第14話 暗炎を研ぐもの

 情報を集めるとは言ったものの、ジークは久しぶりに来たサクトゥスを目いっぱい楽しんでいた。街中では踊り子が踊っており、活気を引き立てている。スカート型のフリルのついた衣装が揺れるさまはクラフスクの街では見ることができない。(見てはみたいが、そんなことしたら見るどころではないかもしれないし)

「ほほぉ、いいもんだねぇ花の街」風乗りレースの連覇も閉ざされてしまったジークは別にクラフスクにおらずともレンビエナを旅してまわるのも楽しそうだなと思っていた。魔王だか何だか知らないが、守護獣は守れているし、何とかなるだろう。ジークはそう考えていた。すると不意に路地の方から不思議な刃物を研ぐような音が聞こえてきた。しかし、これがどうも妙なのである。ジーク自身刃物に精通しているわけではないが、その音は研いでいるというよりも炉で何かを燃やしているかのようだった。よく聞けばそれは炎の音だ。炎の音の中につんざくような金属音が聞こえていたのである。

(火打石なんか使っているのか?)街の家は木造だし、火事なんて起きたら大変だ。ジークは様子を見るため路地に入った。路地を進むうちは音が聞こえていたのだが、開けたところに出るとピタリとその音は止んだ。代わりにそこにいたのは妖艶な美女であった。

「お姉さん、こんなところで何してるの?」美女は笑顔で

「別に何にも?」と言った。

「何にもってわけはないだろ?そういえばここで刃物を研ぐような不思議な音がしたがあんたか?」

「知らないわ?気のせいじゃない?」

「炎が燃えるような音もしたし、何か危ないもの持ってるんじゃないよね?」そう言ってジークが手を確認すると、何も持っていない。不思議で体を見ようとすると、

「あら~?レディに対してはしたないことする坊やね」と咎められた。おのれ。

「ああいや、ははは。レディに対してとんだ失礼を、それじゃ失礼」自分は250歳だ!なんて言うのもつまらないし、ジークはそそくさとその場を立ち去った。

 路地から出たジークがまた街中を歩いていると、セレスたちに出会った。

「お!戻ってきたのか!どうだった?」

「セレスが魔法使えるようになったよ!白い竜の魔法!」

「竜属性なのに白いのか?そりゃ珍しいな」

「それにこの街の守護獣、リジーさんにも会いました」

「本当か!無事だったのか、よかったぜ」

「それでね!僕リジーさんから力をもらえたんだけど、」

「ん?どうしたこの前みたいに使えないのか?」

「そうなんだ。火は吐けるんだけど普通の火で、」

「まあ必要になるよりもいいじゃないか」

「それもそっか!」使えなかったことは残念そうだがすぐにチャロも確かにとうなずいた。

「そしたらみんなはどうするの?ここでの用は済んだみたいだし帰るのかしら?」

「そうだね。けどまずは一度ゴド村に帰らなくちゃ。もうずいぶん帰ってないから」

「なるほどな。まあまだ行ってない街は二つあるしわしもそこに行くまでは着いていくか!」ジークも来てくれるようだ。

「また何かあったらいつでも来てね。今度はいろんなお店紹介してあげる!」ルリナはセレスにそう言った。

「おっと、女の子同士、もう仲良くなったのか。いいねえ」

「それじゃあ機能泊まった宿屋に帰ろう!」

「ルリナとウィルも気を付けてね!」その日は何もなくセレスたちも眠りについた。

「なんだ、あのエルフの子、あのお方の言っていた奴の仲間だったのね。なら先に殺しておけばよかった。まあいいわ。どうせ明日には全部なくなるんだから」

事件が起きたのはその翌日である。街中の花々がたちどころに枯れ、周囲の森も弱っていたのだ。セレスたちは一度、ウィルたちのもとへと向かった。二人もこの異常事態の原因を調べようとしていたのだ。

「クラフスクの時と一緒だ。向こうでは急に風が吹かなくなったんだ。けど、これはもっとひどいな」

「サクトゥスのエネルギーはお師匠様が司どってるんだ。お師匠様を助けに行かないと!」ウィルが一人で走っていきそうになるのをルリナが止める。

「待ちなさい!まずは自警団の人とかに行ってもらうのが先でしょ?」

「でも、お師匠様の事は街の人には、」

「それなら僕たちが一緒に行くよ!」

「私も魔法で戦えるようになったし、きっと役に立てるよ」

「何より、ここで話し合ってる方がまずいだろ。風なんかと違って木や森は生きてるんだ。このままほっといたらこの街もろともお陀仏だぜ」ウィルとルリナもそれを理解して、

「わかったわ。それじゃお願い。ウィルのお師匠様に何が起きているのか調べなきゃ」

「まあ、恐らくあの手の手下だろうけどな」セレスたちはウィルに連れられて、昨日であったリジーのいる場所へとやってきた。

「あ!お前は!」ジークが声を上げる。そこにいたのは昨日話した美女であった。

「やっぱり来ちゃった。さすがにしぶとくって手間かかっちゃたわ。かわいい顔して厄介な能力よね。守護獣さん」次々と生えてくる蔦を彼女の持つ炎の鎌が焼き尽くしていく。リジーは魔法で作った木々の防壁によって燃やされることなく守られていた。しかしこれでは防戦一方。周りの状況からも呪いが効いているのは間違いない。

「お師匠様から離れろ!ウィルが女を止めようとするが」片手間から放たれた熱風が彼を焼き焦がそうとする。が、ルリナの張った防壁により間一髪で助かった。

「やめろって言ってるのよ。それがわからないなら私だって容赦しないわ!」ルリナも覚悟を決めたようだ。

「いいわ、みんなまとめてかかってきなさい?まとめて焼きつくしてあげる!」そう言うと鎌はさらに炎をたたえた。温度がどんどん上昇していき、纏う炎は赤から青へと変わる。とてもチャロの火では太刀打ちできない、何とかしなくては。するとついに鎌でもってセレスたちを彼女は攻撃し始めた。あまりにも巨大な刀身をたたえる炎の鎌を振り回されては誰も間合いに入ることができない。しかもその攻撃に当たらなくとも鎌から繰り出される鋭い熱風がセレスたちを切り裂いていく。かろうじてジークが鎌を振りぬいたわずかな隙に間合いに入り込み、彼女に切りかかろうとした。しかし、剣は空気を切り裂くばかりで見えている彼女の体をすり抜けていく。

「なにっ⁉」咄嗟に何が起きたか理解したジークの耳元に彼女が妖艶な声で囁く。

「陽炎よ、坊や。私強引に迫られるのは好きじゃないの。攻めるのは大好きなんだけどね」瞬間ジークの胴体に炎の鎌が襲い掛かる

「ウインド!」たまらず風を噴射することでその場から緊急回避するジーク。

「あら残念。だけどいいの?見たところあなたたちの魔法ではこの窮地を脱せそうにないけど?」余裕を見せる女にウィルがただ一人笑いで返した。

「君の能力は大体わかった。強い火属性の力だ。研究に協力してほしいくらいだよ。だけど、お師匠様を気づつける奴は許さない!二人ともお願い!」

「ええ!」「わかった!」ルリナとセレスが同時にボルトと竜属性の初級魔法、バーンを繰り出す。

「そんなので勝つつもり?」そう言って彼女が鎌を一振りする。青い炎の刃と二人の魔法はぶつかり合う。すると力なら到底勝てないはずの二人の魔法が、次第に追い上げ始める。そして最後には炎の刃を打ち消して彼女の方へと向かっていった。予想外の事ではあったが、すぐさま回避する。

「どういうこと?初級魔法どうしでできる合体魔法なんてないはず」ウィルが得意げに話す。

「そう、合体魔法なんかじゃない。これは俺が考えている<クロッカス虚数空間>の仕組みのほんの一端に過ぎないんだからね!」

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