第28話 波は集まりて

 ならばもうやるしかない。私は覚悟を決める。

 沢山の人に影響を与えるけれど、それでもやるしかない

 アタシがコウキ様に見て貰えるようにするために!


「水よ、ウンディーネよ私の元に集え!」


 その口上に合わせて水の精霊が呼び出される。のだが


「うーんめんどくさいわ〜お前さんさあ、都合がいい癖になんなん?腹立つねホント」


 呼び出した精霊にすっごい声でディスられたんだが?


「ちょ、アンタあたしの精霊ならもっときっちりしてよ!う、臭!」


「黙れ誰のせいでこうなったと?……お前さんが自分の趣味に走る間、水は腐り……淀み……精霊の眷属はみな水魔に変質した!……そこまで酷いことをしておいて……今更手伝えと?」


 臭い息を吐き出し、緑のぬるり、とした手でミズカの首を掴む。


「うるさい!私の眷属なら従いなさい!」


 その手を払い除けて私は叫ぶ。だが、相手にならない……といった仕草で精霊は立ち去ってゆく


 残されたのは臭い匂いと、ヌルヌルした謎の液体だけ


「……ふーんいいさ!……あーもー仕方ない!……この手はガチの外道だけど……コウキ様に見てもらうためには……必要な犠牲だよね!」


 彼女は近くの井戸の底に飛び込む。


 そのまま、地面を流れる水の本流……即ち、この付近の全ての川の流れを自分に流し込む。

 そんなことをすれば当然この区域で生活している人の飲水がなくなってしまう。


 だが、それをしてでも彼女はコウキにみてもらいたかったのだろう


「……ぷはぁ!……あ〜生き返るわーホントに!」


 だが、まだ足りない。……水を操る能力の真髄を私は使うことにした


 空に浮かぶタンク。つまりは……雲を利用する



 ◇



 ポツリ、ぽつりと近くの街に雨が降り始める。


「お?雨だー洗濯物が濡れちゃうわ!」


「にしても珍しいね……ここ数日は雨なんて降らなかったのに」


 人々は突然の雨に驚きつつも、すぐに家の中に入ったり取り込むべきものをとりこんだりしていた


 だが、それは普通の雨ではなかった。数分後、その雨に当たった人間は悲鳴をあげる


「ひいいいい?!と、溶ける!溶けてる……」


 次々と体が溶け始める雨に当たった人々。その悲鳴はしかし雨音にかき消され、静かになってゆく


 溶けた人間は水となり、再びミズカへと集まってゆく。


 傍から見ればその行為はただの大量虐殺にほかならない、しかし当のミズカはその水を体に取り込み、恍惚な表情を浮かべる


「ああ!素晴らしいわ!……これでまた、コウキ様に見てもらえるわ!」


 ◇



 ──「雨か、……これは魔力の籠った雨……言い換えれば、人を殺すための雨だな」


 俺はその雨粒を払い除け、改めて今ミズカがやっていることの愚かさに頭を悩ませる


「……アイツめ……本当に馬鹿なことを……」


 メリッサも同様に頭を悩ませていた。

 魔力がこもった雨……いや、人の魔力が染み付いた水など自然に悪影響以外の何物でもない。


 そんなものをこんな広範囲に撒き散らすという行為は、この湖の街を破壊する行為に等しい

 それで例え俺に勝てたとしても……結局は終末世界一直線になってしまうだろうな


「終末外装/三叉の海滅矛トライデント


 俺は手にした矛を空に掲げる。途端、周囲の雨が逆流を始める。


 まるでスローモーションビデオを逆再生しているかのような不思議な光景。


 人々を溶かした雨粒は、そのままどんどんと空へと上り、そのまま雲に戻る


「終末外装/破壊神の火シヴァ


 左手に破壊神の槍が顕現する。その焔を俺は雲めがけて投げつける


 途端、雲は霧散し……そこに保存されていた魔力も破壊され消滅する


「はぁ……めんどくさい以外の何もんでもないな……さっさとあいつがこれ以上罪を重ねる前に仕留めてやるとしますか」


「……あんたやっぱりすごいね……どうにも敵対してなくて良かったって今思ったぜ?……」


 メリッサに俺は、それほどでも。と答えて再びあいつのねぐらへと歩みを進める


 ◇




「なんだ?!クソ、リソースが消し飛んだ……?……理一、あいつか!」


 少し派手にやりすぎたかと思い私は慌てて井戸から上がる。


「おうミズカ、あいつらこっちに向かってきてるぜ?……いやぁやばそうだな……足止めしてやろうか?」


 龍樹……!


「……アタシの為に力を貸してくれるのか!?……わ、わかった!足止めと……なんなら倒してくれてもいいんだよ!」


「ははは……善処するとしようか」


「……あ〜クソ!……あたしのモノを壊しやがって……許さないわ!絶対、ぜーったいに!」


 私は龍樹から貸受けた兵隊の手を取り、外に飛び出す


 そして飛び出した瞬間、目の前にいた人物に声をかけられる


「やあ、早速で悪けど死にな?」


「……お前は……?!……理一……!」


「アタシもいるぜ?……まあよくも罪のない奴らを犠牲にしやがったな……?……タダで済むと思うなよ!」


「……メリッサ……アンタ何でそっち側に!」


「御託はいい……今回はアタシがアンタにケリをつけてやるよ!……オラァ!」


 私は慌てて


「り、龍樹!アンタ助けなさい!」


 あたしの叫びに龍樹は


「はいはいー〜分かったけども……つーわけで悪いね理一、君と一戦交えさせてもら」


 その時であった。




 ─────「見つけた」



 雷鳴が轟き、私たちのど真ん中に突き刺さる


 体からはバチバチと雷を鳴らし、その女性、「詩織」はゆっくりと刀を引き抜く


「あなたは私を楽しませてくれますか?理一」


 そのまま、理一めがけて刀を抜き放つ


「九門一刀流、一ノ門/九雷満天くらいまんてん!!」


 ほかの3人はまるでどうでもいいというふうに、その刀を振るう


 九つの雷光はまるで昇り龍の如き圧力で理一を襲う。


「終末外装/理盾ゼノン


 目の前に盾を展開するエイル。漆黒の、闇夜の如きそれに雷は吸い込まれる


 周囲の木々を薙ぎ払うほどの轟雷は盾により防がれる


「……やはりこの程度では傷一つつけられません……か……ではこういうのはどうでしょうか?」


 それすら織り込み済み、といった感じの詩織に対し理一こと、エイルは


「……まあこいつがいるとお前を巻き込みかねん、こいつはまだ殺すべき相手じゃないから満足してくれるまで付き合う……スマンが、そっちのミズカは任せた」


 そうメリッサに伝え、空間ごと即座に近くの広場に飛ぶ


「あ〜も〜あいつが来るとろくな事がない……はぁ……悪いなミズカ……ここで引かせてもらうぜ?」


 自分に被害が及ぶ前に龍樹は撤退を選択した。

 間違いなく、どちらかに巻き込まれれば面倒だ


「な、ちょっと?!……置いていくな!……ひっ?」


「まああいつが戻ってくるまでは相手をさして貰うぜ?……アタシは『メリッサ=メイ』……あんたは?」


「……ミズカ、あんたみたいな裏切り者にアタシが負けるとでも?!」


「負けるさ、あんたみたいな自惚れた……他の人をただの飾りだと思ってる奴には……キツいお仕置が必要だからな」


 そう言って火花を散らす。



 こうしてなし崩し的に1度目の戦いが幕を開けた




 ◇◇



「……九門一刀流、八ノ門/八牙飛翔はちがひしょう!!」


 八本の槍のような斬撃、それを俺は綺麗に避ける


「おや?……打ち合ってはくれないのですか?」


 その言葉に俺は、溜息をつきながら


「……悪いな、お前はまだ殺す奴じゃない……だからここで帰ってもらおうか!」










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