第18話 魔剣はどこに
次の日の朝、セレスはミナモと久しぶりの朝食を味わった。朝食は良薬草をとったあの時と同じマップルのジャムを使ったパンだった。
「いただきます」と声を合わせて食べ始める。旅館で出てきた料理もいいが、やはり食べなれた味が一番落ち着くと実感する。しかしセレスの心は落ち着かないままだった。今日は自分の両親の埋められているお墓のところへ行くのだ。カルデロの森は子供の頃からずっと遊んでいた場所だったが、お墓らしきものがあったとは思えなかった。しかし、考えてみればこれはセレスたちが500年前に遊んでいた時の記憶なのかもしれない。だとすればお墓なんて見たことがないわけだ。準備してセレスとチャロはミナモに連れられてカルデロの森のマップルや良薬草のある方とはまた別の方にやってきていた。動きづらいミナモを支えながらゆっくりと歩いて行った。
「ねえ、ミナモさん。どうして、両親のことは知らないって隠してたの?」
「自分が500年前の人間で、両親が魔物に殺されたという話をしてもあまりにも実感がわかないと思ったからです。それに相手はただの魔物ではありません。魔王の手下です。まだ幼かったセレス様にやり場のない怒りや悲しみを背負わせることが怖かったのです」
「そうだったの、」今だって完全に理解したわけじゃない。自分が500年前の人間だということに、というかセレス自体が500年生きてきたわけじゃない。時を超えてこの時代に来ただけでセレスはまだ17歳だ。
「しかし、前に話してくれた不気味な手の事や村に帰ってくるまでの出来事を聞くにやはり魔王には復活の兆しがあるようです。もう隠してもいられませんから」話をしていると森の中にあるいくつかの石の墓の前にやってきた。3つの大きな墓とそのうち一つの傍らには小さな墓があった。それぞれの墓には葬られたものの名が記されている。
<アウシィ・フェレア>
<モコ・フェレア>
<セレス・フェレア>の横の墓には<チャロ>と記されていた。古い墓だ。墓石自体がかなり風化しており、この文字を読むのでやっとだった。
「セレス・フェレア、これが本当の私の名前」
「そうです、セレス様。魔王を討伐したのちにモコ様がアウシィ様のもとに嫁ぎ、このフェレア家は始まりました。短い、あまりにも短い時間ではありましたが、この墓があることこそ、確かな証拠なのです」
「僕のも作られてる」自分の墓があることに驚くチャロ。それはセレスも同じで生きているうちに自分の墓を見ることになるとはまるで考えもしなかった。
「チャロも、当時の村ではかなり有名でしたから、墓を作らないと不自然かと思いまして、」セレスは両親のお墓に祈りをささげたのち、ミナモに
「ねえ、私とチャロのお墓、もうなくてもいいの?」ミナモはすぐに答えた。
「大丈夫です。2人が無事にこの時代にやってきたとき、もう壊してもいいだろうかとも思いましたが、なんだか自分では気が引けてしまって、」こうして三人はセレスとチャロのお墓を無くした。
「また、一緒にお参りにこよう」
「ええ、かまいませんよ」そう言ってセレスたちは小さな墓地を後にした。
「ねえ、ミナモさん。なんで私のことセレス様っていうの?」
「それは、もう保護者という身よりもあの時の、メイドとしてのふるまいの方がいいかなと思いまして、」
「そっか、でも私は今までみたいにセレスって呼んでくれた方がうれしいな、どうかな、だめ?」セレスにとってはメイドであった頃のミナモよりもここまで育ててくれたミナモの方がずっと自然だった。その言葉を聞いたミナモはまた目を潤ませて
「わかったよ、そうするね。セレス」
「ねえ!僕は昔ミナモさんの事なんて呼んでたの?ミナモさんの方は僕の事なんて呼んでたの?」
「うーん、チャロは昔からチャロだし、チャロも私のことはミナモさんって呼んでたかな」
「おお!昔からさん付けしてたのか!」ゆっくりと歩いて三人は家へと帰ってきた。夕食を作りながらミナモはセレスに今一度、旅に出る思いを訪ねた。
「やっぱり行くの?セレス、」
「うん。魔法が使えなかった自分も戦いたい、魔法が使えるようになったからにはもっと強くなりたいって思ってた。けど、お母さんとお父さんの、ミナモさんのこれまでの事を聞いたら、私引けないよ。きっと私にしかできないことなんだから」
「それじゃ、明日にはもう出発するの?」
「そうしようかな。一緒に来てくれた友達もいるの。あんまり長居してたら迷惑かけちゃう。それに、度についてきてくれるかもしれない人もいるの。その人の話を聞くためにも一度サクトゥスにはいかなくちゃ」
「そうかい。止めはしないよ。それがモコ様との、セレスのお母さんとの約束だから」三人は夕食を囲んだ後、眠りについた。
翌日、今度はしっかりと旅をするための準備をしたセレス。と言っても旅だなんてしたこともなかったから準備だって完ぺきとは言えない。朝食を済ませた後、ふとあることに気づく。
「そうだ、杖、この前の戦いのときに燃えちゃったんだ」セレスがそう言うとミナモは持っていた二つ目の杖を差し出した。いつもは持っていない不思議な手触りの石出できた杖だ。
「モコ様が私に預けてくれていた杖です。きっとセレスの力になると思う」
「これがお母さんの、ありがとうミナモさん」そう言ってセレスはミナモにギュッと抱き着いた。
「大丈夫だよ。必ず帰ってくるからね。帰ってきたらまたおいしいごはん待ってるからね」
「辛くなったら、いつでも帰ってきてね。魔王なんて恐ろしい相手、戦うのも大変だろうから」セレスとチャロは声を合わせて
「「いってきます」」と言って家を後にした。
村ではジークが待っていた。随分この村を堪能したようだ。
「セレス!やっぱりここのマップルは別格だな!木もいいが何より実がおいしいのが一番だ!」美味しそうに食べるジークを見てセレスは
「そりゃあもちろん!この村のマップルは上物だからね!」と自慢げに話した。
「なんだか上機嫌だな。ってその杖は」
「うん、お母さんの使ってた杖なんだ」
「そういうものの目利きにはあまり詳しくないが、こりゃ相当な逸品だな。こんなすごいものがあるとは、ルクシスなんていらないかもな!」
(ルクシス、本当に魔王たちのものになっちゃったのかな。だとしたらどうすれば)昨日の夕食中にセレスはその魔剣ルクシスがどこにあるのかも聞いてみた。
「襲撃からしばらくして、私もルクシスを探しました。しかし、それはどこにもなく、もしかしたら魔王に奪われているのかもしれません」
(けど、魔王の仲間らしいネラーボとシャミアからは、そんな雰囲気は見てとれなかった、ルクシスの話によれば、私だけでなくルクシスもまた危険分子のはず、まだ魔王も見つけられていないのかもしれない)セレスは心の中でそう言い聞かせ、もうないかもしれないと不安がる気持ちを抑えた。
「ひとまずサクトゥスに戻るのか?今頃ルリナの方も話は着いた頃だろうしな」
「うん、そうしよう。それでもしルリナがついてきてくれるにしても無理だったとしても、次の目的地は雪の街、メルキスにする」計画を聞いたジークはうなずいて
「まあ妥当だな。ラーヴァントに行くならクラフスクの方に行くから遠回りになるし、サクトゥスからならそれが一番だ」
「サクトゥスって雪の街って言われてるんだよね、ブルブル、僕不安になってきた」竜であるチャロにとっては特に寒さは強敵だ。少しの不安は残るがひとまず三人はゴド村からサクトゥスへ向かうことにした。
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