第6話 風の街
二人はジークに連れられてレンビエナ地方の南東、風の街クラフスクへとやってきた。ここまでの道中でジークと意気投合したチャロが彼にこんなことを投げかける。
「そういえばジークって言葉遣い少し変だよね、いつもそんな感じなの?」
「いえ、いつもはもっと軽いんですが、やっぱり変ですかね」
「うん、一人称は俺なのに敬語なのが硬いのかやわらかいのか」
「いつも通りでもいいでしょうか?セレスさんもそれでいいなら」
「私は構いませんよ」
「そうでしたか。それじゃあ、んんっ!」ジークは喉を鳴らして調子を戻した。
「それじゃ改めて、わしの名はジーク!ここまでの道中も何かの縁!今後ともよろしく!」先ほどよりもかなり明るい口調で言い出しっぺのチャロも少し困惑してしまった。ジークの変わりように驚きながら二人はクラフスクを見て回った。
「しかし、風がすごいね、風の街なんて言われるだけのことはあるよ」チャロは体が小さく飛んでもいるため強い風が来ると吹き飛ばされてしまいそうになる。
「風猿の節だからな。風の属性エネルギーが一段と強まってるんだ」待ちゆく人々はみな何層にもなる布を巻いたような服装をしている。クラフスクでは伝統的な服装で強い風による粉じんなどから体を防いだり、その上で通気性は保つといったこの土地にふさわしい衣装だ。レンビエナにはそれぞれの地域によって全く異なる風土を持っているのが特徴だ。
「それにしても不思議、サクトゥスはこんなじゃないよね。隣町なのにあっちは穏やかな風が吹いてて暴風や嵐なんて話は聞いたことないよ」
「チャロは小さいのにいろいろ知ってるんだな。レンビエナには大きく分けて4つの街がある。それぞれの街は昔から4体の守護獣に守られている。風の街であるクラフスクは風の力を司るエアログリフィンがいるって話だ。もっとも200年以上生きているわしですら見たことはないんだけどな」
「そんなすごい魔物がいるんだね」話していると向こうの方から、
「おーいジーク!風乗りのための素材は集まったのか?もう明後日だぞ」
と街の人が話しかけてきた。
「あ、いややっぱり通れなかったよ。どうすっかな。今から行っても間に合わないだろうし」
「そうか、百戦錬磨の風乗り士でも使う凧がなくっちゃなぁ」そういうと街人は残念そうに帰っていった。
「あの、その凧がジークさんが来たのと関係しているんですか?」
「そうなんだ、さっき話した守護獣、エアログリフィンに捧げる風祭というのが近々あるんだよ。そこで凧を使って風に乗る風乗りレースってのがあるんだが、それにマップルの木が使いたくてな」セレスは少し考えてみた。
(そういえばこの前、マップルの木材を売りに行くって旅に出た村の人がいたっけ。もしかしたらクラフスクに来てるかも)
「ジークさん、今木材を用意すればそれは間に合いますか?)
「ん?ああ、一流の風乗り士は使う凧を仕上げるのも早いってな!一日でもあれば大丈夫だが、明後日にはレースが始まってしまう」
「もしかしたらそれ、間に合わせられるかもしれません。ゴド村から前にマップルの木材を売る旅に出た人がいました」
「なるほど!この街に滞在していたら間に合うってわけか!ありがとうな!」
「私も探すの手伝いますよ。あったときにご迷惑かけてしまいましたし」
「そんなこと気するな!困ってる人がいたら助けるってもんさ。それは人だとかエルフだとかは関係ない!」そう言うとチャロが自分を必死にアピールした。
「竜もな」チャロは満足そうだ。
「私とチャロは向こうの方を調べてみます」
「わかった。わしは逆の方だな。大きな買い物だ、質量的にな。さすがに女の子に商品まで持ってきてもらうわけにはいかない。かと言ってもしその人がいたとしてずっといてもらうのもな」
「だったら僕がジークに教えに来るよ!」
「本当か!それなら楽だな」
「チャロ大丈夫?また変な人に捕まらないでね」
「うん、今回は人よりもっと高いところを飛んでいくよ」
「決まりだな!運よく、その人がクラフスクにいることを祈っておくかね」セレスたちは二手に分かれて、ゴド村の商人探しを始めた。
いるのかもわからなかった商人であるが、探すことは簡単だ。ゴド村のマップルに関連する商品を扱う者たちには、偽装品を見分けるため証となる腕章をつけているのだ。もちろんセレスも持っている。逆に言えばそれだけゴド村のマップルは有名なものなのだ。幸運なことにセレスが見ていた村の商人は、クラフスクへと来ていた。もともとこの時期なら入用になるだろうと考えていたのかもしれない。商人はセレスを見ると、
「おや?セレスじゃないか。こんなところにどうしたんだい?ミナモさんのお使い?」
「違います。実は訳があって、そのマップルの木材が欲しいという人がいるんです」
「おお!やはり買ってくれる人が!ありがとう、それでその人はどこに?」
「チャロ、ジークさんを呼んできて。町の広場にいるって伝えてね」
「まかせて!行ってくるね」
「たのんだぞー!チャロ」村の人も声をかけてくれた。セレスが村の商人と共に広場で待っていると
「本当に見つけてくれるとは、感謝するぜ。今日から頑張ればレースに間に合う!」ジークは望み通り、マップルの木材を手に入れられて嬉しそうだった。村の商人と別れた後
「そうだ。お前たちはこの後どうするんだ?」
「あの人と一緒にゴド村に戻ります。ですが、風祭までは商売をしたいらしいので終わったらまた落ち合おうということになりました」
「そうか。じゃあわしの風乗りレース見に来てくれよ!応援よろしくな!」そんな話をしていると、街の奥から
「きゃあああ!だっ誰か助けて!」という声が聞こえてきた。
「どうしたんだろ?」
「わしが様子を見てくる!二人ともその場にいろよ!」
「私たちも行きます!」
「危険だ、気持ちはうれしいがもしものことがあっちゃならない」
「僕なら戦えるよ!」
「チャロか、まあいてくれるに越したことはないが、いや、こうしている時間が惜しい!二人ともわしの後ろにいろよ!」こうして三人は声のした方へと向かっていった。
セレスたちがやってくると、そこにはこの前から夢で現実でセレスの前に現れていた不気味な手が街の人に襲い掛かっていた。
「!あの手!!」
「僕たちを襲ってきたやつだ!」
「おい!そこの変な手みたいなやつ!耳ついてるのか知らねえがその人を離せ」不気味な手はジークにかまっていない。
「聞こえないのか、それとも無視してるのか。いずれにしてもそっちがその気なら遠慮はいらないな!」ジークは鮮やかな剣さばきで捕まっていた女性を解放した。女性を取り逃がした不気味な手は反射するかのようにジークを捕まえようとしてくる。
「女が目当てじゃないのか?いずれにしてもそんなゆっくりした動きじゃ、まだまだだな」ジークは左手に魔力を込めた。クラフスクの街の風が、ジークに力を与える。
「食らえ!<ウインド>!」うかつに触れてしまえば切り裂かれてしまいそうな風の渦が不気味な手に襲い掛かる。不気味な手はジークに触れることすらできず、伸びてきていたあの靄の中へと逃げ込んでいった。
「ちっ逃がしたか。怪我はないか?」捕まっていた女性の方へ行くジーク。
「ねえ、なんであの手が出てきたんだろう。前に会ったときはカルデロの森の中でも特に深いところだったのに、」
「わからない。あの手もどんどんいろんな場所に出てこられるようになっているのかも」しかし、結局何の役にも立てなかった二人は、ジークにそのことを謝った。
「え?本当に助けてくれるつもりだったのか?大丈夫だよ、まだまだそこまで老いてないって!」とりあえず今日は帰れないためマップルで稼いだお金で街の宿屋に泊まることにした。
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