第59話 老練なるアフォガート
余裕な仕事であるなぁ。と男は一人ほざく
白髪の老人、見た目は紳士のようなそれは。彼の中身を隠す良い蓑となっている
執行者たちは基本一人で動く、それは自らの強さに自信があるだけではなく……戦い方の方向性の違いと言うべきだろうか
人間を利用した戦い方を好むものもいれば、正々堂々を装い、騙し討ちする奴もいる
では彼はどうなのか?それは彼の獲物を見れば分かるだろう
「ルー〜ルールーーおやまだ足掻くのですか」
彼はいつもの通り、片付けるべき仕事を終わらせていた
彼が獲物にするのは基本、女子供だ。彼は弱いものをいたぶるのが趣味であり……彼の老練なる見た目に騙されたモノを目の前でいたぶって殺すのが日課となっていた
そんな彼は片付けた女の子死体を川に投げ捨て、いつものようにバーに向かおうとしていた
「しかしあの、リイチとか名乗る男を始末せねばならぬとは……全く儂の趣味じゃないのだがなぁ……」
男はカイザーの手前喜んでいるふりをしていたが、実際にはあまり乗り気ではなかった
だが、奴の仲間に女子供がいると聞いて少しだけテンションが上がったので……まあ仕方なく仕事を引き受けている
身の丈の半分程のぎざぎざの刀、そしてピストル
彼は異世界から来た人間から奪ったこの銃をこよなく愛していた。
自らは安全な位置から強者をいたぶる。その感覚は年老いた彼にとって想像以上に生きる気力を与えていたのだ
「ふむ、……しかしやつの城は山奥だと聞いている……全く、面倒だ……」
わざわざ奴の本拠地に殴り込むほど、男は馬鹿ではなかった。
そしてそれ故に、どうにか誘い出さねばならないと考えていたのだが……ひとつ面白い案を彼は閃いていた
それが、奴の城の近くに死体……それも幼子供ばかりの死体の山を作り出し……それにつられてきた正義感の強い女を狩る
間違いなく外道と呼べるそれを彼は天才的なアイデアだと思い、実行していた
少なくとも話を聞くに、リイチと名乗る男はこの程度には出てこない……それほどまでに冷血な男だと聞いている
だが奴の仲間はこれに反応するかもしれない、そうすれば好都合だ
そのためにまず彼は修道院を襲う事にした
◇◇
「こんにちは!おじさん何か用でしょうか?」
ランサス法国の一角……人里離れた場所に位置するブルー修道院
ここには身寄りのいない孤児と、女子供がたくさん集まって暮らしていた
そこをアフォガートは紳士のような微笑みを見せながら訪れる
「おや、皆様……ああすみません、私はアフォガート……あなた方の主人を呼んできては貰えないでしょうか?」
わかったよーとかけていく
しばらくすると、ガタイの良い男……おそらくはこの修道院の院長と思わしき人物がゆったりと歩いてくる
「すみませんお待たせしてしまって……私はガバーニル……ここブルー修道院の院長をやらせていただいております」
ふむ、武装はメイスだけか。一応防具の類はしてはいるが、チェインでは無いな
「おや?子供の方ばかり見て、どうなさいましたか?」
「すみませぬなぁ……子供を見るのが久しくてのぉ……儂はこういった子供たちの未来を切り開くことを生業としているものなのです」
「未来を切り開く……それは崇高なる思想の持ち主なのですね、……それでこの度は如何様で?」
「ふむ大したことでは無いのですが……えぇ、大したことでは無いのですがね」
そういうと、腰に吊るしていた刀を閃かせ……男をなます切りにする
熱したバターのように、刀の刃が触れた瞬間……その肉体ははらりと切り落とされる
「え……」
崩れ落ちる男を蹴り飛ばし、何が起きたのかを理解できない顔をしている女をぶった斬る
一人、二人、三人、沢山
「ひっ!か、神様!」「だ、誰か?!」
神に祈る者も、立ち向かおうとするものも
皆、等しく切り刻まれてゆく。
その中には輝かしい未来があった者もいたかもしれない、夢を持っていたものがいたかもしれない
普通ならば、それらは守られるべきものだ。
神がいれば救いがあったかもしれない
だが、そんなものは無い。
むしろ神に祈る姿は彼の的になるだけだったのを加味すると、頑張って逃げ切れば良かったのかもしれない
それからしばらく、修道院の内部では生々しい音が響き渡り……それが収まった頃
血に染った服装で出てくるアフォガートの姿があった
「全く、神を信奉すものは厄介ですなぁ……悲しい程に悲鳴をあげ無いのですから」
誰も悲鳴を挙げなかった。いや、小さく悲鳴をあげてはいたが、それらは彼の斬撃音にかき消されてしまっていた
「次からは修道院は狙うべきではなさそうですなぁ……」
そう言って彼は刀の血を振り払い、しまう
まあここで手に入れた死体を利用して、おびき出せば……更なる悲鳴をあげてくれる輩が釣れるかもしれない
彼はそんなふうに呑気に考えていたのだ
◇◇
しかし、ひとつ彼は知らなかった
血が流れすぎた場所には、一人の風来坊がつられてしまうということを
◇◇
「む?誰かつられてきたのか……まあそいつが女ならば尚良だがのぅ……」
そう言って修道院の扉を開けた瞬間、彼の肉体は壁に吹き飛ばされる
「ーーーーッ?!」
残雪の残る修道院。その扉の向こうには
一人の化け物が立っていた
「……おや、何やら血に飢えた者……戦いの匂いがして釣られてきてしまいましたが……どうやら人間はいなかったみたいですね」
「っぅ……貴様何者だ?……その身なり、まさか異世界か?」
「ええ、そうですね……その表現で間違いはありませんよ」
なるほど、関係の無い異世界人がつられてきたのか。全く異世界人は自らを強いと勘違いしているからこういったことがよく起きるんだよなぁ
「……それは失礼致しましたなぁ……いやいや……しかし、儂を人間と換算していないような発言は心底、いただけませんなぁ」
「事実でしょう?少なくともあなたのようなカス野郎には、すぐに死んで頂かなくては」
その発言をするということは、こいつは自らの強さを過信している。
ふん、またしても殺りやすい獲物が来た
しかし残念なことにこいつは儂の趣味とは少しそれてしまうが……まあ良い
「……そうか、ならばその発言……地獄で後悔するといいがなぁ!」
こうして、雪の降る修道院の中で……二人の化け物が戦いを始めた
「貴様名前は!……」
「そうですね、名乗れと言われたからには名乗りましょうか、私は『九門 詩織』……そうですね、異世界人です」
「──儂の名は『老練なるアフォガート』!貴様のその肉体で新たな餌を釣り上げてやるものだ!」
「?不思議な方ですね、貴方の名前など興味もありませんし……そもそも名乗れと一言も言っていませんが?」
だがひとつ、言っておくべきだろうか
この時の九門詩織はブチ切れていたという事を
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