第73話 残虐なるバーベロア

 残虐なるバーベロア。その名は世界に轟く残虐なる殺人鬼


 五度の死刑。それをくぐり抜けただけの狂人


 彼女は元々とある国に使える貴族の娘だった

 しかしある日、間違えてメイドに剣を刺してしまった

 その時、彼女の中の残虐な悪魔が蠢いてしまったのだ


 彼女の父親がそれを隠蔽したことで彼女の初犯は世界に広まることは無かった

 しかし彼女は知ってしまったのだ


 。彼女は血を浴びるのが好きになった

 魔物、人間、関係ない。彼女はただひたすら血を浴びたくなっただけなのだ


 傍から見れば彼女は異常。本来ならば早めに死んでいるべきだったそれは

 貴族という名分により生きながらえてしまった

 そして世間が初めて彼女の罪を知った時、それは既に幾千人も人間を殺した後だった


 それは許されざることとして、彼女は罪を背負い……死刑を言い渡された


 にもかかわらず彼女は死ななかった。

 いや死ねなかった


 そして残虐なるバーベロアと名前を変えたそれは、死刑すら恐れることはなくなり


 そうして数多の人間を殺す、ただの低俗なる殺人鬼に成り下がったのだ


 彼女は初めに自分の家族を全て殺した


 そして次に刃向かった貴族。さらに従った貴族

 下民、家畜、女子供分け隔てなく。


「私いつも平等に愛してあげるの!!偉いでしょ?」


 そんな言葉で許されるわけが無いほどの罪。ただひたすらに彼女は壊れていた


 神様がいれば、彼女を許すことは無かったのだが……運が良かった


 世界的には運が悪いと言うべきだが


 神様は既に逃げた。そんなことが重なり、彼女はただの殺戮者として世界に無数の恐怖をばらまいた


 そしてカイザーコウキの手で捕らえられた。


 コウキは考えた。コイツに力を渡せばどうなるか

 だが、コウキは役に立たないカスよりも狂っているやつの方がまだ使い道がある

 そう判断したことで彼女は『執行者』になった


 ──皮肉な話だ。執行されるべきものが執行者等という名前の役職を貰っているのだから


 ◇◇




「────だからぁあ!私いぃの気持ちイィいくなる為にいィ?君たちは犠牲にぃなるぅんだぁ!アヒャヒャヒャ!!」


 そう言って肉切り包丁を構えるバーベロア。その姿を見てただ、呆れたようにメリッサはぼやく


「自分が最初にした罪が怖くなったんだろ?罪を罪だと認めたくなかったから快感で塗りつぶす。……それの行き着く先に救いなんてないさ」


「うるさい黙れ!アタシィは!……」


「アリア、下がってろ……コイツはアンタには重すぎる。」


 そういうと刀を引き抜くメリッサ。

 しかしアリアは


「──彼女の罪を裁けなかった私達にも罪があります……だから貴女は私が改めて裁きを下します!」


 そう、彼女はかつてこの国メルバニアの貴族だったのだ

 父親から聞かされていた後悔の一つ

 その中の一つが、バーベロアというものをちゃんと捌ききれなかったこと


 それを裁くためにわざわざここに彼女は赴いたのだ


「……はァ?あーあの時のお嬢様ァ?クカカカ!そりゃいいやァ、さっさとぶち殺してぇてめぇの父親の墓の前の飾りにしてやるわァ!!」


「……やってみるがいいです、既に私はあの時のような幼い、ただ見ているだけのお姫様ではありません!!」


 その目には確かな覚悟が宿っていた。


 それを見て改めてメリッサはなぜ自分がこいつの相手を任されたのかを理解する。


「……ったくめんどくさいこと押し付けてくるなぁ……エイル……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る