第69話無知無知な無知

 無知……それは何も知らないこと。意味の通りのただの言葉


 されど無知というのは不可能なことである。人は生物として生きている以上、必ず何かしらの知識を獲得してしまうものだ


 そのうえで、それを誰にもひけらかすことなく無知で居続ける……まぁまず不可能だ


 執行者が一人、『無知なるグリムビル』


 彼は自らを無知、と名乗ってはいるが……それはあくまで彼の持つ特殊な魔法適正によるものだ、本質的な無知ではない


『無知なるグリムビル』は魔法を全て扱える。いわば、万能の天才と呼ぶべき存在だ


 彼は元々宮廷魔法使いだったが、ある時王様を殺害した罪により……罪人に落とされた


 まぁ最も、それはただの事故だったのだが……このグリムビルは変人で名前が通っていた。奇人変人、そういった類のものは決まって犯人に祭り上げられてしまう


 ましてや、宮廷魔法使いなどという沢山の人々から羨ましがられる職務についているもののヤラカシなど当然……世間からの非難を浴びせられるわけで


 しかしこのグリムビルはイカれていた。自ら大々的に捕まることを選択し、その際にその場にいた全ての愚かなる民たちを消し炭にしたのだ


 そうして彼はその強さをコウキに認められ、執行者としてさらなる権限を与えられたのだ


 彼の特殊能力、それは『魔法の自動学習』というものだ。目の前で使用された魔法しか使用できない代わりに、どんな魔法ですら使用出来るという体質


 魔法使いは魔導書グリモワールを持ち歩く物だ。しかし、彼は彼自身が魔導書グリモワールだ。故に彼はありとあらゆる魔法を、見るだけだ使えるようになる


 ただし、魔法の記憶が持つのは実に『1日』だけであり……故に彼は次の日には全ての魔法を忘れることとなる

 それこそが『無知』と呼ばれている所以だ


 だが、彼はその部分を『神器』により補うことができるようになっている

 それこそが神器『万能魔道書パーフェクトグリモワール』というもの

 これは頭の中にイメージしたものを直接魔法として打ち出せるというもの


 それ故に彼は魔法を1日しか記憶できない欠点を『その場で作り出す』という方法で解決していたのだ


 魔法とはイメージの世界である。魔法はイメージ……自らの想像力に左右されるものだ


 例えば、星が砕ける様子を見たことが無い人は星を砕く魔法など使えないし


 例えば、炎を見たことがなければそもそも炎魔法を使うことは不可能だ


 魔法とはそういった特徴がある




 ◇◇



 ではなぜ長々とこんな話をしているのか、について……ひとつ解説しておこうか



「……あれ?僕のイメージ的にはまだまだ立ち上がってくると思ってたんだけど?」


『ふむ、もろいなこいつは』


 ───場所はとある街の一角


 図書館にて繰り広げられたオーディン&モーガンと『無知なるグリムビル』の戦いの最中


 魔導書が大量に保管されている魔法図書館の中で、魔法を撃ち合うこととなったのだが


「……それで、こいつらのどこが脅威なのさ?……僕的にはさっさと片付けてここの本を丸暗記しようかと思っていたんだけど」


「…………貴様ら……はぁ……はぁ·····はぁ·····案外、やる·····じゃないか·····」


 そう薄ら笑いを浮かべながらも、額には脂汗を滲ませるグリムビル


「(クソ……こいつ、はは……途方もなく強い……!)」


 グリムビルは既に追い詰められていた。うっすらと自嘲気味に小笑いしたあと

 改めて今の惨状にため息を盛大にこぼす


「……どうしてこうなった」


 ◇◇


 時はコウキと別れ、エイルとやらを倒すためにどんな魔法戦略を立てるべきか考える為に図書館で計画表を立てていたところなのだが


 突然彼の頭の上から魔法の弾幕が流れ星のように落下してきて

 それを交わした先でさらに幾千もの魔力弾がこちらを襲ってきたのだ


 咄嗟に防御はした物の、神器の発動中でなければ即死だったぞ?と脂汗から冷や汗に変わったそれを拭う


「……ここは図書館だぞ?……!」


 そうは言っても相手は殺すつもりのようだ。しまった誰かと来ていればまだ勝機はあったのかもしれないが

 あいにく執行者達は皆自分勝手な奴らばかりだ

 彼のしたうちは、広々とした陰鬱な図書館の隅から隅までびびきわたる


「……君たち、名前だけでも教えてくれないか……な?……」


「え?嫌だけど」


『この人の名は「モーガン」ですぞ?!』


「ちょ、いい加減にしてくださいよ!?オーディン様!……毎回僕の名前を勝手に叫ぶじゃないですか?!」


「……モーガンとオーディン……覚えたぞ……そして油断したな!」


 即座に彼は転送ゲートを開き、その場を後にする


「?!まさかオーディン様結界作ってないんですか?!」


『やっべー忘れてもーたわ、まぁなんとかなるやろ?知らんけど……』


「古語で喋らないでください、困惑しますので……それで?どう為さるおつもりで?」


 オーディンは深く考えるでもなく、ただの気まぐれのように


『まぁ……奴がどこに居なくなったかぐらいはわかるからね、それならば奴が罠にかかっていく様を見届けるサブスクライブを始めた方が楽しいだろう?』


「……悪趣味ですねやはり」


『神とはそういうものだからね!』


 そう言って、ニヤリと笑った。


 その笑みは彼がしっかりとラスボスの一体である事を証明していた


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