第29話 悲しいね、可哀想な人
なるほど、と詩織は心の中で息を吸い込む
まるで一切の隙がないですね。こんな相手は初めてです
先程の2発の攻撃を防がれた時点で、薄々感ずいていましたが今の私ではまだ倒せないかもしれません
それでも、やれるところまではやってみましょうか。
「九門一刀流、/
「うぉっと危ない、だがもう見切れたぞ?」
九つの雷撃を容易く避けると理一は
「だがまだお前に進化の余地はあるのだろう……だからここで帰ってもらおうか『終末機構/
刹那、次元が歪み詩織は見知らぬ場所に飛ばされる
彼女が飛ばされたのはこの世界の隅っこ。最もそこから彼女が戻るにはかなりの時間を要するだろう場所
「……なるほど、そうですか……私はまだ死ぬ運命では無いのですね……ですが」
そう言うと、刀を鞘にしまう。
「あなたがどこにいようとも、私はあなたと最高の一戦をさせていただきますよ……まあ今はとりあえず、家に帰るところからですね」
詩織は雪の中、そうつぶやく。
「しかし……ここは些か寒いですね……息が白くなって綺麗です」
いくら彼女が強いとはいえ、さすがに雪の中でずっといればいずれ凍え死ぬかもしれない。
いや、それはないか
「おや?熊ですか……せっかくですしその毛皮、貰い受けますよ?」
近くにいた白色の熊。『ホワイト・デストロイヤー』を視界に入れた彼女は、そのまま蹴りをそいつの足にぶち込む。
続けてその首目掛けて刀を引き抜き、そのまま斬り捨てる
「はぁ……所詮ただの熊でしたか」
雪の中、刀からこぼれ落ちる獣の血がとても美しく輝いていた
「しかし、獣の皮を剥ぐというのはさすがに私も習っていませんね……まあ、何となく……でよろしいのでしょう」
◇
一方、メリッサ対ミズカは
「なあ?あんた弱すぎないか?……あんだけいきがってたんなら……せめて」
「うるさい!うるさいるうるさい!!」
顔を真っ赤にしながら、ミズカは怒鳴る。
足を軽く切り飛ばされた。それだけなのだが、その刀が熱を帯びていたせいで水になって刀を避ける……という芸当が失敗し、痛みに悶えていた
「(クソ、こいつ思ってたより強いぞ……!……ってか昔からコイツ嫌いだったんだよ……端っこでイラスト書いてたら見てくるし……そのうえ褒めてくるし……ほんとにウザイ!)」
「お?危な!」
しかも後ろから放った不意打ちの攻撃を簡単に避ける……だなんて……こいつ本当に鍛冶師か?
「……あんた鍛冶師のくせになんで刀で戦ってんだよ……!しかも前線まで出張ってさ!」
私は精一杯の皮肉を口に出しながら、時間を稼ぐ。
とりあえず地下に溜まっている汚水をどうにかして……あ〜も〜!ウンディーネの力を使えたら…
「水魔法/穿つ波飛沫!!」
とりあえず溜まった水を放ちつつ作戦にはめる
「あ?その程度の水で……ん?…」
突然、ふらふらとメリッサはする。
「(なんだ?喉が乾いている……?)」
その隙を私は見逃さなかった。水の槍を一気に地下から放つ
「グッ?!……あ〜そういうことか!」
私はにやりと笑いながら
「そうさ!私の能力は『水の支配者』!……ありとあらゆる水分を操作できるのさ……まあ例えば血液や、体液……なんかもね!」
そう、彼女の能力は非常に強い。しかし制約がいくつかある。
ひとつが、体内の水を操るのには時間がかかること
もうひとつが、水を操れるのは半径100mまでということ。
だが、それでも十分だ。メリッサはもう戦えないはず、私は慢心しながら近くに行くが
「……あ〜あんたも詰めが甘いなあ……」
次の瞬間、彼女の手の中に握られていた刀で斬り捨てられる
「っ?!……なんで……?!」
「それは俺がいるからだな……悪いが、お前のその力封じさせてもらうぞ?……俺は水を大切に扱わないやつにはシンプル容赦しないからな」
「……?!ま、まさか……理一、詩織を倒してきたの?!」
「いや?普通におかえり願っただけだが?」
な、そんな!……それじゃ今この場にいるのはアタシだけ?!
「そんな世界の終わりみたいな顔をしなくてもさっさと殺してやるから……っておい!」
アタシは勝てない、と判断して即座に地下の水に溶けて逃げる。
幸いなことに地下の水路はまだ機能していた。
それを伝い私はコウキ様の城に逃げる
だが、ここの水はあまり綺麗では無い……
だからここを使うことになるのはなるべく避けたかったけど、仕方ない
私は少しだけ惨めになりながら、コウキ様の姿を思い出す
……あの人は私の神様……いじめられた私を助けてくれた命の恩人。
今回も多分助けてくれる、私はそう信じて城へと乗り込む
◇
「はあ、はあ、はぁ……はぁ……!」
私は追撃してこなかったことを少し疑問に思いつつもコウキ様の住む城に入る。
まずは土管を伝って、コウキ様の元に……
私がそう思って土管の中を伝っていると、誰かと誰かの会話が聞こえてきた
「……計画は?」
「問題なく、滞りはございません……コウキ殿」
「……ああ、早いところあいつを倒さなくては……エイルめ……面倒なやつだ!」
私は思わず、飛び込む。
べちょり。という音がして……それでもその格好のまま、スライムのようなその格好で
「コウキ様!オタサケクダサイ!」
そう言ったのだが
私は期待していた。コウキ様が私を助けて、拾ってくれると。
だが
「……?お前は誰だ?」
残念なことに、彼女は姿が異なっていた。普段は綺麗な水を伝うから綺麗な水で満たされていた彼女の肉体は
泥にまみれ、ヘドロ臭を漂わせ……タールのような黒光りをしたスライムのようなそれをコウキ様は軽蔑の目で見る
「え?……私、私です!ミズカです!貴方の愛しているミズカです!」
「……?ミズカ……?ああお前か、悪いがその汚らしい格好で城の中を彷徨くな、臭いが移ったらどうするつもりだ?……さっさとここから消えろ」
まるでゴミを扱うかのように、一切相手にされなかった。
「……嘘、ですよね……コウキ……様?」
「……聞こえなかったか?さっさとここからいなくなれ……そういったんだが?」
そう言うと、私を蹴り飛ばし……そのまま隣の部屋に去っていった
「……は、ははは……はははは……?なんで、……」
私は訳が分からず困惑する。
私はただコウキ様なら助けてくれると思っただけなのに……
「誰だここにゴミを捨てたやつは!うわ、魔物か?!」
私は突然後ろから炎の魔法を打ち込まれる。
「や、やめてください!私は人間です!」
「ひ、しゃ、喋る魔物?!怖いよぉ!」
「死に晒せ!私の子供に手を出すな!」
ドタドタと人が集まって来る声を聞き、私は慌てて下水に逃げる
「なんで……なんで?!」
ただひとつ、絶望の味を嫌という程味わいながら
◇◇
「……コウキ様、あいつは?……」
「ああ、あれはクラスメイトの中で1番のバカだ……悪いが、俺の作戦にバカはいらない」
そう言って俺は逃げていくミズカを眺める
「バカは死んでもバカという言葉があるが、バカは異世界に言ってもバカという事だな……さて、それでは次の作戦を決めるとしようか」
御門光輝は非情な男である。
自分の敵となった理一を殺すために、使えるものは使うつもりの彼だが、その作戦にバカはいらない。
ただそれだけなのだ
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