第56話 決着
ベルゼオークは元来臆病な存在だった
蝿の王と呼ばれるベルゼブブが魔王バレンタインの手で虐殺される瞬間を見てしまっていたからである
さて、ベルゼオークと名乗るようになってからもその臆病さは消えることは無かった
誰かから逃げるために。魔法を使い、戦いをしたくないから誰かに任せ続けていた
その為だろうか……彼女は回復やサポートに特化しているのだ
それはともかく、直人と言う存在は彼女にとってかなりのものとなっている。
臆病であること、逃げ腰だった彼女を見抜き……そんな彼女を戦えるように諭したのだ
ベルゼオークはこうして立ち上がった。
バレンタインを襲撃したのはもちろんベルゼブブの敵討ちのつもりだったのだ
だが、最悪なことに彼女は優しかった。故に殺し切れるほどの覚悟もなかった
そしてその一瞬の隙をつき、バレンタインは逃げたのだ
◇◇
「……クソ!ま、まただ!私は負けてない!」
立ち上がるベルゼオーク。そこ目掛けてレヴィアは血の槍を投げつける
「ッ!『魔力障壁』!!その程度か!……私を倒すには威力が」
「リバース、ブラッドメルトアウト」
血が巻きもどる。障壁に刺さった血の槍が空中で回転し、それが再び突き刺さる
「……?!ぐぅ?!」
当然その攻撃に対応できるはずもなく、一撃で障壁を叩き壊されてしまった
本来の彼女はここまで強くは無いのだが、エイルに力を引き出された反動か分からないが……彼女はほぼ完璧に血魔法をコントロールできるようになっている
「血よ、我が手に集いし血の花弁よ、我の道の前に立ちはだかるモノを切り裂く絶対なる剣を生み出せ!『
「────『
赤い斬撃と青白い魔力の壁がぶつかり合う。その拮抗を一言で表す言葉はおそらくこの世に存在しないのだろう
だが、それでも力量にも自力にも差がありすぎた。
「──────ッ……ああああああああぁぁぁ!!!!」
最早風体など気にする余裕すら無かった。
死ぬ
死ぬッ!
死の恐怖は彼女を捉えて離さなかった。ゆっくりと血の刃が自らに迫ってくる
それだけでベルゼオークの体がすくむ。
だが、逃げることなど出来ない
「っ……クソ!がァァァ!!!!」
赤と白のぶつかり合い。それを制したのは、赤の方だった
「…………勝ちました、私の勝ちです……イェイ」
「それは良かった、で?……こいつはどうする?」
いきなり戻ってきたエイルにびっくりして慌てふためくレヴィア
「……エイル様?!……い、イェイなどという言葉は言っては」
「無理があるってそれは……まあいいか……さあてベルゼオークちゃん?」
ほぼ瀕死のハエ。それにエイルはゆっくりと話しかける
つつくと、辛うじて体が反応していることを考えるとまだ死んではいないようだ
「……レヴィア?こいつを殺すかどうかは君に任せる……」
「ペットにします」
「っ……おう、即答か……まあいいよ?こいつ自体もうほとんど害意は残っていないしな」
「では帰りましょう、エイル様……流石に力を使いすぎて眠くなってきました」
「……はいはい」
俺達は城に向けて帰る用意を始める
ウッキウキでペットにしたベルゼオークを抱えて笑顔を見せるレヴィア
その様子を見て、少しだけ嬉しそうな顔をしているバレンタイン(父親)を俺は眺めつつ
顔出せば良いのに……という言葉が出かかるが……そのことに気がついたのかバレンタインさんがシーっと言う顔をしたので……俺は黙ることにした
まあ父親の気持ちは分からんが、嬉しいのだろうな……うん
久しぶりに城に帰ってきた。
と言うかここ数日城を開けっ放しにしすぎていたし、なんか嫌な予感がするから早めに……
「…………えっとさぁ…………どうしてこうなった?」
城の中は水浸しであった。
そしてその水の原因を眺めつつ俺は顔を伏せる
「……どうしてビーチが城の中にあるんだよォ!!!」
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