第10話 託された力
ネラーボの攻撃によってエアログリフィン含め、セレスたちは壊滅状態へと陥った。ネラーボはカラスの姿から人間へと戻った。そして動けないエアログリフィンのもとへ向かい、
「多少時間はかかったが、これで予定通り、我が主のためにその力を頂く」
「ま、待ちやがれ!」ジークがネラーボの後ろからウインドで攻撃しようとする。しかしその動きは見切られており、ネラーボが手を振っただけで魔法を打つどころか指一本動かせないほどの重圧がジークを襲った。
「ぐああ!」
「貴様らの力ではこの力を打ち払うことなどできない。そこのエルフは多少腕が立つようだが、最初に来たお前たちはとんだ役立たずだったな」そういって何もできないセレスたちをあざ笑った。そしてエアログリフィンに手をかざし、そこからエネルギーを吸い取っていく。先ほどよりも苦しそうに声を上げるエアログリフィン。
「や、やめろ、」チャロがそう言った。口調がいつにもなく強いその言葉にセレスは少しだけ驚いた。その姿を見たエアログリフィンはわずかな力を振り絞ってチャロに向けて“風”を送った。風はチャロのもとに届くと、その身に吸い込まれるように渦を巻き始め、やがてチャロが纏っているような形になった。
「なにっ!私の呪縛を解き放った⁉それにその風は、奴の」驚いた様子のネラーボをよそに決意を固めたチャロは力をいっぱいにためて炎を打ち出した。炎は周囲の風をまとい爆炎となってネラーボのもとへと向かう。とっさにネラーボも泥を集めた塊でもって対抗するがまるで歯が立たずそのまま吹き飛ばされてしまった。
「なんなんだ、今のは」エアログリフィンもかなり追い詰めていた。あの小さな竜だってこれだけの力は出せないはず。この二匹の力が融合したことにより想像を超えるだけの力を手に入れたというのか?
「目的は達している。これ以上は危険だな。悪いが退かせてもらおう。決着はその時だ」そう言ってネラーボはカラスの姿に変わりその場から飛び去って行った。術者が遠くへと去ったからだろうか。セレスたちを縛り付けていた呪縛攻撃は治まった。
「だ、大丈夫かセレス、それにチャロも」
「私は大丈夫です。それよりもあのグリフィンさんを助けなくちゃ」セレスはエアログリフィンのところへと向かい、治療を行った。しばらくするとエアログリフィンは立ち上がった。
「あれ?もう大丈夫なんですか?」なんとなくチャロに話しかける要領でグリフィンにも話しかけてしまったセレス。すると
「ありがとう。少女よ。それに勇敢なエルフに、」
「僕はチャロ、まだ小さいけど白竜だよ!」どうやらチャロにも彼の声は聞こえていたようだ。
「チャロか。お前のおかげであの危機から脱することができた。礼を言う」
「な、なあ。あんたまさか本当にエアログリフィンなのか?」ジークも恐る恐る質問する。
「そんな名前で人間には呼ばれているな。本当の名はケイルスだ」
「これは本当にすごい奴に出くわしたもんだな」
「ケイルスさん。さっきの人、確かネラーボさんでしたっけ。あれはいったい」
「あれはこの地に住まう邪悪なもの。少し長くなるが私の話を聞いてはもらえないか?」
「大丈夫です、聞かせてください」
「うむ、500年ほど昔、魔王と名乗るものがこの地にはいた。先のネラーボというやつはその手下だ。私を含めた4体の守護獣は人間と協力し魔王を追い詰めたのだ。しかし、奴の力は強大だった。我々では封印することはできても完全に滅ぼすまでには至らなかったのだ。人間たちは魔王を滅ぼすほどの力を求め、海を渡って情報を集めた。そしてついに見つけたのだ。魔王ほどの強大な力に打ち勝つことができる力、かの地ではそれを希望のちからと呼んだ」
「希望のちから、」
「対抗策を見つけたことで人間たちは喜び立った。しかし、問題はそれだけではなかった。希望のちからは使い方を誤ればそのものを破滅へと導くと」
「破滅、」
「人間たちは再び膨大な知識を集め、希望のちからに耐えることができ、なおかつその力を利用できるようにとある剣を作った。それが魔剣ルクシス。魔王に抗する唯一の鍵だ」
「その魔剣ルクシスはどこにあるのでしょうか」
「すまないな。そのころには我ら守護獣はそれぞれの地を守る役目についていた。そして人間からはルクシスのありかを伝えられることはなかった。だが他の守護獣はわからんがな」
「そうですか」
「じゃあ、その魔剣ルクシスを探さなきゃなんだね。いったいどこにあるんだろう、うーん」考えても出るはずのない答えをチャロは心に投げかけた。が、勿論答えは沈黙だった
「おいおい、それだけじゃないぜ?希望のちからってやつを持っている人間を探さなきゃだろ?」ますます訳が分からなくなるセレスたち。しかしここで、ケイルスがあることに気付く。
「少女よ、確か名前はセレスだったな」
「はい。どうかしましたか?」
「君の中から未知の力を感じる。まだ弱いが暖かい力だ。もしやこれが希望のちから?いや、これはさしずめ希望のかけらといったところか」
「希望のちから?」
「ええ!セレスが魔王を倒すの?」驚いたようなチャロ。
「そんな、私、剣どころか魔法すらうまく使えないのに、」
「セレスよ、生まれはどこか聞いてもいいだろうか」
「私、両親のことはわからないんです。ゴド村っていうところの近くにいたのを村の人に拾われて育ったので」
「そうだったのか、それはひどいことを聞いてしまった。すまない」
「いいえ、大丈夫です」
「ゴド村はあの大修道院の麓にある村であろう。500年前からある村だ。そしてあの大修道院は魔王を封じるために建てられたものだ。魔王を倒そうとする者たちは古くはあそこで知恵を出し合っていた。もし君がそこの生まれで近年ああして活発化している魔王軍の動きから君を逃がしたのかもしれないな」
「両親が、大修道院の?」
「これはあくまで仮説にすぎない。しかし、君に大きな力があるのは確かだ。他の守護獣なら何か聞いているやもしれない。特にサクトゥスのリジーは守護中の中でも随一の知識を持っている。彼女ならきっと」
「サクトゥス、ゴド村に帰るときに通る予定の町だね」
「なら、少しだけでも話を聞いてみようかな。私が魔王を倒すなんて話はまだ信じられないけど」
「話が聞ければな。行けば会えるようなものでもないだろ?まぁ、頑張ってくれよな。わしはこの街で、吉報を待ってるぜ」そう言ってジークが帰ろうとしたとき
「待て、お主もなかなかの剣さばきだったぞ。そして風の力も持っている。私の力もきっと受け入れられるだろう」
「へへって、え?ケイルス様、今なんと?」ジークが聞き返すとケイルスは翼を広げ、力をため始めた。そしてそれをジークにめがけて送り出した。
「うおお⁉」突然のことで避けることもできず、それはジークに命中した。すると
「なななんだ?体の奥から力が湧いてくる!」
「私の力を少しだけ分け与えたのだ。今の私では彼女たちについて回って助けることはできないからな」
「ということは、まさか」
「お主にこの者たちの護衛を任せたい。頼めるか」
「え!ジークも一緒に来てくれるの⁉」チャロは大喜びのようだ。
「冗談じゃねえ!わしにはこの街に可愛い可愛いガールフレンドがな!ガールフレンドが、」
「いるの?」
「うぅ、いません」
「じゃあいいじゃない!」
「ジークさんが来てくれるなら心強いです。お願いできませんか?」
「なっしょうがねえな、力も借りちまったみたいだし、それに見合った仕事はしてみるかね。魔王を倒すなんて250年、いや500年生きたってない話だろうしな」
「明日出発だから、それまでにミナモさんにお手紙書いておかなくちゃ」
こうしてセレスはジークをつれて花の街サクトゥスを目指すこととなった。
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