第47話 アイドル舐めんな

 うーん、何だろうか。


 知り合いがアイドルなのは知ってたけど、まさか異世界に来てまでアイドルやってるとは思わなかった


 さすがに5年間何してたのさ?と聞くのは失礼かもしれないけど、それでも


「──あんたこの5年間まじで何してたのさ……」


 聞かずにはいられなかった。


「──何よ!私はアイドルを極めているの!邪魔しないで!」


「の割にはアイドルライブしてる話とか1度も聞かなかったけど?」


「うっさいばーか!お前みたいな刀作る汗くせーヤツに言われたくねぇー」


 メリッサは呆れた声で。つぶやく


「あ?」


 ──訂正。呆れてなどいない、むしろブチ切れていた


「てめえのその鼻っ面叩き折ってやるからさあ!今すぐこっち来いや!ぶちのめしてやる」


「ひっ……ふ、ふーんならこの子達の相手をしてもらおう───へ?」


 きららはまだ余裕があるように叫ぶが、次の瞬間200メートル近く瞬時にメリッサが移動したのを見て慌ててその場で回避する


 もちろん戦闘経験など微塵もないので、這いつくばりながらではあるが


 数秒後、先程自分がいた位置を強力な斬撃が襲う。


「な、ま、まじで私を殺す気?!」


「ん?当たり前だろうが、あたしはエイルほど甘くねぇからな─まあアイツならてめえの心をへし折ってから服従させるぐらい余裕だろうがな」


 そう言って刀を構えるメリッサ。


 その目には、はっきりとが乗せられていた。


 ───さすがにこれで諦めてくれ……ないよなぁ


 メリッサはため息をついて刀を振るう


 きららは全くと言っていいほどに動じていなかった。


 さすがにアイドルとして全国ツアーすら巡った女だ


 ──殺意なんていくらでも浴びせられているのだろう。

 特に彼女はセンターをよく手にしていたのだ


 メンバーからも嫌がらせや殺意をむき出しに殴られたことすらある


 それでも彼女はアイドルとして一切を無視して見せた。


 そんな彼女のスキルは偶像アイドル


 その効果は、人を操ること以外にもいくつかあるのだが……そのひとつに


 があるのだ




「────ふう、ごめんねメイ。あたしはアイドルだから戦いなんて好まない……でもまあ……1!!」


 そう言うと、彼女は手を頭上にかざす


 ────そして告げる


「──アイドル、空星きららが命ずる!ファンの皆ー、!」


 途端、辺りを囲んでいた操られていた人間がふらりと倒れ始める


「何だ?」


 バタバタと倒れてゆく、その様子を見て慌てるアリアとローラン。


 2人はなんとか火炙りにされていた親友を助け出すことに成功していたが、その親友も突然意識を失ってしまった


 そして、その彼らの肉体からふわふわと何かが集まってゆく。


 それは初めは小さな蛍火のように見えたが、気がつくとどんどんと集まり、溶け合い


 そしてそれは空星きららの手の中に入ってゆく。


「────それじゃあ行くよ!私のワンマンライブの……開幕だよー!」


 彼女の肉体が光に包まれる。それはまるで着せ替えアイドルゲームの着替えシーンのようにも見えた


 どこからともなく、騒がしい歌が響き渡り初める


「ふん!今のあたしを舐めない事ね、?」


 はったりだ、そうメリッサが言おうとした瞬間


「───ッ?!」


 一瞬で距離を詰めたきららの拳がメリッサの肉体を貫く


 その一撃は、さすがにメリッサを倒すことはなかったがそれでも


「ッ!……(アタシが目で追えなかった?ありえない、先程まではただの一般人レベルだったのに……まさかこれがあの子のスキル?)」


 だが、その思考すら追いつかせないかのごとく、追撃を浴びせるきらら。


 それははっきり言ってお粗末な、全くズブの素人の攻撃にもかかわらず


 ───「(避けるのがやっとだと?!……へぇ、案外やるじゃん)」


 いや、むしろ素人だからこそその動きが読めないのかもしれない。


「まだまだ行くよーーー!次の曲は『春に咲き誇れスプリング・ブルーム』!」


 途端、周囲がいっせいに花びらで埋め尽くされる。


「───ッ?!この花びら、まずい!2人とも花びらに触るな!死ぬぞ!」


 メリッサは慌てて回避しつつ、アリアとローランに呼びかける


 だが、一方遅かったようだ。


 2人はフラフラとした後、そのまま眠ってしまった


「──睡眠効果付きの花びら……へぇやるじゃな……なにぃ!」


 花びらが人型になり、それの攻撃がメリッサを襲う。


 かろうじて避けるが、後ろから追撃が入る


「───アイドル舐めんじゃねぇ!」



 きららはそう心の中でつぶやく。


 うん、いいペース。これならが終わる前にメリッサを倒せる


 もちろん観客が1人なのは少し寂しいけど、それでも


 私なら勝てる。メリッサに


 そう確信を持って私は次の曲を歌う準備を始める






「(へぇ……なるほどなかなかやるねぇ……手加減して損したなぁ……)」


 ───まあ、関係ないけどね


 メリッサは攻撃を避けながら、刀を打つ。


 きららにすら感知できないレベルの高速の鍛冶。


 当然、攻撃を食らってしまった部位を含む肉体も


「──そろそろ本気で行くよ?」


 メリッサはそう告げると、今しがた打ち切った刀を振るう



「────『歌刀うたがたな/桜吹雪』」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る