第19話 帳の怪鳥

 再びセレスたちがサクトゥスに来た時には、シャミアの影響で弱っていた花々は元通りに戻っていた。間に合わず枯れてしまっていた花の部分にはすでに新しい花が芽生え始めている。街をめぐってもこの前の異変について話していたのはごくわずか人のうわさの移り変わりとはあまりにも早いものだ。街を歩いているとセレスたちはルリナとウィルに再会した。

「ルリナ!今何してるの?」

「今日あたりセレスたちが来るんじゃないかなと思って、どこで集合するかとか決めてなかったから探してたの」

「ルリナも一緒に旅してくれるの?」早速チャロが本題に切り込む、

「お母さんとお父さんが帰って来てからセレスたちと体験した話をしたわ。それでリジー様とも話をしてもらったの」

「俺がリジー様と一緒に勉強していたの、お母さんとお父さんは知ってたからね」

「その後家族で話をして、自分たちと同じようにルリナもいろんな所を自分の目で見てきた方がいいと思うって言われたの!」

「おぉ!ということは?」

「私も一緒に行くわ!もしセレスたちと会えたらそのまま一緒に旅に出る準備もできているし!」ルリナは持っていたカバンをセレスたちに見せた。

「よかった!ルリナも一緒に来てくれるなら心強いよ!ありがとう!」

「姉ちゃん、僕もリジー様のところまでは一緒に行く」セレスたちに会った時から曇ったような表情をしていたウィルがボソッとつぶやいた。ルリナも笑って

「うん。ウィルはお母さんたちに私が出発したって伝えておいて?リジー様とは後でまた研究もするんでしょ?」

「...うん」こうしてルリナとウィルも一緒にセレスたちはリジーのところへ向かうのだった。

 リジーはシャミアと戦ったあの場所でセレスたちを待っていた。草花と違って木々の表面にはまだセレスたちが戦ったことでついたであろう燃えた跡が残っている。

「ルリナ、ウィル。それに皆さんもよく来てくださいました」

「リジー様、私セレスたちの力になりたいです。みんなのために戦いたいです。お願いします!」ルリナの思いにこたえるようにリジーは力を溜めて

「わかりました。私の力、花の守護獣としての力をあなたに託しましょう」リジーの力がルリナのもとに受け継がれる。

「これが、リジー様の力!」彼女は試しにその魔法を地面へと放ってみた。魔法の力は覿面で、大木とはいかずともその場に一瞬で若い木が成長した。

「これが、花の守護獣の、」

「やっぱり花とはいってもその力の樹木とかになるんだな」ジークが感心した。

「もっと大きな木ができるかと思った、」残念がるチャロにセレスが

「そんなこと言わないの!」するとリジーが

「まだ力を手に入れたばかりでその力の本質までは使いこなせていないのかもしれません。むしろ今ここまで使いこなせていること自体がかなりの才能ですよ」そう言うと急にリジーは立ち眩みを起こし、その場に倒れてしまいそうになる。慌ててウィルが支えたが気づかなければ危ないところだった。

「大丈夫ですか?リジー様」

「え、ええ大丈夫です。あの時、私の力も魔王のもとに奪われてしまっていたようなのです」

「そういえば、わしがセレスたちと旅に出た時も、ほんの少し風が弱まっていた。やっぱり影響が出ているんだな」

「ですが、気にすることはありません。命を懸けるほどの力を授けるような無茶はしていませんから。ですがケイルス同様、私も皆さんのように自由に動けるものに力を授けた方が戦力的にも状況的にもよかったのです」

「リジー様、あなたから受け継いだこの力、役に立てて見せます!」

「じゃあ、姉ちゃんもみんなと一緒に早く行きなよ、」強がるウィルだがやはりその表情からは寂しさが抜けない。そんなウィルにルリナは

「大丈夫。お姉ちゃん絶対戻ってくるから。ウィルにはウィルにしかできない研究があるんでしょ?」

「うん、」

「私が帰ってくる頃にはもっとすごいことが分かるようにしておいてよね?約束できる?」

「うん、できる」涙を流すウィルの頭をルリナは優しくなでた。

「気をつけてね、姉ちゃん」

「わかったよ。ウィルも元気でね」リジーにウィルを託してセレスたちはルリナとともにその場を後にした。

 サクトゥスを出て雪の街、メルキスに向かう道中、一行はある立て看板を見つけた。

<この先、帳の怪鳥出現注意>

「なんだこれ?この先にいるモンスターか?」

「ねえ、怪鳥はわかるんだけど、その前にはなんて書いてあるの?」

「とばりっていうのよ部屋と外とか別の部屋とかの区切りに使われているものね」

「そうなんだ!さすがルリナも物知りだね!」セレスも知らない言葉で心の中で

(そういう意味だったんだ、聞かれなくてよかった)と安心していた。

「ちなみに帳はこのレンビエナ地方の文化じゃなくてもっと東方の文化らしいわ」

「そんなことまで知ってるのか?」

「ウィルが本の虫になってからというもの私もウィルの本を読んでいたら、だんだん自分でもいろいろ読んでみたいなって思っちゃって」

「ルリナたちはどっちも賢いよね」

「両親は私たちと違っていろんなところを旅するのが好きなんだけどね旅なんだから楽しんできてね!なんて言われたりして、」セレスたちが話しているうちにあたりはすっかり暗くなってしまった。

「あれ?おかしいな、順調に行けば日が沈むまでに街の手前の宿屋にはつくはずなんだけど、ゆっくり歩きすぎたか?」

「なんだか急に暗くなったわね。野宿は嫌だけど、やむを得ないかしら」

「セレス!みんな!あっちに洞窟みたいなのがあるよ!そこで一度休もう!」チャロが見つけた洞窟にセレスたちは一度入った。外は真っ暗、月明かりも星も見えない。

チャロが出した火で焚火を起こしセレスたちは暖を取った。もうサクトゥスよりもメルキスに近いからか、気温もだいぶ下がってきていた。ふと空を見上げると先ほどまで見えなかった星が一つ。セレスたちを見下ろすようにして輝いていた。

「ねえルリナ。星座ってあるでしょ?あの星は何座の星なの?」

「どの星?真っ暗で何も見えないわ」予想外の言葉にセレスはもう一度星空を見上げる。やはり星は暗い空に輝いている。しかしなんだか様子が変だ。さっき会った場所と別の位置で輝いているように見える。大きく違うわけではないが、それからセレスが注意してみているとなんと星が明滅したのだ。これはおかしい。夜空の星も輝きが変化することはある。しかし星が光ったり光らなかったりするなんてことはないはずだ。これじゃ瞬く星じゃなくてまばたく星だ。そんなくだらないことを思いつきため息が漏れそうになった次の瞬間、セレスたちの目の前に何やら槍のようなものが突き刺さった。

「うわ!なんだ?」巨人の槍のようなそれにルリナが反射的に魔法で攻撃する。

「ガギャア!」槍は叫び声をあげて天へと昇って行った。そして今まで真っ暗だった夜空に一瞬で光が差し込む、夜のとばりが開かれるように。そしてセレスたちの前に現れたのは、星座に語られる生き物たちにも勝るとも劣らない、すさまじい大きさを誇る巨鳥であった。

「な、なんだこいつ!」

「この鳥はまさか、ファードゥラ⁉」ルリナが驚いたように言う。

「ファードゥラって?」

「レンビエナにはいないはずの鳥よ、その巨体とあらゆる光を吸収する羽で獲物から光源を奪い、逃げる場所も状況もわからない間に捕食してしまう、唯一、目だけは光を反射するから、動く死兆星なんて呼ばれ方もするの」セレスが見たのはいわゆるその死兆星なのだろう。嘴まで真っ黒なファードゥラは正に夜が翼を得たような姿だった。正体がわかってもこの巨体から走って逃げることは難しい。どうやら戦うしかなさそうだ。

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