第3話 グィラベゼロ大修道院
セレスたちは朝食を済ませ、大修道院へと向かう準備をした。
「はいこれ」ミナモが昨日作っておいてくれた良薬草を使った薬を渡してくれた。
「何度も言ってるようだけど、本当に気を付けるんだよ?必ず無事に帰ってきてね?」
「うん、大丈夫だよ」いよいよ準備も終わり、いよいよ出発の時だ。
「それじゃ行ってきます」
「どうか気を付けてね」
「はーい!」
セレスとチャロは、ミナモに言われた通り、参道を出てそのままべゼロ山を進んでいった。すると、
「おやおやお嬢さん。そんなにたくさんのマップルをもってどちらまで?」見知らぬ男に話しかけられた。雰囲気も怪しくなんだか怖い。
「大修道院までこのマップルを売りに行くんですよ」
「おお!そうでしたか!あそこはすごいですよね」急に話しかけられて困っていると、チャロが二人の間に入って
「ちょっと!いきなり話しかけられても困るよ!もしまだ話したいんだったら、大修道院で店を開いたときに僕が聞くよ!」そう言うと男は、
「いやいや、そこまでというわけじゃ、ただの世間話のつもりだったんですがね。それではこれで」そそくさと歩いて行った。セレスとしても初対面で驚いていたため本当に助かった。
「ありがとう。チャロ」そのまま二人は参道を通り、べゼロ山の山頂にある大修道院、グィラベゼロ大修道院へとやってきた。レンビエナ地方の中心であるここは山の上とはいえ、多くの人がここを通る。下手に舗装されていない道を通るよりも、こうした安全な場所を通った方がいいということだろう。おかげでここには修道院の巡礼者以外にも旅人が多いのだ。故にセレスたちも土産物として売り込めるのだ。
「うわー、ここは何度来てもびっくりするくらい大きいね!」歩いているときでも見えるほどの大きさを誇るここは、レンビエナでも随一の巨大建造物だ。500年ほど前に作られたとは思えないくらい柱などは美しく残されている。正面のステンドグラスはかつてこの地を襲った厄災を払ったとされる伝説をもとにしたステンドグラスがあり、こちらもまた神聖さを感じさせるものだ。
「さて、マップルを売れる場所を探さないとね」
「結構早めに出たはずなんだけど、もう大分埋まっちゃってるね」場所取りにはどうやら負けてしまったようだ。とはいえこのまま帰るわけにもいかない。それからも大修道院の前を歩いているとかろうじて残っていた売れそうな場所を見つけた二人。ようやく重かったマップルの入ったかごを置き、一息つく二人。ここからが仕事の始まりだ。
「今日は売りまくるぞー!」チャロが意気込んでいる。そしてチャロは露店の並ぶ場所へと躍り出て
「さあさあ皆さんご注目!ゴド村の名産品マップルが今なら一つ100メリネ!安いよ安いよ!買い時買い時!」と人々の喧騒に負けないくらいの声で宣伝した。
「なんだ?小さな白い竜がしゃべってる⁉」珍しさとお手ごろさにつられてお客さんが続々やってくる。
「記念に1個くれ!」
「うちには2つ!」
「家族への手土産に4個下さい!」どんどん売れていくマップル。チャロの客呼びもさることながら、これだけの客を一度に捌くことができるのは紛れもなくセレスの手腕だ。子供の頃からここに連れてこられてはミナモの接客を見ていた彼女はその技を会得するのにそう時間はかからなかった。マップルもいよいよ半分ほど売れてきたころ。
「すみませーん!マップル4つください!」セレスの前に一人の女の子がマップルを求めてやってきた。ゴド村では見たこともないほどきれいな服に艶がある茶色のショートヘア。そこに赤い花のついた髪飾りがよく似合う女の子だ。
「あのー?どうかしましたか?」声をかけられてはっと我に帰る。
「ごっごめんなさい!マップル4つですね!はい、どうぞ!」
「ありがとう!ゴド村のマップル、弟が大好きなの!お安く買えたし、ここまで遠出した買いがあったわ」
(かわいいな。私もあんなきれいな服着てみたい)住むだけであれば特別不便なこともないゴド村であるが、年頃のセレスにはそろそろおしゃれをしてみたいのだ。大修道院ではさっきの子みたいにおしゃれをした子も訪れており、セレスにとっては憧れの存在だった。しかし、今は仕事中、商品を売ったならまた気持ちを切り替えなくては。
(残りのリンゴも早く売っちゃおう!)そう自分に気合を入れてセレスは仕事に戻る。大修道院を訪れる客足は衰えることがなく、セレスのマップルもほとんどなくなってきたころ、今度は少し不思議なお客さんが訪れた。挙動不審というか、隠しきれてもいないのにしきりに手で顔を日の光から隠している。おまけに
「くっ光が、今日も俺を照らす、」なんて言い出す始末。今朝の事もあってあまりお客さんに話さないセレスもつい、
「あのーご注文は何でしょうか?」そう言うと男は顔を隠していた手をセレスの前に出して
「1個だ」と自信満々にセレスに話した。すぐにお金をもらいマップルを渡す。こういうお客さんが来たときはこちらに何かしてこない限りはとっとと売ってお客さんを回す方がいいとミナモの売り方から学んでいた。
(そ、それにしても不思議なお客さんだったな)なんだか今日はいろんな意味でセレスの目を引くお客さんが多かった。自分一人でマップルを売ることはあまりないのだが、ミナモもマップルを売るときはこんな感じでいろんなお客さんを相手にしていたのだろうか。技術はひとしきり学んできたつもりでいたが、こればかりはセレスが自分の力で解決していくしかない。ミナモほどうまく売れるようになるのはまだまだ先かもしれない。一歩ずつ前に進んでいこう。そうしているうちにマップルは売り切れてしまった。時間的にはそこまでかかっていないはずなのだが、ここに来るまでの道のりよりもどっと疲れたような感覚がした。早く片付けて村に帰ろう。そう言ってチャロを呼び戻そうとしたとき、
「あれ、チャロ?」チャロの姿がどこにも見当たらない。いつもなら終わる前には、いや終わらなくても途中でこっちに来て
「ねえねえ!今どんなくらい売れてる?」と売れ筋をミナモに聞きに来ていたのだが、今日は最初の方に1回来たくらいでそれから見ていない。セレスのほうも仕事を頑張っていたため、客の事ばかりで聞きそびれてしまったかとも考えたが、そんなそぶりを見せれば髪の毛を引っ張ってでも気づかせてきそうだ。以前ミナモが気付かなかったときは耳を引っ張り
「ミギャアーーーー!!」と鳴かせてしまったこともあったくらいだ。あれ以降反省はしたようだが、それでも合図くらいはしてほしいものだ。
やはりおかしい。チャロは珍しい、人の言葉を喋れる竜なんて見たことがない人がほとんどだ。客を集めている隙に何者かに捕まってしまったのかもしれない。
(ど、どうしよう。まずは周りの人に聞いてみなくちゃ、)荷物をまとめたセレスは大修道院にいる人に少しずつ話を聞いていった。しかし、子供より小さな竜の事なんて見ていた人も少なく、情報はまるで集まってこない。どうしようかと困っているセレスに一人の法服を着た男がやってきた。
「どうかしましたか?」優しく穏やかな声で聞いてくる男。
「はい、連れていた竜がいなくなってしまって、白くてまだ子供なのですが、もし誰かに捕まっていたらと思ったら不安で」
「白い子供の竜...ふむふむ、分かりました。私もここの者とともに探すのを手伝いましょう」
「あなたは?」
「おっと、名乗るのを忘れていましたね。私はフーガン。このグィラベゼロ大修道院の院長をしているものです」院長であれば、修道院には顔が効くだろう。今は少しでも人手が欲しい、これ以上の助力は今のセレスにはなさそうだ。
「はい。よろしくお願いします」こうしてセレスは忽然ときたチャロを探し始めた。
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