第31話 流れる話は水のごとく
一閃が空を割く
ミズカが変質したそれはまるであっけなく崩れ落ちる
わずか一太刀。
それを確認すると、俺は刀をメリッサに返す
「……ふむ、いい太刀だが……」
「んーこれじゃあ満足にならないねぇ……はぁ」
刀身をべキリとへし折りながらメリッサはため息を着く
「……う……」
俺は今しがた起きたミズカに声をかける
「さて、起きたかな?……人魚姫様?」
俺がなぜ人魚姫様と言ったのかは何となくだったのだが
その言葉にハッとしたように目を開けるミズカ。
「……あたしってなんのために生まれてきたんだろうね」
そんな質問を俺はこいつの口から聞くことになるとは思わなかった
だが、こいつの顔は至って真剣で……いまさっき暴走して倒されたばかりにしては些か冷静そのものだった
「……はぁ……もういいや、疲れちゃったよ……あんたみたいにすっごいヤツでもあたしのことはわかってなかったんだね……あ〜も〜!!」
じたばたと腕を足を動かしたあと、急にすん。としたので思わず
「急に冷静になるな……ってかお前は案外まともだったって事か?」
トシの様に狂っているわけでもなく、最初から諦めていた青井さんの様でもなく
戦いに狂っていた詩織や、戦を好む龍樹のような危うさもなく
……まさか本当にこいつはただ演じていたのか?
「お前はまさかただ、演じていただけなのか……そうか……なるほどね」
「だから私は人魚姫になりたいって言ったじゃん……はぁ……それも聞いてないの?」
そう言うと、本当に諦めたような表情で
「……あ〜人生棒に振ったなぁ……はぁ異世界だってのに……結局私は誰かに執着して……ね、バカでしょ私」
この場合は憑き物が落ちた、とでも言うのだろうか?
「過去に囚われて、辛気臭くなって……あ〜あんたも聞いたことあるでしょ?……コウキってあんまり良い奴じゃないことぐらい……」
「当然、そうでなければ俺を追放などしていないからな」
「……はははアタシ捨てられたんだよ……バカだからって……自分の計画にアタシはいらないってね……」
その目には哀愁が
─ただの悲しい目と哀れなモノを眺める目があった
「……コウキの能力について教えとこっか?……アタシはどうせここで退場しちゃうし……まあそうやって誰かの手助けになれば……まー人生に少しは意味ができるんじゃないかなって……は……はは」
「それは結構……ネタバレは俺の好きなものでは無い」
俺は手を振ってそれを断る。最初から俺があいつらを全員殺す気ならば核だろうが、星崩しだろうがぶち込めばいいのだが
あいにく、それをしても俺だけが満足して終わってしまって……その後にただ崩壊するだけの……またあの終末世界が生み出されるだけならばそんなことはしないし……させない
「─はぁ?……アンタって変わってるよね……こんな惨めで哀れな女に付き合ってくれちゃってさ……メイ?アンタもそんないい男を見つけれて羨ましいよ……ホント」
「くははは!あんたも過去に囚われずに未来を目指せばアタシみたいに変われたかもしれないのにね……」
本当に憑き物が落ちたんだな。と俺は眺めながらそう思った
メリッサの打った刀が良かったのか、一度全ての負の感情と結びついた後にそれを浄化されたから性格が落ち着いたのか、それは分からないが
少なくともバカを演じていた時よりは優しい微笑みを見せるその姿を見て俺はひとつ決断をすることにした
その決断をすれば俺は間違いなく自分のルールを無視した事になる
多分他のラスボスには理解されないだろう。それでも
◇◇
「───ミズカ、君は人を殺した……そして俺を裏切った側だ……はっきりいって君は殺す……悪いが、その決断に変わりは無い」
そう言って俺は杖と剣を取り出して構える
それはそうだよね。と諦めた顔をするミズカ
ゆっくりと目を瞑り
「(あーあ、人魚姫みたいにみんなに愛される人には……なれなかったなあ……ってかこの夢はただ縋るためのもの……か……ははは……最後の最後までアタシはバカだな)」
そんな夢を最後に思い出せば、未練が残ってしまう。そんなことバカでもわかる
それでも、人生の終わりにそんなロマンチックなことを考えていられる私は心底幸せ者だな……と思う
「(あ〜死装束はしっかりしてくるんだったな……せめて勇ましい……いやかっこいい顔で死ぬべきかな……)」
しかし、その顔は俺の次の言葉によってぐちゃりと歪む
「……だがあえてお前はここで殺さない」
「おいおい正気か?」
「……なん……で?……?」
困惑する2人を置いて俺は手に持っていた剣と杖を地面に刺し、背を向ける
「……ああ、お前という人間はここに来ても過去から変わらなかった……だが、死の淵に立ちそして立場を失ったその時に……君の本性を知れた」
そう。こいつはまだ夢を叶えてなどいない。過去の夢に囚われていたのだ、それをこいつは断ち切れるかもしれない
まあ他にもいくつか理由があるのだが、それは言わなくてもいいだろう
「…………俺は性格が悪くてな、絶望した人間を一度助けてから再び潰すのが好きなんだ……まあそういうわけでそこに置いてある武器は持っていけ……その状態でしばらく修行してこい……そうして万全のお前を俺は倒す。殺す……だからあえて今見逃す」
そう言うと俺は困惑するメリッサの手を取り、帰路へと着く
「……は、はぁ……?……納得いかないんだけど……?」
後にはただ1人、困惑しながら立ち尽くすミズカだけが残されていた
「……意味わかんない…………でも」
ミズカは1人、杖と剣を拾ってから軽く奮って見る
目の前に、とても大きな水の塊が生み出され、それはまるで噴水のように破裂する
そしてその水に太陽の光が当たり、綺麗な虹を描く
「……ああ……そうだ、水は綺麗なものだった……」
腐った水、濁った水。そして止まってしまった水
それがあの時の私だった。
昔、そういえばなんで人魚姫に憧れたんだろうか……?
その答えを私はふと、気がついた
「……そっか、水の中で自由にしている……普通の人魚の姿に憧れてたんだ」
アタシはバカだ。
どうしようもないほどにバカだけど……それでも、あいつにもらった命を大事にしてやろう。
あいつは私に、こういった
「万全状態のお前を殺す……か、ならアタシが逆にあんたを殺したって文句言わないよね?」
アタシはくせっ毛になっている髪をゆっくりと水で洗い流し、水を凝縮して髪飾りを作る
──あいつは多分、私にチャンスをくれたんだ。
誰かに陶酔しているだけの、
「───人に期待されるのっていつぶりだろうか……?分からないけど……」
あたしはゆっくりと立ち上がり、当たりを見回す
「──ミズカは死んだ。そういう事にしよう。それでいいと思う…何故なら…今からはニューミズカの時代だからね!……見てろよ?理一!……あたしを生かしたこと後悔させてやるぜ?!」
そう言って1人の
「……とりあえずまずはこのくっさい家をどうにかせねば……」
─まあ前途多難な訳ですが
◇◇
「良かったのか?エイル……お前クラスメイトを順番に倒してたのに……?」
「その順番ならもうとっくにお前を殺してない時点で破綻してるさ」
俺はため息を吐き出して……手に持った鰹節を眺める
「……んじゃ、とりあえず帰ったら味噌汁作ろうぜ?……俺も手伝うからな」
「ほーん?まあともかく、あたしとやる気か?……いいぜ?着いてこいよ?」
「言っとくが俺の料理の腕はパティシエレベルMAXだからな?」
「……パティシエはお菓子の方だぞ?バカか?アンタは」
俺たちはそう言うと城へと帰ってゆく。
この出来事が、後にコウキをさらに貶めることになるのだが、それはある意味意図しなかった出来事なのかもしれない
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