第38話 向かい風
あれから数年がたった。
その数年……俺にとってはほんの一瞬だった中でエイルは少しずつ衰弱して行った
理由など決まっている。悪魔を狩り続けることによる毒の蓄積。
それは着実にエイルを蝕んでいた
食料も劣悪なものしかなく……悪魔の肉を食べざるを得ない時すらあったことも関係があるのだろう
そうして俺とエイルの別れの時が少しずつ近ずいているのを俺は薄々と感じていた。
「……私はもうすぐ死ぬの?……」
俺はその言葉に答えることが出来なかった。いや、答えたら絶望して死んでしまうのではないか?そう思うと口が開かない
寒さを防ぐ洞窟の中、横たわったエイルは寂しそうな顔で
「……楽しかった……なあ……」
そう、呟いた。
「……あ、あんたと一緒にあるのが……だよ!?……ははは……今のこの現状は……はっきりいって辛いけど」
「皮肉な物だ……お前の方が俺よりも生きるべき存在なはずなのに……なぜ……」
口に出した言葉は少し邪険な言い回しになってしまった。
エイルは少しだけ驚いたような顔をすると、ゆっくりと体を持ち上げ
「……貴方は生きることができるんでしょ?……私たちみたいに弱い……ただ蹂躙される存在じゃなくて……」
「それはそうだが……しかし」
「ならアタシの代わりに世界を救ってよ……!……あ〜アタシがアンタみたいに頑丈で……強かったらな〜」
そう言ってただをこね始めるエイル。
「なら俺みたいに人間をやめることも可能だぞ?……カオスが言うにはリソースは足りている……あとは君が同意するかどうか……だとさ」
だが、当然帰ってくる言葉は
「最初から何度も言ってるでしょ?……あたしは人間として死にたいの……」
「……それでいいのか」
「……ねぇ…………少しだけ頼んで……いいかな?……うん……美味しいご飯が食べたい……いいかな?……」
俺は容易い話だ。と言い……洞窟の外に出る
あれから数年たったこの世界はもうほとんど人間がいない。
いや、いるにはいたが……それらは次々と悪魔に、天使に、機械に、魔法使いに殺されて言った
人類はこうして滅びの直前まで迫っていた
それでも頑張ろうと足掻く人間はみな他の人間の手で死んで行った
刹那の快楽を手に入れるための邪魔者になりがちな奴らはいらないというわけである
人の進歩を作るのが人ならば……人の衰退もまた人の手で行われるのだろう
「……ふむ、ここら辺に確か……あった」
俺は倉庫を叩き割る。そこはかつて人類の拠点だった場所
もう既に悪魔たちの住処となっている場所。
俺は弓を手に取り、そいつらの上に飛ぶ
「……邪魔だ、消えろ!」
放たれた矢は次々と悪魔たちの頭を叩き壊していく。
破裂した肉体を盾に次から次に押し寄せてくる悪魔を弓で射抜く
ワンショット。
「弦が切れたか……修復を頼んだ……カオス」
『またか?……ったくお主の成長に追いついていないというのは些か悲しいな……早いところ悪魔王を倒すべきだな……』
俺は槍を構える。
それをくるくると回して……悪魔目掛けて投げつけ、それを踏み台にして拳をめり込ませる
「……ん?ああこいつが最後か……脆くなったな……本当に」
もはや悪魔など意に返さないほどに強くなっていた
俺は倉庫から食料を拾い、それの中身を作り出す
「……待て?俺は長年一緒にいるがあいつの好きなものを知らないぞ?……」
そこでふと気がついた。全くと言っていいほどに俺が他者のことを気にしなくなっていたことに
俺は一度聞き直すためにそちらの方に歩き出す。
「……雪崩……たのか……」
しかし道はどうやら塞がれてしまっているようだ。
雪崩……さすがにあの洞の場所はわかるが……少しだけ時間がかかるな
俺はそういうとハンドライフルを取り出す。
「悪魔がハンドライフルを使うなんて話……昔の俺なら信じなかっただろうな……ったく……面倒だな」
俺はそうして吹き飛ばし始める
◇
いない……?どういうことだ……?
俺が戻った時、洞窟の中にエイルは居なかった
「……手紙……?待て……」
そこには手紙がひとつあった。誰が書いたのか……それは間違いなくエイルのものだ
そこには……『魔神王に一矢報いて来る』
とだけ書いてあった。
「……?!バカなのかあいつは……ええい!」
俺は舐めていた。動けなくなった人間がどんな行動をするのか……人が死ぬ前に見せるパワーを舐めていたのだろう
慌てて足跡をたどる。
おそらくあの体ではそこまで進むことはできないだろう……
まだ俺はそこまで慌てることなく進む。
こうして、最後の別れの物語が……幕を開けた。
「……ここで転移魔法を使ったのか……?!クソ……マジで行く気なのか……」
想定外。想定外だ……エイルが転移魔法のアミュレットを持っているとに気が付かなかった俺の落ち度だ
仕方ないので俺はカオスの力を使い……何とか転移先を探すことにした
「……無事でいてくれよ……?」
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