第36話 昔噺─⑤ /終末世界の人間

 次の日


「こっちに来てくれ……スマンがこいつを倒すのを……」


「いや待てこっちで……」


「あ、それも終わったら今度はこっちを!」


 俺は引っ張りだこであった。


 当然ながら、俺の悪魔狩りスキルは倒せば倒すほどに上達していくので……必然的に強くなっていく


「おう、任せろ!」


 俺は久しぶりに自分にしっかりとした役割が与えられていることに感謝しつつ弓でチクチク、近くに忍び込み剣で斬り飛ばす


 そんなことを一日中やっていた。


「……凄いね……やっぱり貴方は才能がある!」


 エイルにも幾度も褒められたし、カルラにも幾度も礼を言われた。

 俺は謙遜しながらも改めて少しだけ気持ちよくなっていた


「(異世界に飛ばされた時にはそこまでちやほやされてなかったから……改めてここでチヤホヤされるのも案外悪くないな)」


 そんなことを少しだけ考えながら俺は剣を振るう。


「グルルルルルフギャァ!ーーーーー!!」


「フン!」


 引き抜いた剣からは悪魔の肉片がべちゃべちゃと血の導火線を描き


 そこ目掛けてエイルが放った爆弾による起爆を背後に俺は次の狩場に向かう


「あんちゃんいい腕してんねぇ!いいぜこれ持ってけ!」


 そう言って俺は缶ずめを手渡される


 夜にはたくさんの人間が活気づいた城の中を見て……俺は


「……ここの人は絶望していないんですね……?」


 そう聞くと通りかかったカルラさんが


「……当たり前さ……ここは最後の砦だ……はっきり言うが最後の……最終とか言われると人間ちょろいもんでな……割とみんな楽しくなってくるんだよ」


「にしても……エデンとは別物みたいですね……」


「……嫌いか?」


 俺はまさか。と答える

 手渡された缶ずめとやっすいコーヒーをボロボロのマグカップで飲みながら


「……人間ってのは案外強いんだな」


 そう口に出していた。

 俺はそのまま高台の見張り台の近くで横になり、目を閉じる


「……ねぇ!リイチ!……こんな武器作ってみたの!」


 俺は寝ようとしたんだがな?と言いながらもエイルの方をむく


 目をキラキラとさせて、新しい武器を手に持っているエイル。

 彼女は武器開発の才能を認められ、今はこの拠点の近くの武器庫から手に入れた武器を改造している


 悪魔の武器をも解析して、それをどうにか使えるようにする……などというはっきりいって割と人外に片足入れちゃってるのは置いておいて

 エデンにいた時よりもはるかに楽しそうな彼女の姿を眺めて俺は微笑む


 夜の星空に、コーヒーから立ちのぼる白い湯気が天の川のように煌めき


 案外、終末世界も悪くないな……なんて考えてしまっていた。


「……悪魔を狩るのも板に付いてきたな……今日は上位クラスの悪魔を狩ることが出来た……これは大きな一歩だぞ?」


 後ろからカルラさんが話しかけてくる。


「……そういえばカルラさんはお風呂に入らないんですか?」


 俺はふと、疑問に思ったことを口に出す。

 途端


「……乙女にその話をするか?……ったく終末世界になる前はいっつも風呂に入るのが趣味だったんだがなぁ………おい、そんなに私は臭いか?……ン?」


「……すみません鼻風邪を引い……」


「ょぉーし嗅がせてやろうか?……うりうりー!」


 俺の鼻に押し付けられる胸の重みを俺はどうにか避けようとするが


「グム…………ぐ……」


 間に合わなかったので、とてもいい重さのそれを俺は顔に受けてしまった


「…………汗の匂い……それ以外はノーコメントで」


「…………風呂入ってくる……」


 少し落ち込んだように風呂に歩いていくカルラさん


「……ねぇ……この光景はあと何年続けれるのかな……」



 俺は突然エイルに話しかけられたことにびっくりしつつ、答える


「……まあこんなものはただの応急処置だからな……本質的には衰退の1歩を辿るわけだ……」


 いくら悪魔を狩ったとしても俺たちの人類の居場所ができる訳では無い……それこそ別の種族の力を借りなければ今の状況を見打破などできないだろう


「……そういえば悪魔の天敵は天使……だったよね……あそこに見える塔……あれが確か天使の監視塔なはず……もし天使が私たちの方に付いて……くれれば……」


『やめておけ、ハッキリ言うが……天使も悪魔も根本から何も変わらんよ』


 カオスの言葉に驚くエイル

 無理もないだろう


『だいたい……終末のラッパを鳴らすのは天使だろうが』


 そう言って黙る。


「でも……でも!……天使ぐらいしかもう頼れるものが……魔術神様は私たちを使えない駒はいらない……って言って見捨てて……」


『魔術神か……彼奴ならそういうじゃろうな……まあこの際ハッキリ言うが人間にこの世界で居場所など無いぞ?』


 エイルは反論しようとする。

 ─しかしその口からは言葉は紡がれなかった

 ただ、空虚な音だけが響いた


「……カオス……もし人類がこの世界の覇者になる可能性はあるのか?」


『ゼロ以下としか……はっきりと言うと人類など所詮ただ数だけが取り柄だった生命体……いずれ滅んでいたさ……その日が早かっただけでな』


「……アタシ夜風に当たってくる……ごめんね……リイチ」


 そう言って彼女は駆けて行く


「カオス……俺はその中にカウントされているのか?人類側に」


『ふふふふふされてて……そもそもお主、人類をとっくにやめてるからな?……気づいてないとは言わせないぞ?』


「……確かに普通の人間は倒した悪魔のステータスを引き継ぐとか有り得ないわな……」


『それ以上に……お主、……まあお主の肉体は私の力を与えたものだ……分かりやすく言うならしているのだよ』


 まあ分かりきっていた事だ。それでも少しだけ寂しいな……と俺は思いながら目を閉じる。


 眠れない。そう、俺は眠れないのだ


 先程エイルに話しかけられた時、俺は嘘を着いた


 俺はいくら目を閉じようともいくら疲れるような仕事をこなそうとも一向に眠くならないのだ


 エデンにいた時から気がついていたが、改めて自分は異質な物だと気がつく



「……星は綺麗だけど……さすがに見飽きたな」


 俺はただ溜息を吐き出すことしか出来なかった




 ◇




 そして、次の日。『ホープ』は壊滅した


 そしてその日を俺は二度と忘れない。


 人間の罪の重さを……生きることの難しさを俺は知った





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