第67話 敬虔なるカルカルラン
『敬虔なるカルカルラン』は異質な僧侶だ。
優しさが欠けている、それだけじゃない
恐怖心が欠けているのだ。
───そう。恐怖心が欠けているだけなのだ
人は本来、誰であろうと恐怖心を持っている物だ
それは元来人間が保有している一種の防衛措置である。それを無くすと人は人の道を外れるわけだ
◇◇
故に『カルカルラン』は強い。しかしそれは言い換えれば
化け物には勝てない。
◇◇
「……ワタクシはカルカルラン!!貴様らは神を信奉致しますかなぁ?!」
「ふむ、案外ただの馬鹿と言いますか……残念な話ですね……こいつは信徒には向いていません」
『ソウネ』
「オヤオヤ?ワタクシをバカにしていらっしゃるのですねぇ?!いいでしょうワタクシが相手して差し上げましょう!!……そう、このワタ」
「──
一条の光の剣が刺さる。否、その後ろの空間事吹き飛ばす
腕が消し飛ぶ。それに合わせて傷跡からは大量の血が飛び散る
その光は征伐の剣。─命を刈り取る神からの誅罰
「────は?」
カルカルランはこう思っていた。エイルまでは前座だと
実際のところ、カルカルランの油断が命取りとなっていた
まともに戦えば、それこそ……ローランぐらいでは勝てなかっただろうし、異世界人に対する特攻道具の『神器』を使えばそれこそ終末世界に飛ばされる前のリイチぐらいなら余裕だったであろう
だが、相手が悪かった。それしか言えない
神に人が勝てるわけが無いのだ。それと同じ存在のラジエルになど、到底勝てるわけがなかった
実際のところ「ラジエル」はエイルでさえ悪魔の力を手に入れてから実に100年の戦いをせざるを得なかったほどには強い
「ひ、ひいいい?!!わ、ワタクシの腕、腕がぁ?!」
「おや?聞いていた話と違いますね、恐怖心がかけているのでは無かったのですか?」
微笑む
ただの微笑み。それすらもカルカルランを恐怖のどん底にたたき落とす
「(な、何故だ?!ワタクシには恐怖心がかけていたはず、それなのに今私は恐怖しているッ!)」
「まあ当然でしょう、天使とはこういうものですから」
「ひ、ひいいい?!じ、神器!解放!……」
先程吹き飛ばした身体の欠損が修復される。おそらくは回復系の能力であろうか
「……ぐふふふふ!今のワタクシは貴様らの攻撃では倒すことは出来ぬぅ!我の力は『超再生』!貴様らごとき、神を、天使を名乗る不届き者には罰を与えねばなら」
「ふむ、『
先程と同じように放たれた剣が身体を吹き飛ばすが、先程とは異なり即座に肉体が復活する
「くははは!見ろ!我が肉体は不滅ッ!先程は失礼をした!いやいや今のワタクシならば貴様らに遅れをとることなど……ありませぬナァ!」
ラジエルは呆れたような顔をしたあと、一言だけ囁く
「───光あれ」
と
平原に光の柱が生まれる。それは半径100メートルを消し飛ばす
先程放った剣とは比べ物にならない程の圧倒的な一撃。
しかしそれすらもカルカルランを倒すことは出来なかった
「───ふむ、めんどくさいですね」
「──ゥ……バハガアダアナタハア!!……はァはァ……ワタクシはその程度の攻撃では倒せませ」
「────『
赤と黄色の光の剣が平原に穴を穿つ。
そのうえで、まだ生きていることを確認してにっこりとラジエルは笑う
「サンドバッグにはちょうどいいですね……この下等生物は」
『……アキレタ、サッサトオワラセロ』
「はいはい分かりましたよぅ……『
◇◇
天使は終末のラッパを鳴らすもの
それは世界の終わりのただひとつの結末
天使は人を助けるものでは無い。むしろ、神の意思により世界を壊すべきだと判断されたその時より……天使は罪を洗い流すただのシステムに成り下がる
神はその決断をまるでトランプ出できたタワーを壊すように、積み上げたものを崩すように
バベルの塔が消え去ったように
なんの躊躇いもなく壊すのだ。そんな権利はない?いやいや
製作者には壊す権利があるそれだけさ
流石にここはラジエルのいた世界では無いが、それでもこの程度の雑魚などその光だけで消し飛ばせる
そう。それだけだ
◇◇
ジャッジエンド。その光が放たれた瞬間、カルカルランは祈った
神様に必死に祈り、そして叶わぬことを知り……倒れ伏せる
彼は別にそこまで悪いことをしてはいない。しかしそれなのになぜ?
彼は不思議で仕方が無かった。なぜ、なにゆえ自分は死ぬのか、私の罪は何だ?なんなのだ?と
それをもしラジエルが聞いていたら、躊躇いもなく言っていただろう
「────この世界の人は生まれた時点で罪を背負っていますから、罪から逃れることなど不可能なのですよ?」
と。
────結局、カルカルランはその名を告げるまもなく散った。
それは彼が弱かったからではない
エイルが言った通り、オーバーキルだったに過ぎない
◇◇
『アイカワラズ、テカゲンヘタネ』
「ふん、よく言いますよ……私が仕留めなければあなたはここら一体を狂気で染め上げて二度と生命が生まれることの無い空間を作るところだったでしょうし」
ニヤァ……とアザトースは笑う
その笑みの中には、宇宙がチラチラと見えていた
二柱のラスボスはその場を後にする。
残されたのは、地平線まで焼け焦げた平原だけが残されていた。
そしてその平原もまた、祝福を失い、ボロボロと崩れて行くのみであった
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