第35話 昔噺─④/終末世界の人間生
俺たちが狩った悪魔を食べる、という言葉に俺は動揺を隠しきれず……道中幾度も聞いたのだが、その答えは全て同じだった
「……本当に食べる……のか?……ってか食べれるのか……?」
「うん、一応食べたことあるけど……私は合わなかったなぁ……なんか臭い牛肉って感じでさ……固くて……ちょっと気持ち悪いかな?」
んー想像するだけで気持ち悪くなってきた
◇
「……ほんとに食ってやがる……」
俺は唖然としてしまった。無理はないだろう
悪魔の死体を包丁で解体し、それを鍋に入れて出汁を取り出し……その汁を利用して蒸し焼きを作る
まさかそんな光景を見る羽目になるとは……と改めて俺は終末世界のやばさを理解した
『……まあここで話すのもなんだ……ちょいと外に出ないか?』
珍しくカオスにそう言われ、俺は近くの見張り台の方に行く
『ここなら良いだろう……さて、お主はどう見る?あの光景を』
俺はあの光景、まあつまるところ悪魔を食べるという行為に関してははっきりいって絶対駄目だと直感的に判断していた
『正解じゃ……あ〜まあその光景を実際に見てみると良いだろうね』
とはいえ、次の日は別に何も起きなかった。強いて言えば、またしても悪魔を狩るハメになったのだが
今回は前回倒した悪魔のステータスを加算されていたからか、楽々と倒すことが出来た
「すっごい!?……強いねぇ!……私も負けてらんないよ!」
少しエイルに褒められるのは嬉しかった
そうこうしている間に、ついにカオスの言っていた日が訪れてしまった
いつもと同じように悪魔を狩り、拠点に帰った。
前日にとても高級な肉が手に入った……とか何とか言って持ってきた肉を食べれなかったのを少し悔やみつつも……それが罠である可能性を考慮して……俺とエイルは空腹を押えながら狩りをしていたのだが
「……な……?!」
────地獄が広がっていた
「悪魔?!普段は外に居るだけなのに!?」
何故か悪魔の群れが拠点の中に大量に群がっていた。
そして、俺たちは見た
いや、見てしまったと言うべきか。
苦しそうにしていた拠点の人間が、悪魔に変化するのを。
「?!……お、おばあちゃん?!……ちょっと……なんの悪夢……なの……?」
その中には出迎えてくれたおばあちゃんや、狩の仕方を教えてくれた人もいた
「……不味いぞ、ここを離れるぞ……!」
俺はそう言ってエイルの手を取るが、エイルは
「……無理だよ……!私まだ生き残っている人がいるかもしれない……!探さなきゃ!」
「……あれはもう手遅れだ……あんなに悪魔がいるともう……生きている人間は……」
『だから言っただろ?……第一、悪魔を食べるなんて行為……フツー悪魔に魂を売るのと何ら変わりないじゃないか』
俺は傍らでそうぼやくカオスの言葉にいやいやながら頷く。
それでもそれをしなければ飢え死にしてしまう。そんな究極的な状況に人類が立たされている……だから仕方ないとは言いきれないが
「……エイル、もう諦めろ!……ここの近くの反乱軍の拠点に逃げるぞ……!」
俺はこの前に教えてもらった反乱軍……もとい、人類最後の砦……『ホープ』へと避難するためにエイルを抱えて走り出す
その光景を悪魔の王は眺めて……ワインを片手につぶやく
「はははは……!やはり人間は愚かだ……どう考えても罠であるそれを食べなければ死ぬ……だから我先に口にしたものから人間を辞めれる……ふふふふふ……ああ、これこそが愉悦……」
前日、彼らの拠点近くに新鮮な肉を置いたのは悪魔の王である。
理由などない……ただの愉悦の為である
◇
「お前たち!……どこの誰だ!応えろ!」
俺たちは何とか『ホープ』の元に滑り込むことは出来たのだが、そこで彼らに話した内容を聞き……その司令官と思しき人物は頭を抱える
「……クソ!だから再三言っただろうが……悪魔を食べる……という行為はいずれ身を滅ぼすって…………はぁ皮肉なものだ……『エデン』が悪魔に滅ぼされるとはね……」
そう言いながらも、彼女は俺たちを歓迎してくれた
「……ようこそ、まあひとまず水でも飲んで落ち着きな……この水は「ピタ」という女性が作ったものだ……安心して飲むといい……私は『カルラ』この『ホープ』における最高責任者にして……司令官を務めている」
そう言って三十路っぽい……まあかなり疲れ気味の女性は挨拶をしてくれた
「……ありがとう……俺はリイチ……こっちは」
「……エイルです……ねぇ、やっぱりみんなを助けに行こうよ!……まだ生きている人がいるかもしれないし……!」
駆け出そうとしているエイルを押えて、『カルラ』は苦しそうな顔で
「…………今しがた確認したが、『エデン』から火の手が上がっているそうだ……その火は悪魔の魔法による火だ……つまりはもう……」
「嘘だ!……私はまだ……まだ……」
「気持ちは分かる……だが諦めろ……それがこの世界の私たちの宿命だ……弱者にできることなどほとんど残っていない」
俺ははっきりいって別に彼らに思い入れなどなかった。
まあ1週間も居てないし……?だが生まれてから今の今までずっと暮らしてきたエイルにとって、今の決断は耐え難いものだったのだろう
「……私少し風に当たってくるね……」
俺は無言でエイルを行かせ……カルラさんと話をする
「……そうか君は異世界から来たのか……?……へぇ……異世界は人間がいっぱい?……そうか……その話は他の連中のとこではしない方がいいぞ?……奴らは気が立ってるからな」
この拠点……即ち城にはいくつかの防護魔法が貼られているらしい……それは異世界の魔法なのだとかで……
「……ああ、この結界がある限り……この城は破られはしない……だがそれ以外は……な……」
「食料や、生活用品……ですね」
俺の言葉に頷く。
「すまないが、そういった使えるものを集める役目を君たちに任せてもいいだろうか?……」
「……捨て駒って訳ですか……まあ良いですよ?」
確かに俺たちが行けば彼らの指揮系統に影響は少ないだろうし……何よりその方が安全だろうからな
とはいえ、異世界からの魔法がある以上こちらの世界から元の世界に戻るすべがないとは言いきれないので
俺は当分の間、ここを拠点に元の世界に戻る術を探さなければ
そう心に決める
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