第11話 綺麗な花には拳骨がある

ネラーボと戦い、ケイルスと話した次の日、セレスたちは宿屋からジークの小屋に向かった。宿屋の中はもちろん街の外でも昨日の風乗りレースの際に起きた異変について話題になっていた。

「急に風が吹かなくなるなんて、おかしなこともあるのね」

「まあ、大ごとにならなくてよかったじゃないか。もしあれで街中の風車が止まりっぱなしなんてことになったら、それこそ大問題だからな」

「ケイルスさん、もう元気になったのかな?」

「安静にしているだけでも街に風を送れるのかも」

「守護獣ってやっぱりすごいね」

「500年前から生きているなんてね、さあそろそろジークさんのところへ行かなくちゃ、一緒に帰る商人さんにも事情は話したしね」小屋に行くとジークが壊れた凧を眺めていた。

「ジーク、もしかしてそれ」

「ああ、風乗りレースの時にな。結構繊細なんだ。強引な降り方なんかしてたらたちまちおじゃんさ」

「ごめんなさい、」

「なんでお前たちが謝るんだよ。風がやんだのはネラーボってやつのせいだし、凧を捨ててお前らを追ったのはわしの判断だ。あんたらに非はない。それに」

「?」なんといわれるのかと不思議そうな二人に

「限りある命を守れたんだ。お前たちだけじゃない。街のみんながこの風に頼っている。わしは変わり者なんて呼ばれててな。だからこういうところにいるんだが、そんな自分でも人々を守れたのがうれしかったんだ。だからケイオス様の前ではあんな風な態度をとったが、俺は全然大丈夫だ」

「よかった。昨日戦って気づいたの私には本当に何の力もないってことに、助けることはできても守ることはできない。私も戦えるように何とかしなくちゃ」決意を瞳の奥に燃やすセレス。いたって普通の少女とは思えないそのまなざしはケイオスの言っていた希望のかけらというやつのおかげなのだろうか。

「迎えに来てくれて助かったぜ。それじゃあ行くとしますか。花の街サクトゥスへ!」セレスたちは小屋から街へと戻り、待っていた商人と共にクラフスクを後にした。

「そういえば、あの時のチャロには助けられたぜ、ケイオス様の力も見事に使いこなしてたもんな」

「え?なんのこと?」

「お前、覚えてないのか?ネラーボに攻撃されてみんなが動けなくなったときだよ。ケイオス様の風の力でチャロの吐いた火がぶわーってなってネラーボをどーんって」

「きゅ、急に説明が子供だよ、そうか、そんなことがあったのか。僕はあのとき何が何でも必死で戦ってたからよくわからないんだ。セレスやジークたちを守らなきゃって」

「それであの技、もう一回打てるのか?」

「うーん、僕自身は覚えてないし、ケイオスさんの力を借りて使えたってことは、残念だけど無理じゃないかな」

「そうか、残念だぜ」

「いいな、チャロはどんどん強くなってく、私はまるで戦えないのに、」一度ではあるが強力な力を見せたチャロと自分の無力さに悲観するセレス

「あー、そのことなんだがな?どうもサクトゥスには天才魔法学者なんて呼ばれる奴がいるみたいだぜ?もし、そいつに会えたならもしかしたらセレスが魔法を使えない理由や使えるようになる方法、見つかるかもしれないな」

「ほんと?それならいいな、私もみんなのために戦うから」

「女の子のセレスが困らないくらい戦ってやる!なんて言いたいところだが、悔しいが俺も強くならなくちゃな。チャロに頼ってちゃいられない」もしほんとに魔王なんかと戦うのならこの程度の力ではいけない。セレスをはじめ、二人もそう思っていた。

 彼らはその後も歩き続け、とうとう花の街、サクトゥスへと到着した。

「ここまで一緒に来てくれてありがとうございました」

「いやいや大丈夫だよ、手紙渡しておくからさ。それと」

「ミナモさんにはこの話、しないでおいてください。変に心配かけるのもよくないし、無事ですと言ってもらえれば大丈夫です」

「わかったよ。商人の僕からいうのもなんだけど危なくなったら気を付けてね?セレスがどれだけすごくても、村のみんなやミナモさんにとっては大切な仲間なんだから」

「僕は!」チャロは自分が当てられなくてご立腹だ。

「ああ、チャロのことも伝えておくよ。それじゃあ元気でね」そう言って商人はゴド村方面の道へと向かい始めた。

「しかし、きれいな街だね、クラフスクと違ってこの町は華やかというか」

「華やかじゃなくて悪かったな。ここには木の魔力を持つ主語獣がいるからな。この地では作物がよく育つし、でかい森だってたくさんある。レンビエナで一番自然が豊かなところといえば間違いなくここだろうな」

「ど、どうしよっか?とりあえず主語獣のこと聞いてみる?」

「うーん、クラフスクの奴らは俺含めてケイオス様の事見たことあるやつの方が稀だからな。それよりも先に天才魔法学者ってやつを探そうぜ?」

「うーん、どこにいるんだろう?学者っていうからには図書館とか?」セレスたちが歩きながらめぼしになりそうなものを探していると、前方から

「ドロボー!俺の宝物を返せー!」と叫ぶ少年の声から逃げるように人混みを除けながら何かを抱えてこちらに走ってくる男がいた。

「ほいっと」さりげなくジークが足を出して男を転倒させる。そのはずみで男の持っていたカバンの中から何やら変な形をした石が出てきた。宝石と違い、特別キラキラ光り輝いているわけでもないその石を見て男は

「なっなんだよ、天才魔法学者と聞いて来たらあんなガキだし、カバンの中身も勉強道具と本と石ころだぁ?こんちくしょうが!」とし怒りをあらわにした。そのすきにジークは素早く男の身柄を拘束した。

「チャロ!街の自警団かなんかに声かけてきてくれ!」

「分かった!」チャロは上空へと飛び上がり

「自警団さーん!いませんかー?事件ですよー!」と大声で知らせた。

「な、なんだ?あの喋る竜は」町の人々が驚いている中もう少しの間取り押さえていると、

「はあっはあ、よ、ようやく追いついたぞ!この盗人め!俺の宝物返せ!」セレスよりも背の小さな少年が男に向かって手を出した。しかし、男の手元には盗んだカバンはない。セレスはジークの持っていたカバンと飛んで行った不思議な石を少年に返した!

「あ、ありがとうお姉さん。傷ついたりかけてたりは、よかった!してないみたいだ」石の無事を知り心の底から安堵する少年。

「ねえ、その石はいったい何?」セレスが質問すると

「イグアノドンの化石だよ!五歳の頃に見つけてからずーっと大切にしてるんだ!お姉さんはイグアノドン知ってる?」

「イグアノドン?ごめんちょっとよく知らないな」

「ウィル!あなた化石取り返したからって他の人に恐竜の事自慢するんじゃないの!それよりもお礼、ちゃんと言ったの?」

「言ったよ!とってくれてありがとうって」

「そっちで犯人捕まえてくれてる人には?」

「あ、ありがとうございます」

「全く、姉として情けない」

「ルリナお姉ちゃんこそさっきまでどこいたのさ!」口答えする少年、ウィルに姉とやばれた少女はごちっと拳骨をして

「私女の子よ!?そんなに早く走れるわけないじゃない!」

「いっつもそうやって暴力に訴えるくせに!」

「なにおーう?もう一遍今度はもっとでかいのもらいたいってわけ?」

「あ、あのー」セレスが止めに入る。

「なんですか?ってあなたどこかで、」

「そこでけんかしてると、自警団の人通れないみたいなんですけど」

「「へ?」」二人はすぐにその場をどき、男はジークのところから自警団に渡された。こうしていきなり巻き込まれたひったくり事件は幕を下ろしたのだった。

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