第■■話 異世界聖戦■/アイハセカイ■スクウ

 やはり世界は間違っている。正さなくては、潰さなくては、見逃すべきでは無い、それが世界のミスだとしても


 許されず、守られず、決してそれに見合う覚悟を持たず


 ああ世界はこんなにも優しいのに


 ──悪魔に魂を売れば、彼を助けられる。


 それがわかっているのに、どうして私はこんなにも苦しいのだろう


 知っている。知っている。知っている。


 悔しいよね、悲しいよね、寂しかったよね


 わかってるだから私は貴方に殺された時にただ優しい顔をしてあなたの糧となったのに


 ねぇ、トシ君……君は私の宝物だったんだよ?


 だからさぁ……そんな異世界でくたばってないで……ほら


 さあ、立ち上がるんだ!


「……お前は……?……なんで俺様の名前を知っている……?」


 君は私の宝物だ!だから立たなきゃ


 君の夢を阻むのは全部壊すんだろ?だったら君は壊さなきゃ


 ほら、立ち上がって。負けないで。


 ねぇ君にはまだ生きる資格があるんだよ!


「……お前は誰だ……そしてなんで俺様は」



 あなたは私たちのことを守った。愛してくれた。だからあなたを助けるの


 私たちは私の夢をあなたに託した


 ほら、立って


 ほら、見てごらん



 俺様は辺りを見回す


 俺様は息を飲む。そこにはたくさんの女が笑顔で俺様を見ていた


 そいつらは俺様を見て手を交差して祈り始めた


 途端、俺様の魂が鼓動を始める。


「立つんだ!」「たって!」「立つことを信じてる!」「あなたにならば!」







 彼のスキル『姦封獄ハーレム』。そのスキルはある特徴がある


 それは、


 そして、彼は異世界に来る前に既にこのスキルを獲得していた


 その結果、それらの自我……彼が殺した人間が手にしていた自我はもちろん異世界に来たことで力を得た


 彼は知らなかったが、彼のスキルによるハーレムは女性のスキルとステータスを奪い、そのうえで自分の中に彼女達の自我を封じる。


 そう言った効果がある


 故に、


 さて、この5年間で彼は一体何人の人間をハーレムに集めたのだろうか?


 それは分からないが……まあひとつ言えるのは


 一時的とはいえ、その力は増幅された


 ただ、このスキルは基本発動しない。


 ならば何故今発動したのか?それはひとえに


 彼が今死にかけているからにほかならない。


 ───冬虫夏草とでも言うべきか


 ───寄生虫とても言うべきか


 つまるところ、宿主のピンチに溜め込んだ願いを解き放っただけなのだ。



 それらは集まり、融合し……彼の新たな力となる



 ────「……そんなに俺様を愛してくれていたの……か……皆……」


 俺様はそこでついに気がついた。


 俺様は最初からみんなに愛されていた事を



 俺様は俺様にバットを向けたっている男を睨む


 もはや俺様の心の渇きは満たされた。

 これだけの愛を受ければ、もう自分を見失うことは無い


 ───「すまねぇな……俺様は少し自分を忘れかけていたぜ……じゃあ改めて名乗らせてもらうぜ……俺様の名は『蒼原 俊典』!!……悪ぃが……タイマンはらせてもらうぜ!」


 彼はもう、愛されようとは思わない。


 負ける気がしなかったからだ


 ◇◇◇









 トシの周囲の空間からたくさんの女が現れる。同時に、たくさんのハートがそれらと結びつく。

 変質し、その見た目はまるでたくさんの女が結びついた銅像のようになり、そしてそのサイズは城を突き破るほどの大きさに変質していく

 それらの女はまるで何かに祈るような仕草を見せる


 そして俺はその様子を静かに眺めると


「……それはただ、美化してるに過ぎない……それはただ、スキルの自我に操つられているにすぎん……そのままではダメだ……まずお前は……」


 俺はゆっくりとバットを捨て、杖を手に取る


「……自分の罪に向き合え……」


 一時的とはいえ、その強さは間違いなくラスボスレベルに強化されたトシ。


 俺は慌てるラスボスどもや、アリアやレヴィア達をゆっくりと黙らせると


「──安心しろ……コイツがいかなる存在であろうとも……いかなる存在に変質しようとも」


 ────『お前の旅はここで終わる』


 杖が変化する。


「『終末外装/終末論エスカトロジー』……この一振にてさっさと終わらせようか」


 そう言って俺はゆっくりとその杖で地面を突く


「お前が言う罪とはなんだ!俺様はただたくさんの人間に愛されただけだ!……それらが俺様のピンチを救ってくれてる……それのどこが罪だと!」


「だからお前はそもそもそのスキルのことを信じすぎだ……結局無実の、ただ生きようとしているだけのヤツらを無理やり洗脳して自分の糧とし」


 俺はため息を吐きながら


「それらを殺した罪を正当化するために自分の中で勝手に自我を形成し罪を許してもらっているフリをする……ただの臆病者だ」


「うるさい!うるさい黙れ!」


「故に裁きを下す……」


 俺の声に合わせて、周囲の空間が崩れ始める。


 ──出力は1%未満に


「終末機構/断罪執行エクスキューショナー!!」


 それは魂に対する絶対なる裁き。救いのないその魂を殺す一撃



「な、なにヴォ?!!グゴャア?!!イディい?!イデェフい!…」


 世界の崩壊が止まる。


 そして同時に変質していたトシもまたその身を本当の姿に戻した


 ……俺はゆっくりと起き上がらせる


 その……理想のボディを失ったトシを


「さて……とでは……君の旅を完全に終わらせるとしようか……転移者……いや君?」


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