第60話 九門流
ここで九門一刀流について話そう
戦国時代が終わりを告げ、人々は刀で強さを語れなくなりかけていたそんな時の事
とある一人の武士が素っ頓狂なアイデアを思いついたことが始まりである
その武士は自分たちの刀の技が廃れてしまうことを恐れ、廃れてしまうぐらいならばひとつに纏めあげてしまえばいい
そう考えたのだ。それは紛れもなく狂人のアイディア
普通、流派が違えば考え方も人間性も異なる訳で……当然そんな愚かな提案を受け入れてくれるものなどいるはずが無かった
だが、彼の熱意に絆された八人の傾奇者がいた
集まった彼らは新しい流派の門を開いた。それこそが『九門一刀流』である
おそらく中には人間以外の存在もいたのだろうが、それらは手を取り合って自らの手にした奥義を改良し……流派の奥義へと変化させていった
その結果、九門一刀流には九つの奥義が記されることとなる
時は流れ現代。
一大勢力として歴史に名を残した九門一刀流は既にある程度堕落していた
権力に溺れ、刀を極めることを捨てるものすらいた
そんな最中に九門詩織は生まれた
彼女は九門の名のとおり、由緒正しき九門家に久しぶりに生まれた子供だった。
彼女が生まれた時、九門家の人々は皆ガッカリしたそうな
「はあ……女かよ」
と。
そう、九門一刀流は男のための武芸であったのだ
江戸時代から続く血筋に、九門の名を継いだ女はいない。故に九門家の人々は彼女を捨てるつもりでいた
しかし九門詩織は狂っていた。
彼女は小学生になったある日、道場破りをしたのだ。
それも、九門一刀流のである
彼女が行った行いを見て、九門一刀流の門下生は腹を抱えて笑ったしバカにした
そしてそのバカにしたものたちは誰一人として刀を振るうことが出来なくなった
小学生の体躯にもかかわらず、彼女は大の大人をなぎ倒していったのだ
5人まとめて斬り倒したことすらあった
彼女は木刀でありながら、真剣を持ち出した門下生すら叩きのめした
こうして誰も勝てなくなったことを確認してから彼女は九門の名を継いだ
そのことを彼女は特に自慢するでもなく
「──ええ、当然のことです」
さも当たり前のように話したのだから
そして彼女は継ぐなり門下書を全て焼き払った
唖然とするもの、泣き叫ぶものもいたが一切を無視し彼女は全てを焼き払ったのだ
そして彼女は再び作り直した
というのにはいくつか事情があった。それは、九門一刀流は男性を前提とした剣運びを基礎としていたのだ
それは時代にそぐわな過ぎる。それだけなのだ
そして彼女は奥義に関してもいくつか改良を施した
元々九門一刀流の奥義は九雷満天であった。
一太刀の間に九つの斬撃を放つという、明らかに人外でなくてはなし得ない技
それ故にかつての九門一刀流の開祖たちはこの技を奥義としたのだ
しかし詩織から言わせて見れば
「───この技、九雷満天……ですが1番最初の技にすべきですね」
「はぁ?!い、いくらなんでも百年もの想いを無下にするなどいくら貴方でも」
と、まあ当然のように配下のものがブチ切れていたが……彼女は無視して書き直させた
というのは、この技は
「───普通に考えてですが、九つの斬撃を放つことに全てを尽くしていては、斬撃一発事に込める力が減衰してしまいますから」
彼女の理論はこうである。
九つの斬撃を放つ事に全てをかけた結果、威力が引くほど弱くなってしまっている。
こんなものを奥義として放つことは全くと言っていいほど無駄であると
かつて先人達がクライマックスという言葉をもじり、名付けた『九雷満天』はこうして最初の奥義へと変更された
それに伴いそれ以外の技も全て順序が逆になっている
元々の一ノ門……つまりは初級奥義であった『一刀両断』は、最終奥義へと入れ替わったのである。
◇◇
話は異世界に戻る
さて、アフォガートは様子見をしながらもこの女の強さを見極めようとしていた
だが、その余裕は徐々に無くなっていく羽目になる
先程から適当に放ってくる、九つの雷撃。交わしたりいなしたりすること自体は容易なのだが、如何せん接近ができないのだ
あまりにも隙が無さすぎる。
アフォガートはため息を吐き出し、手に握っていたピストル……いや、リボルバーマグナムを構える準備をしようとしていた
本来、神器を解放すればこんなやつなど余裕なはずなのだが……神器はリキャストにかなりの時間を要する
その間に他の執行者に手柄を立てられるのは不愉快極まりない
そんなことを考えていた。
ちなみにであるが、九門詩織は子供が好きだ
アフォガートは気がついていなかったが、風を読むというアフォガートのスキルを封じるために、彼女はところ構わず九雷満天を放っていた
そう、全ては建物を破壊するためにわざと放っていたに過ぎない
実際九門詩織からはアフォガートは目を話せなかったが故にあまり気がついてはいなかった
そしてそんな少しのズレは命取りとなる
「おっと危な」
「──捉えました」
先程のように回避しようとしたその瞬間、彼女の刀がアフォガートの腹を貫く
先程までの余裕は一気に吹き飛び、冷や汗がダラダラと流れ始める
まずい。クソ、しくったか
アフォガートは慌てて神器を解放せざるを得なくなってしまった
だが、このアフォガートと言う男もまた……曲者ではあった
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