第12話 暗黒の呪い

ひったくり犯が捕まえられた後、セレスたちは喧嘩していた二人に呼び止められた。

「あの、さっきはごめんなさい。皆さんのおかげだっていうのに勝手に言い争い始めちゃって」

「大丈夫ですよ。それよりさっき天才魔法学者って」

「セレスのことを見てどこかで会ったことがあるみたいにも言ったよね?でも僕は見たことない気がするな」

「そうなのよ!あなたとはどこかで会った気がするんだけど、」

「村の人以外と会っていてチャロと一緒じゃなかった時、もしかして、この前のグィラベゼロ大修道院?」

「そうだ!そこでマップルを売ってた。あー、どうしよう。大分あのときと感じ違ったよね?」

「覚えておきな?姉ちゃんはこっちが素だから」

「そんなこと言わなくてもいいの!それでその天才魔法学者になにか用?」

「まあな、そこの子、セレスが魔法が使えないってんで原因がわからないかってさ」

「だってよ、ウィル」

「ふむふむ。お姉さんたちには助けてもらったし、ついてきてよ」

「まさか、あんたが本当に天才魔法学者なのか?」ジークが驚いた

「といっても勝手に言われてるだけだけどね。考えてる理論がすごいっていうんでそういわれてるの」

「そのことも気になったら教えてあげるよ。さあついてきて」

 セレスたちはウィルとルリナと言われた二人の家へとやってきた。

「ただいまーって今はお母さんたちいないんだけどね」

「ご両親はどこに?」

「今はラーヴァントの方に行ってるの。そこに売ってる本がとってもいいみたいで」ウィルが家のことを始めたところでルリナがセレスたちにぼそりと

「お母さんたちは、すごいウィルの事ばっかり見てて、私も何かできるようにならないと」

「ちょっと!なんで玄関のとこにいるの?早くこっち来てよ」ウィルに呼ばれて家の中に入るセレスたち、リビングと思われる場所にはたくさんの魔法に関する本が置かれていた。

(こっちは炎に、こっちは雷、たくさんの属性に関しての本があるんだ)レンビエナの魔法学者の中では自分が決めた一つから二つの属性について研究するのがほとんどだ。ここでの魔法といえば専ら生活のためのものだったり、魔物と戦うための物、ゆえに一つの属性について見識を究めた方がいいという考えが主流だ。しかし、この子はそうではないらしい。セレスはウィルの魔術によって体を調べてもらった。そしてウィルの口から飛び出したのは衝撃の言葉だった。

「多分呪いだね、すごく強い呪いの力がお姉さんの魔法を阻害してる。特に戦うための属性エネルギー。ただ、その根源がわからないんだ」

「根源?白魔法にも敵の力を削ぐ魔法だってあるだろ?それの仲間じゃないのか?」ジークが不思議そうに話す。

「確かにそう言う相手の力を封じるものもある。けどあれは魔力が外に出るのを妨害しているだけ、体の中に溜まっていく属性エネルギーによっていつかは魔法が溶けてしまう。けれどこれは別。多分お姉さんに入ってくるエネルギーを選んで排除してるんだ」

「そんなことまでわかるなんて、ウィル君すごい!」チャロが興味津々になって彼を誉めた。

「じゃあウィル。それは普通の力では解除できないの?」

「うん、解除しようにも持っている属性の力が足りなければそもそも打ち破れない。それにこの力、すごく強い、闇の力、は闇属性と被るな。言うなれば、“暗黒”」

「暗黒、」

「ウィル君、じゃあやっぱりこれは何とかできないのかな、」セレスが必死になって聞く。

「心配しないで!望み薄かもしれないけど一応策ならあるから!」

「本当?」

「この街から少し外れたところにある森の先に清浄の泉って呼ばれてる場所があるんだ。そこもどの属性とも言えない不思議な力が感じられる場所でね。そこならこの呪いも何とかなるかも!」

「それじゃあその場所へはどう行くんだ?まさか君が?」ジークが効くとウィルは少し困ったようにして

「姉ちゃん、お願いできる?」

「ええ、なんで私なのよ」

「だって僕、明日はもう行くって約束してるから」

「あぁ、そういえばそうだったわね」

「どこに行くの?」

「まさか、彼女のところか?」ジークが茶化すと

「か、彼女なんかじゃないよ!あの人は俺のお師匠様だから?」

「お師匠様?」

「ウィルにはね、魔法のことを教えてくれる先生がいるのよ。あの人、ウィルが来ないと心配になったり不機嫌になったりするから、」

「そうなのか、」

「ということで明日は私があなたたちと一緒に清浄の泉に行くわね」

「それじゃわしは明日情報を集めているからな。有力な情報があったら教えるぜ」

「えぇ!一緒に来てくれないの?」

「清浄の泉なんて感じいい名前の場所やばいこと起きないだろ!だったらわしはわしで動いた方がいいってもんさ!」

「どうやら決まったようね。それでみんなは泊まる場所とか決めてるの?」

「あ、しまった。適当に宿借りておくか?」

「うーん、どうしよう」セレスたちが悩んでいるとウィルがなにやら震えだした。そして

「も、もう我慢できなーい!」そう言うと急にチャロにとびかかってきた。

「うわあ!どうしたの?ウィル」

「しゃべる竜なんて俺見たことないよ!ねえねえ!少しだけ研究させてくれない?」

「え!いやだよ!僕の体はトップシークレットなんだから!誰にも教えちゃいけないの!」

「どうしてさ!このウィル=クロッカスに解けない問題はない!お姉さんの呪いも今やってる研究もチャロ君の事も僕が必ず解き明かしてやる!」好奇心旺盛なウィルを見てセレスとジークは

「やっぱり、宿をとろうか」

「うん、そうだね」

「宿とるの!よ、よかった。でも!ジークとセレスは別の部屋!いくら仲間でもセレスへのふじゅんなことは僕が許さないからね!」

「しねーよ!年の差ありすぎだっての!わし250歳だぞ?」

「でもだめ!部屋は別!」

「それは構わないけどよ、とにかくわしはそんな目で見てないからな!」

こうしてセレスたちは明日、ウィルに教えてもらった清浄の泉にセレスにかけられているという呪いを解くために向かうことにした。

 セレスたちとは遠いレンビエナのとある場所に、一羽の巨大なカラスが降り立った。あちこち焼けて切り裂かれたようなボロボロのありさまだった。

「仕損じたか。ネラーボよ」

「も、申し訳ありません。ですが、エアログリフィンから目標の魔力は奪ってきました」

「ふむ、ならばそれをよこせ」ネラーボの前にはあの不気味なな手が現れた。

「これがあれば、また復活へと近づける。それがかなった時にはネラーボ、貴様にも我が力をくれてやろう。最初に貴様に任務を与えて良かった。分は悪かったであろう。今は来るべき時のため、ゆっくりと休むがよい」

「ははっもったいなきお言葉です」そう言ってネラーボは再びカラスの姿へと変わり、いずこかへと飛び去って行った。ほどなくして先ほどとは別のものが手の前にやってきた。

「次の計画に向けての首尾ははどうだ」

「はっすでにあのお方は任務に向け出発されました」

「よし、それでいい。まずはクラフスクの守護獣の力を手に入れた。次に狙うのはサクトゥスの守護獣、ツリーアルラウネだ」不気味な手はそう言って恐ろしい笑い声をあげた。

 宿屋で皆が寝静まったころ、セレスは再び悪夢に目覚めた。

(またあの夢、)不気味な手とウィルの言っていた暗黒の呪い。確証はないが、セレスにはそこに何かのつながりを感じた。それが今日の夢にも反映されてしまったのかもしれない。

「お母さんとお父さんか、私の両親はどうしたんだろう」おぼろげな両親の記憶を求めてセレスは再び眠りについた。

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