第16話 帰郷

 炎を操るシャミアがチャロの火による攻撃で倒されたのは、ケイルスやリジーの授けてくれた力によるところが大きい。シャミアは炎の力を頼りすぎていた。もちろんチャロも守護獣の力に頼るつもりで攻撃したわけではないが、彼女にも他の手法を持っていればあの力量差のまま押し切れていただろう。巨大なカマキリは自分の炎も相まって竜巻の中に消えていった。

「倒しちゃった、」

「ど、どうしよう。私たち人を殺しちゃったよ」

「そんな、」シャミアが跡形もなく消えたことにより自分たちの行いに恐怖を覚えるセレスたち。そこに

「違いますよ。“彼”はれっきとした魔物。あのままにしておけばより多くの命が犠牲になっていたでしょう。それはもちろん私たちも同様です。呪縛によって縛り付けられていたツリーアルラウネのリジーが防御の状態を解いてセレスたちを落ち着けた。

「あなたたちが来てくれたおかげで私は窮地を免れました。本当にありがとう」続けざまに感謝する彼女にウィルがただ一人難しい顔をしていた。リジーもすぐにウィルに気づく。

「どうしたのですか?」

「俺、何もできなくて、理屈を言っただけでやってくれたのはセレスと姉ちゃんだし、お師匠様も守れなかった。それが、悔しい」自分だけこの戦いにおいて何一つ貢献できなかったのではないか。と心配したのだ。それに対してリジーは穏やかに

「ウィル、あなたが私のことをこの森で見つけてくれてから、一緒にお勉強をしてきましたね。二人で考えてきたものが私たちを助けるきっかけになったのです。それに何より、あなたがここを知らなければ誰もこの状況に気づかず、本当に私は危なかったかもしれない。武器をとって戦うのは問題解決の最終手段です。本来はあなたのように知恵を使う方がよいのです。しかし、時には武器もまた必要。私には少しその判断が遅かったようです。守護獣でありながら皆様に手を貸してもらうことになり、情けない限りです」

「あー、今は誰が悪いとかよそうぜ?危機は退けられたんだしよ」ジークがその場の空気を戻す。

「そうですね。この街を救ってくださり本当に感謝します」

「リジー様、魔剣ルクシスについて何か知っていますか?」チャロが素早く本題に切り込んだ。この前であった時にはいきなりの事で聞きそびれていたのだ。

「魔剣ルクシス、魔王を倒すための剣。私も多くは知りません。これまで出来る範囲で情報がないか探してはきましたが、ありかのようなものはわからずじまいです」

「そっかー、ここでも情報なしだといよいよどうすればいいのか」

「セレス、と言いましたね。あなたのうちに眠る力。それがまさか希望のちから?」

「いえ、ケイルス様には不完全な状態で希望のかけらのようだと」

「希望のかけら。確かに言い得て妙ですね。あなたが私たちの待ち望んだ希望なのでしたら、私も何か手助けがしたいのですが、」

「ルリナさん。どうかあなたに私の力を授けさせてはいただけないでしょうか?」

「えぇ⁉急にどういうこと?」

「私はこの街の守護獣、他の者たちと同様ここから離れすぎるわけにはいかない。そこであなたほどの力を持つ魔法使いに私の力を使い希望を守ってほしいのです」

「えっとつまり、私はセレスたちと旅をしてほしいと?でも私お母さんとお父さん、それにウィルだっているし」風の街で己の道を追い求めていたジークとは異なり、ルリナはまだまだ子供だ。セレスだって進んで自らこんなこと始めたわけじゃない。

「ごめんなさい。私にはまだそんなことはできません。少なくとも両親に話をするかしないと、聞き入れてもらえるかわからないけど、それまでは待ってもらえますか?」

「わかりました。セレス。あなたたちはこれからどうするのですか?」リジーに声をかけられたセレスは自分の持っている杖を見た。先ほどの戦いで木でできていた杖は焼けてしまっており。実際のところシャミアの攻撃を受け止めるので精いっぱいだった。そんなボロボロの杖を見てセレスは

「私も一度ゴド村に帰ります。これまでの事をミナモさんに話さないと。いくらなんでもすごく心配してると思うから」セレスは特別な戦闘経験もない普通の村に住む少女だ。彼女なりに気持ちを固めていても周りは決してそうではない。

「わかりました。お二人とも、もし、周囲からの許しが得られ、心が決まったのなら改めて私のもとへ戻ってきてください」リジーにそう言われ、セレスたちはその場を後にした。

「それじゃあ私たちもここでお別れね」荷物をまとめ、ゴド村への準備を終えたセレスたちに姉弟がお別れをしに来てくれた。

「ルリナ達のお母さんとお父さんはいつ頃帰ってくるの?」

「土砂崩れの事もあるけどあと2,3日したら帰ってくるって送られてきた手紙にはあったわ」セレスたちも大修道院の方に行けばすれ違うかもしれないが、そちらが行けないからこの街に来ているわけだし、話をするのは難しそうだ。

「私もきっとここに戻ってくるから。けど、一緒に買い物をするのはやっぱりまた今度かもね」

「わかったわ。道中気をつけてね」

「二人ともバイバーイ!」こうしてセレスとチャロはジークとともにサクトゥスを離れ、ゴド村へと帰るのであった。

 その頃、街を守っていたリジーは自分の異変に気が付いた。襲撃の前と比べて明らかに使える力が減っている。

「まさか、あの時!」シャミアが炎の中に消えていた際、だれの目にも視認されないタイミングで靄が生まれ、不気味な手が確かにそこにいたのだ。手はシャミアがかろうじて持っていたリジーの魔力のみを取り、再び靄とともに消えていた。

「シャミアの奴め、まさか討たれるとはな。だが最後まで守護獣の力を隠し持っていたのは見事だ。冥土で誇っているがいい。おい、次の計画の首尾はどうなっている」

手は再び使いのものを呼び寄せた。

「予定よりも難航しています。守護獣自体が洋上を回遊しながら街を守っているらしく、位置の特定や計画を練る上で困難な部分が出ているようで」

「フロストクラーケンめ、生意気な事をする。まあよい、こちらも今回で学びは得た。しかしあの者たち、二度も我らの邪魔をするとは、次のものにはあらかじめ警戒をさせておけ。小娘ごときと侮るな。油断せず確実に仕留めよ、とな」

「はっ!」不気味な手はつかいを放ち、靄の中へと消えた。

 ゴド村への道でジークがあることについて尋ねた。

「そういえば、セレスとチャロはいつのころからの仲なんだ?随分と仲がいいよな」

「それなんだけど僕たちもあんまりよく覚えていないんだ」

「物心ついた時にはチャロが一緒にいた気がするの。私はミナモさんに拾われたはずなのに、」

「もしかしたらその時にチャロも一緒に拾われたんじゃないのか?」

「ありえる!でも僕の記憶ではセレスと合う前のうっすらとした記憶があるよ。その後、セレスに出会って」

「そうなのか?お前たちも結構不思議だよな。まあそれでもわしは着いていくけどな!」

「ルリナ、一緒に旅してくれるかな」

「うーん、それはルリナの家族の問題だから僕たちじゃどうにも、」

「出来る事なら!ルリナとも一緒に旅してみたいな。ルリナはその、すごくきれいでかわいいし、女の子だけどあこがれるっていうか」

「ははっ!買い物の約束までしたもんな!あの子がどうするのかはわからんが、またサクトゥスに行ったら話にでも行くか!」

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