第4話 不気味な夢

 院長が手伝ってくれるとはいえ、セレスがぼんやりしているわけにはいかない。まだまだ自分で探さなければ、めげずにより多くの人に聞き込みをする。しかし、聞いても聞いてもまるで情報が出ない。めげずにほかの人に当たっていくとついに有力な情報が

「ああ、さっきうでに何かを抱えて抑えながら男の人が修道院の裏のほうに行ったよ。けどあそこはちょっと怪しいというか物騒だから、お嬢さんあんまりいかないほうがいいんじゃないかい?」しかし、セレスにとってそんなことは問題ではない。チャロがいなくなるほうがよっぽど物騒というものだ。せっかく舞い込んできた情報が偽物であることを願いながらセレスは修道院の裏側へと向かった。

 修道院の裏手が暴力沙汰の格好の場所だなんて神に泥を塗る行為も甚だしいものである。男に連れてこられたチャロはそこに縛られ捕獲されていた。

「何するんだ!これをほどけ!」必死に訴えるも男は知らんぷり、チャロも当然こんな目に合うのは初めてだ。ただただ叫ぶことしかできない。

「無駄だ。ここは、修道院の表からかなり離れている。お前が叫んでも意味ないんだよ」

「そこまでです!」そこにチャロのよく聞いた声が聞こえる。

「まさか、ここまで来るとは、」少したじろぐ男、しかしその態度はすぐに豹変した。

「ほんとに来やがった!ガキのくせに随分と探しただろ?こっちはお前を連れてくる手間が省けて助かったぜ!」その声、セレスにはなんとなく心当たりがあった。

「あなたは、今朝私に話しかけてきた」

「俺のこと覚えてたのか?嬉しいね」そう言うと男はフードを脱いだ。するとやはり朝話しかけてきた人だった。

「どうしてこんなことを、いえそんなことよりもさっさとチャロを離してください!」男はそんな言葉に耳も貸さない。かわりに

「おいおい、こりゃ上玉だな」

「しゃべる竜ってのも珍しいが、こいつはいい。売りに出す前に俺たちでまわそうぜ?」陰からさらに二人の男が現れた。セレスも杖を使って振り払おうとするも、当然勝てるはずもなく、あっという間に倒されてしまった。

「大人しくしとけばいいのによ。まあそう言う女。結構好きだぜ。ここからどんどんダメになっていくさまもなぁ!」リーダーと思われる男がセレスの体に触れようとしたとき、背後から魔法が飛んできた。

「やはりここだったか。それにしても君、よくここにこれたね。聞こえてきた話じゃ私が男だからしっぽ出さなかったのか?だとしたら餌を見つけてがっつきすぎだな」

「フ、フーガンさん」フーガンは男たちに語り掛ける。

「なあ、不思議だと思わないか?こんなに大きな修道院だ。それなのにここまで隠れて何かするためにおあつらえ向きの場所がある。まるでここで悪事をしてくださいと言わんばかりにな」

「まさか」

「ここはそうなってるんだよ。お前たちみたいなやつを探せるときに迷わないようにな。穴場になってるんだろ?」

「くっ、神父風情がいきがるなよ!俺たちは盗賊だ。てめえ一人やっちまうくらいどうってことねえんだ!」そういって切りかかる男たち。しかし、フーガンの前では赤子同然あっという間に倒してしまった。先ほどは見えていた魔法もあまりの早業だからだろうか。その軌道すらセレスには見えなかった。すぐさま魔法の鎖を作り彼らを捕縛する。そしてセレスたちのもとへやってきて

「大丈夫かい?ひどいことされたのか?」

「い、いえ、私ただ怖くって」

「そこの竜が君が探していた子だね。にしてもしゃべる竜とは珍しい。君も大丈夫かな?」

「僕は大丈夫だよ」

「そうか、君の話を聞いて私はすぐにここを見に来た。しかしその時にこいつらはいなかった。私の気配に勘づいていたんだろう。君みたいな若い女の子を使わなければネズミすら捕まえられないとは。本当に怖い目を合わせてしまったね。私の力不足を許してほしい」

「だ、大丈夫です。はい」こんなことされたこともないセレスは、今はただ起きたことに呆然としている部分が強かった。セレスたちに謝意を伝えたフーガンはとらえた男たちのもとへやってきて、

「お前たちはここの騎士団に引き渡す。下劣な貴様らにふさわしい罰があるだろうな」

「てめえ」

「お二人はこちらにここからすぐに出ましょう」セレスたちはフーガンに連れられて修道院の表のほうへと出てきた。

「さっきはありがとうございました」

「いやいや、こちらの不手際で嫌な思いをさせてしまって二人には本当に申し訳ない」荷物を持って帰ろうとしてきたとき

「あ、雨」

「これはひどくなりますね。お二人はどちらの出身で?」

「ゴド村だよ!」

「時間も遅いです。今日は大修道院の宿舎に泊まっていってください」本当に今日はどっと疲れた。早く帰りたいところだが、そうもいっていられない。今日はここでゆっくり休んでいこう。そう思った二人はフーガンに言われた通り、一日ここに泊まることにした。夕食の際、

「そうか、今日はミナモさんいないから二人で挨拶か」

「いただきます」二人は手早くご飯を食べ終わり、大浴場を借りて、ベッドで眠りについた。

 その夜。セレスはカルデロの森にいる夢を見た。今までの時とは違い暗く冷たい森。そこを歩いていると突然、あの不気味な手が現れた。慌てて逃げるセレス。必死で走っているにもかかわらず、どんどん距離が詰まっていく。森の中のとある木に差し掛かったところでついに捕まってしまった。次の瞬間、闇の中からいくつもの手が伸びてきた。手たちは次々とセレスにつかみかかり、靄の中へと引きづりこもうとする。それでも何とか逃げ出そうとしていた時

「はっ!」何とか目が覚めたセレス。なんだか最近恐ろしい目に合いすぎている気がする。不安になったセレスは隣で眠っていたチャロをぎゅっと抱きしめた。鱗はひんやり冷たいが、体温が伝わって次第に暖かくなっていく。セレスにとって子供からのリラックスできるものの一つだ。若干チャロが苦しそうな時もあるが今日はそうでもない。自分だって危険な目にあったのにぐっすりと眠っているようだ。本当にあれは何なんだろう。明日帰ったらまたミナモに聞いてみよう。そう思い、セレスは目を閉じた。

 翌朝、セレスは腕の中で暴れるチャロに起こされた。

「もう!苦しいってば!」

「ご、ごめん」

「昨日のこと?」心配そうなチャロ。

「ううん、それじゃないの。良薬草を取りに行った時の不気味な手が夢に出てきて、しかもその時は一つじゃなくていくつも」

「あの手がたくさん夢に?そんなの耐えられないよ。起きた時、僕のこと抱きしめてたのはそういうことだったんだね。昨日もどっか行っちゃってほんとにごめん」

「ホントだよ!すごい心配したんだから」

「うぅ、」

「とりあえず、昨日帰れなかったし今日こそ帰ろうね」

「うん!」二人は荷物をまとめ、グィラベゼロ大修道院を後にした。帰る前にフーガンにお礼を言おうとしたのだが、修道女さんから、早朝、どこかに行ってしまったと言われ、ひとまずお礼の手紙を書こうということになった。

「晩ごはんと朝ごはん、ミナモさん一人で食べたのかな。寂しかったかもね」

「私があの家に来るまでは一人で暮らしてたみたいだし、大丈夫とは思うけど、寂しがっていたらなんかうれしいね」参道からそれた道でそんな話をしている二人の前に、一匹の猫が現れた。

「かわいい!カルデロの森に猫なんていたっけ?」セレスが近づこうとするとチャロが突然

「セレス危ない!そいつから離れて!!」その瞬間猫がいきなり巨大化し、セレスに襲ってきた。

「きゃあ!」かろうじて避けるセレス。村まではもう少し距離がある。こいつを倒さなければ先には進めなさそうだ。

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