第55話 異世界聖戦③─VS内田 直人 急

 化け物、か


 まあそれは否定しないし、否定できないな……と俺は諦める


 もし俺が相手の立場ならば間違いなく化け物と言っているだろう

 だが、それはそれとして


「元クラスメイトの事を化け物とか呼ばないでくれるかなぁ!」


「事実だろうが?!」


 ダッシュ&アッパー。もちろん拳に波を添えて

 今の一撃をくらったことで直人の体が宙に浮く

 さらにそこに目掛けて俺は蹴りを入れる。もちろん波を纏わせて……ね


「っ……!クソっ!」


 ある程度は手加減してはいるが、それでも一撃ごとに体が吹き飛ぶ

 その感覚を味わいながら直人は、心の底からなんでこんなことになっているのだろうかと考えていた


 人生退屈して、暇すぎてやる気がなくなって……あの日……ああそうだ


 あの日、本来はサボるつもりだったのに……誰かに話しかけられて……

 そう、誰かに話しかけられたと思ったら気がついたら俺はクラスに戻っていたんだ


 不思議な事もあったもんだ。だけれど、それを考えるとひとつ不可思議なことが頭をよぎる

「(一体誰だったんだ?あのは)」


 白髪で……妙に優しげな……あれは


「っ……ぐぅうあ?!!」


 俺はその記憶を引き戻される。身体が痛い


 さっきからダメージカット用の魔法の鎧が完全に破壊されてしまっているせいだろうか

 逆に痛みがオーバーフローしているせいか、体のあちこちから悲鳴が上がっている


 ……っ……死ぬのだろうか、俺は


 嫌だ。


 体を貫くような辛い痛みのあまり、逃げたい欲が頭を駆け巡る


 たが、やつの攻撃はまるで止む気配がない


 波を使っているせいか、体の芯までダメージが入ってくる。

 その痛みは、妙に懐かしく……


 あ〜あれだ、だコレ


 何故か分からないが、マッサージされている気分になってきた。

 おかげで死の恐怖がどんどんと薄れて来てしまっている

 意味がわからない。敵を殺す直前に人にマッサージする趣味とかコイツにあるのだろうか


 分からない。

 だが、しかし……それはそれとしてすっごい気持ちいい


 なんか最近寝不足だったし、運動不足だったからすっげぇ体がリラックスしてきた


「……てめぇどういうつもり……だ?!マッサージしやがって……?!」


「いやいや、君は知らないかもしれないけどねぇ肉を美味しくいただく方法は、まず叩いて解すのが最適なんだぜ?」


 そう言いながら、どんどんと加速する波。それに合わせて指先によるつみつみ攻撃を受ける


「…………う、あ?」


「……さて、それではトドメと行こうか」


 腹に手が当てられる。そしてその当てた手からものすごい強力な波が直人の肉体を貫いた


 一撃。


 一撃で直人は膝から崩れ落ちる。その時点で直人の肉体は死を迎える事となった


 だが、最早問題など有るまい


 死の恐怖は彼の元には既に無くなっていたのだから


 ゆっくりとした、夢見心地のまま彼はその肉体から光を放ち……そして消えていった


「……さてと、これにて決着っと……いいなこのマッサージで敵の警戒心を解いてから倒すの……これ応用して後でマッサージ機でも作るか」


 呑気なものだなぁ。とカオスは影から眺め呟いた


 ◇◇


 無道理一VS内田直人


 勝者、無道理一


 決まり手……マッサージ。


 ◇◇


 一方その頃


 ベルゼオークVSレヴィアの戦い





「よ、弱くない?あなた……」


 血を纏った殴りがヒットして、ベルゼオークの肉体は簡単に瀕死になる


 と言うかそれもそのはず


 先程、彼女はエイルの手で力を引き出してもらっていたのだが

 その結果を彼は後にこう語っている


「───やりすぎた、ちょっと引き出すつもりが……思ってたより内容量が多くて……うーんあれ一方間違えたらラスボス候補だよなぁ……」


 と。


 ◇


 ベルゼオークは体を震わせて、立ち上がる。高貴な身である自分が……このようなちっぽけな女にここまで追い詰められてしまっている


 その事実だけでベルゼオークは怒りが収まらなかった

 しかし、それはそれとして……あまりにも戦力差がありすぎる


 そう思わずにはいられないほどだった。まるで小バエと戦艦


 いや、ベルゼオークを小バエと呼ぶのは流石に可愛そうではあるが


「(……有り得ん、この我が負ける?……嫌だ……嫌だ)」


 ベルゼオークは元々小バエの王様だった。

 ハエの王様、ベルゼブブ。

 やつの次に力を持っていた小バエの王、それがベルゼオークだ


 圧倒的な力を持つことも出来ず、ただ誰かの残した残飯にありつくだけの魔物性など嫌に決まっている


 もしここで負けてしまえば、その惨めなそれに逆戻りだ

 頼みの直人は既に倒されそうだし……


 一応、ベルゼオークは鎧の中のちっぽけなハエが本体である


「わ、我が負けるなど?!有り得ない有り得ないのだァ!!」


 必死に魔法を放つが


「……弱くない?」


 一蹴される。魔力の差によるダメージオートカットに引っかかった為か、ダメージはまるで意味をなさなくなっていた


「───まあいいや、ここで終わらせてあげる」


 そう言って近ずいてくるレヴィア。その姿は紛れもなく魔王の娘

 そのものであった




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