その間にジークとチャロが攻撃を叩き込む。火と風の挟撃がファードゥラを追い詰める。何とかその嘴を地面から引き抜いたファードゥラは体勢を立て直すため飛び上がろうとする。空中にいて暴風を吹かせた方がこちらとの戦いを有利に進められると気づいたようだ。しかしそれを待っていたようにルリナのプラントによる木の根がその足を拘束した。飛ぶことができなかったファードゥラは飛ぼうとする前よりも体勢を崩しその場に倒れてしまう。プラントの拘束時間は長くない。この使い方はあくまで応用で、足を縛るように根を操るのも出した根を魔法として維持しておくのも相当の技術が必要だ。自らが持つ魔法の力を熟知し、使いこなせるルリナだからこそできる技だ。そんなルリナの作り出した大きなチャンスにセレスも駆けつけ加勢する。セレスの魔法が、チャロの火球が、ジークの風をまとった斬撃が、ファードゥラにダメージを与えた。しかし、それでも起き上がる。ルリナの拘束も解かれてしまった。かなりの魔力を使ってしまったゆえにもう一度使うにはそれなりのクールタイムが必要になる
「まさか、ここまでやってまだ倒せないのか」ジークが焦りの表情を浮かべる。
ようやく飛び上がったファードゥラは翼を丸めて力をため始めた。渾身の一撃を放つつもりだ。
「洞窟だ!最初にいた洞窟に避難しろ!」魔力を継続的に使って動きの鈍ったルリナをセレスとジークが支えて、間一髪全員が洞窟の中に入った。ファードゥラが力を解き放ち、風の中級魔法、フォラスを放ってきた。最初の暴風をもしのぐほどのすさまじい風が大剣の一振りのようになって連続的に降り注ぐ。洞窟から見えていた森の木々はまるで動物であるかのように揺れ、平均的な大きさの木はなぎ倒され、幹の細い木はその刃に切り裂かれ、他の木にぶつかって被害を広げていく。小さな嵐が過ぎ去ったようなありさまだ。人間と魔物やモンスターでは、やはり使える魔法が違う。人間はルリナのプラントのように、ただ魔力をぶつけるのではなく、その知恵も合わせた攻撃の補助手段としても活用可能だ。もちろんレベルの高い魔法になれば別だが、そんな魔法が使えるのなら、足止めなんてする必要もないのである。対してモンスターたちの使う魔法の価値とは力が全て。その場その時に己が振るえる魔力をすべて攻撃に割り当てた魔法攻撃にも、ほかの用途など必要ないのだ。実際、このフォラスも人間の上級魔法とはいかずとも、中級魔法は軽くしのぐ攻撃性を持つ。避難した洞窟まではさすがに被害はなかったが、再びまずい状態になった。ここから出ようにもファードゥラに待ち伏せされている。出た瞬間串刺しになんてされたら目も当てられない。とはいえここにいても何も始まらない。どうしようかとセレスたちが悩んでいると、ファードゥラが先に仕掛けてきた。洞窟の正面に立ち、もう一度嘴を突っ込んできたのだ。今度は奥の方まで届くように狭い空間では誰かが刺し貫かれる。そう考えたセレスはとっさに防御魔法を張り、その攻撃をはじいた。嘴が戻ったタイミングで外に出るセレスたち、
「ここからどうするんだ⁉」
「ルリナ、もう一回雷の魔法は打てる?」セレスがルリナに聞くが、
「ごめんなさい、今はまだ」
「戦って倒そうとしちゃだめだよ!何とかして追い払わなきゃ!」チャロが仲間たちに呼びかけた。ファードゥラを驚かせてはいるが有効打にはなっていない。チャロの言った通り追い払うしかなさそうだ。そうしてセレスたちが動き出そうとしたとき、再びファードゥラが翼で風を起こし始めた。こちらの動きを封じたうえで魔法をため、今度こそこちらを倒そうとしてくる。今のセレスたちではこの攻撃を防ぐ術はない。かなり持ちこたえた方だが万事休す。そう思った時、
「飛んでないで、降りてきやがれ!」ジークが苦しそうに手を天に掲げ、そしてそれを勢いよく地面に落とした。するとセレスたちを襲っていた暴風が一斉に止み、次の瞬間ファードゥラが何かにたたかれたように落下した。突然のことで誰一人、動くことはできず、ファードゥラも完全に予想外の一撃にその場を立ち去ってしまった。いっこいうは何が起きたのかわからず、しばらくその場でぼうっとしていた。
気が付いたセレスたち。だが、未だに何が起こったのかは理解できていない。
「何が起こったんの?」
「ジークがなんだか手を地面に当てたら急にあのでかい鳥も地面に落ちたんだよ」セレスに捕まりながらもチャロは様子を見ていたようだ。
「ジークが?あなたそんな力があったの?なら早く使ってくれればよかったのに」出し渋っていたと思い少し不機嫌そうなルリナ
「いや、わしも知らなかったんだよ。ただ、思わず体が動いたって感じで」
「私たちに向かって吹いてきていた風が止んだ後にファードゥラが落ちてきたように感じた。急に風の向きが変わるなんてあり得るのかな、」
「そういえばジーク、ケイルス様から力を授かってたよね?」
「あぁ、あれっきりめちゃくちゃ強くなったとかはないからちょっと肩透かしだなと思っていたんだよ」
「し、失礼ね」
「しょうがないだろ?事実だったんだから」
「僕の火の攻撃が強くなるのと似てる気がするな。僕もみんなを守らなきゃって思うと今まで見たいなすごい技が使えるんだ」
「ふむ、なるほど確かに似てる」
「気持ちが強くなると守護獣からもらった力を使えるってこと?」
「その可能性はあるな。いずれにしてもルリナも力を授かっていたし、その力が使えたときに仕組みがわかるんじゃないか?」ジークの思わぬ力によって窮地を脱したセレスたちは再びメルキスへ向けて歩みを進める。
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