第37話 昔噺 相乗りはいつも危険に盈ちる

 何が起きたのか?そんな物決まっている


 だ。


 あの日の朝、『ホープ』の近くで4人ほど生存者を発見した。

 それは良かった、彼らは口々に感謝の言葉を述べていた


 見た目は割と綺麗で、おそらくだが隠れていたのだろうと推測できた


 そしてそいつらのせいで俺たちは地獄へ落とされた


 ◇


「何だと?!……食料庫の中が空っぽだと?!」


 カルラさんの怒号に俺たちは驚きつつ何が起きたのかを尋ねる


「……ああ……どうやら誰かが食料庫のものを全て食べてしまったらしいんだ……見てくれ……」


 俺たちが食料庫に行くと、そこは昨日まで沢山あったはずの食料が何一つなくなっていた


「……クソ!何が……不味いぞ……ああ……ああ!……」


 カルラさんの絶望も分かる。まずこの拠点の人間は当然食料が無ければ生きれない訳で


 言うなれば全滅の危機である


「なんとしてでも犯人を探しつつ……食料の確保を……ああクソ!!!!」


 ◇


 犯人はあっさりと見つかった。

 第2食料庫のとこで飯を食っているところを現行犯で見つけた訳だが


「……ああ?てめぇらが食料独占してるのがわりぃんだろ!……は、どうせまだあるんだろ?なら少しぐらい分けてくれよ!」


 唖然とするしか無かった。1ミリもそいつら……つまりは朝この拠点に来たヤツらは反省していなかったのだ


「……貴様ら……」


 もはや色々と絶望感が漂う中


「……食料はこれで最後だ……今この瞬間に私たちは明日を迎えられる保証が無くなったんだぞ?!……」


「知るかボケが!俺たちはもうどうせ長く生きれないから今を楽しむだ……」


 俺はそいつらの口を開けると、拳をねじ込む。


「ゴボ?!……い、て、てめぇ何……ギャア?!!」


 足の骨をへし折る。


「お、俺たちをこんなふうにするなんて……俺たちは大企業の役……ギャア?!!」


 腕の骨を割る。


「……お、お前たち下民が私たちのために尽くすのは当然に決まっ……」


「ふむ、よく喋るな……その舌を抜いてやろう……それが君たちに対する罰だ」


 俺はそのままそいつらを蹴落とすと地面に固定し、そのまま放置する


「はぁ……こいつらを悪魔を呼ぶ為の餌にして……やるぐらいしか……っとおい?」


 戻った時には内部で喧騒が起きていた。

 理由など当然決まっている


「ふざけるな!食料が尽きた……?!俺たちの頑張りを無駄にするような奴らを入れたヤツはどこのゴミ野郎だ!」


「何だと!?お前らこそ予め予想出来なかったのか!?」


「やるかコノヤロウ!」


「落ち着け!それ以上無駄に体力を……消耗するんじゃ……」


 止めるものもちらほらといたが、結局のところ無駄だった。


「……どうしよう……こんなふうになるなんて……リイチ……止めれないの?!」


 エイルの悲痛な叫びに俺は、首を横に振る


「……そんな……こんなことって……」


 俺はエイルの手を引っ張り、『ホープ』の外に出ることにする。


「ねえ、待ってよ……?!みんなを置いていくの……ねえ!?」


「……奴らはヤワじゃない……だが、あそこにいると間違いなく俺たちに要らぬ被害が出るかもしれない……それは危ない」


「……でも、せめてカルラさんだけでも…!!」


 諦めろとはいえなかった。いや、言っても良かったのかもしれない


 ただ走っていくエイルを俺は止めれなかった。


 ◇


 俺が再び戻った時、そこは死屍累々と化していた


 あるものはピッケルで頭を潰され


 あるものはビール瓶で殴られ虚ろな目で空を見上げ


 あるものは火の中に飛び込み


 あるものは高いところから地面へと飛び降り、救いを求めた


「…………エイル、彼らはもう死んでいる……それが分からないのか?」


 俺は胴体に槍が刺さって動かなくなったカルラの死体のそばで泣きじゃくるエイルに声をかける


「…………リイチ……貴方は……なんでそんな……に……冷静でいれる……の?……」


 その答えはただ一つだ。


 


「……俺は人を捨てた……人だった過去を捨てたからな……この程度に悲しむことは出来ない」


 そう口に出した俺を見てエイルは


「…………そっか…………」


 ただそう口に出した。


 俺はカルラの死体に手を合わせると、目をゆっくりと閉じさせる


 が、その時俺の手を握り返すものがあった


「……生きてたんですか?……」


 俺はほんの一瞬。わずかコンマ1フレームの間にカルラの遺言を受け取った


 人が死ぬ時、最後に放つ思念。


 それを俺は受け取ったわけだ


「……そうか……すまない……か……全く、あんたが謝ることなんて何も無いんだがな……まあ強いて言えば……たぐらいか?」


 俺はそのまま、そこを出る


 もう既に『希望ホープ』は失われた。


 俺自体は全く問題がなかったが、エイルはさすがにただの人間だ


「カオス……エイルを俺と同じように眷属にできないのか?」


『ふむ……リソースが足らんな……悪魔とか天使とかの素材があれば一応可能だが……な』


「そうか……ありがとう……さてエイル……君はこの後どうするつもりだ?」


「……わかんない……でも……私は最後まで人間でいたい……そう思ってる……!」


 俺はそうか。とつぶやくと彼女の手を握り荒廃した街を歩き出す



 人間性の喪失。俺はたぶんもうほとんど人間では無いのだろう


 悪魔を狩る度にステータスが増幅し……それに合わせて心から人としての持つべき感情が失われていく


 最初は怖かった……けれどそれはいつしか……心地よくすら感じていた


「……リイチ…………私は君を最後まで人だと思っている……だから私の前で人間を止めた……なんて言わないでね……」


 そう歩く途中に言われた。やはりエイルにも気が付かれていたか


 だが、もう後戻りはできないのだ


 悪魔の肉を食べた奴が悪魔になってましうのから逃れられぬように……俺はやがて悪魔になるのだろうか






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