第43話 ─魔界戦線/エスゴニア編

 魔王。それは魔族の王にして、狡猾で優れた魔物


 だが、その権力は昔から付け狙われる代物だ





 ───「さて、魔王バレンタインよ……お前にはまだ死んでもらっては困るのだよ」


 薄暗い牢獄の下でそう囁くのは悪魔のような……否


 存在。即ち邪神


「この俺、邪神ベルゼオーク様に楯突いた愚か者め……貴様の家族諸共たっぷりと痛めつけてやるわ……クハハハハ!!!」


「……ふざけるな……ベルゼオーク……貴様はかつて封印された存在ッ!……どうしてここにいるのだ!?……」


 まるで興味がないように呆れながら邪神ベルゼオークは呟く


「…お前は勇者と繋がっているのだろう?そのような奴が魔王?…片腹痛いわ!……まあ良い、貴様の娘が勇者リイチの仲間なのは心得ているさ……ゆえに!!お前の存在価値は往々にして高くなるというわけだ!…………どうだ?貴様を俺様が襲ったわけは理解したか?」


 魔王バレンタインはあきれてものが言えなかったが、ベルゼオークその様子に気が付くことはなかった。



 バレンタインはため息を漏らす。

 少なくとも数千年は生きている奴がここまで落ちぶれたのか……


 いや、正しくは


「……お前は自分の強さを過信し過ぎているようだな…………所詮ただの魔……グアア?!」


 傷口に手を突っ込まれたことでバレンタインの口から悲鳴が上がる


「煩いぞ?!負け犬風情が!……ふん俺と俺様の協力者たちの手を借りれば……そのリイチとやらも瞬く間に殺して見せよう!……所詮人間風情が魔族に勝てるわけが無いだろうが!?」


「そうだとも……ね!……リイチの野郎調子に乗りやがってるし……ここいらでたーっぷりと痛めつけてやらないとねぇ!」


 後ろから歩いてきた男を見てバレンタインは鞘のない刃物のような男だ……と思った


 危なげしかなく、その全ての行動が他者を傷つける


 そんなイメージを見た目から予測する


「……リイチ……あやつのことは我とて知らぬ……ぬぐぅ?!」


「しーってるさぁ!だからお前の娘をいい感じにエサにしてあいつを吊り出して……殺す殺すじっくりと嬲るようにいたぶるように殺して殺す!……ああたまらないなぁ!?アイツみたいないきがってる輩を裏切りの海に沈めて……そんでもって……」


「ナオトやめろ……それ以上の情報をこいつに教えるな……」


 ナオト、と呼ばれた男は首をねじりながら


「大丈夫だってぇ〜俺があいつに負けるわけないしぃ?!」


 そう高らかに笑った。

 その笑い声は悪魔の王である魔王バレンタインをして


「……貴様狂っているな……よもやそこまで」


 そう言わしめるほどであった


 ──彼の名は内田 直人


 能力は『波を創り出すモノウェイブマスター』。


 物理的な波から、精神的な波……そして概念的な波まで全て再現できる


 熱狂も起こすことも、扇動すら可能な……その能力


 彼はリイチを殺すつもりである。

 光輝やそのほかのクラスメイトより自分が優れていると過信する彼は


「……ひとまずは……娘を捕まえたらどうやって調理するか……だなぁ……ひはははは!!楽しみで仕方がねぇなァ!……俺様に媚びるように調教してやろうか!?……ま、俺様以下の奴が俺様に勝てるわけがねぇからな!」


 


 バレンタインは愚かなやつだと呆れた。古今東西はるか昔からこういった輩は大概ろくな目にあっていないというのに


「……さて、と……そんじゃあ地上の方に連絡してっと……くくくくくクラスメイトの底力見せてやるぜぇ?」


 ナオトはそういうとスマホみたいなモノを取り出して誰かに連絡を入れる


「……きらら!起きろ?……ったく……おいこっちは片付けたぞ?……お前の方は?」


「こっちは順調!……いやー楽しみだね!リイチ君の泣き叫ぶ顔がもう頭によぎるよ!」


 ──彼女の名は「空星 きらら」……クラスメイト一の美女にして……偶像アイドル


 彼女は今回、あの手紙が届いた途端まっさきにナオトと連絡を取り……手を組むことにした


 そしてその作戦の第一の目標として……


「……リイチ君の戦力を半分に切り分け……分断を狙う……達成できそうだね!」


 2人は顔こそ見えないが、内心でにやりと笑う


 2人は龍樹の力を借りていくつかの作戦を立てた


 ひとつが










 ────「何?……レヴィアが行方不明だと?……そんなはずは無い……あいつは……ん?」


 俺はレヴィアがいなくなっていることに気がつく。どうにもこのワールドに存在していないようだ


 おそらく別次元というか別空間にいるのだろう


 だが面倒なことに


「……ローラン、アリア大丈夫か?」


 こちらもまためんどくさい話が転がりこんでいた


「……知り合いの王族が処刑って……あの子には昔助けられました……だから……どうにか助けられませんか!?」


 2人の気持ちはわかるが、どうにもきな臭い。


 レヴィアの行方不明と、アリア、ローランの知り合いの処刑……


 このふたつには間違いなく関連性があるはずなのだ


 なんと言うか、クラスメイトたちもまたそろそろしっかりと手を組んでくる頃だとは思っていたが……思いのほかしっかりとした作戦を立てているようだ


「……まずはレヴィアの方を先に片付けてから……」


「アタシが行くよ!アリアやローランには助けられたからな!……ふふふここは任せなさい!」


 メリッサの助言もあり、俺たちは二手に別れて行動をすることにした




 その結果、ある意味最悪の魔物と最悪の展開が俺たちを襲うことになるのだが


 それはまだ俺たちは知らない


 いや、俺の運命は知っているのか?


 それはともかく……知る由もなかった




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