第18話 異世界聖戦②/ノウリー・トシ(蒼原 俊典)破

 なんかよく分からないやつを巻き込んだなぁ……。

 俺はそう言ってため息を吐き出す


 ある程度トシの身体が限界になっていることぐらいはすぐ分かったから早いところ心をへし折ってやろうと思ったのに


「こいつは?……えっと何……」


「フラミンディだそうですな……全くただの雑魚悪魔風情がエイル様の手を煩わすでは無いわ!」


 なんかよく分からないけど、そこまで強くない悪魔と鉢合わせて……まあ片手間にボコったんだけど


「お、おのれ!私の獲物だぞ!……今すぐに私の縄をほど」


「うるさいなぁ……はぁ……まあいいや……『終末外装/終末論エスカトロジー』」


 俺は手にケインを展開し、それで地面を軽く叩く

 途端悪魔が拘束され。封印される


 周囲から流砂が発生し、トシの城を丸ごと飲み込み地下へと引きずり込む


「んじゃぁこれをうちの城の地下に接続するけど、いらないパーツは適当に処理をよろしく」


「はいはいーおまかせあれーって何さバハムート邪魔!」


「お主に任せてばかりじゃと腕がなまるのじゃ……ええい貸さんか!」


『アザトース?居るものとかある?』


『希望トかアル?……』


『それは無いですね……まず具体的に……』


 あっという間にトシの城の中の物、外のもの、それら全てが分解、再構築されていく


 こうして城は一瞬で縦長に引き伸ばされ……メルバニア城に接続される


「エイル様〜これが彼らの新しい住処って事ですね〜任せてください!」


 アリアとローランの手により城だった物の内部にはあっという間にトシによって捕まえられていたものたちの住処へと変貌する



「さてとそれじゃあ……「トシ」を起こしてやりますか」


 ◇◇



「やあ、目が覚めたかい?……あ〜安心してくれ」


「ひ、だ、誰だ?!……待てお前は理一?!何で……」


「うーん今はエイル、って名乗ってるからそう呼んでくれよ?下等生物くん?」


「ふ、ふざけるな!お前ごときが俺様を下等生物、だと?!巫山戯んな!ぶっ殺してやる!」


 俺はにっこりと笑って彼に


「うーんその威勢はいいけど、ねぇ?君つもりだい?」


「は?……体……ひっ?!う、うわぁ、!?」


 俺が指さしたところを見てトシは悲鳴をあげる。

 無理もない、赤く熱湯をかけられたように爛れた肌に

 体のあちこちが膨れ上がり、赤く青く変色している。

 蚯蚓脹れが体をタトゥーのように走り、今動いたことで破けた膿がポタリと彼の体を伝う


「お、お前がやったのか?!この体!……ふ、ふざけやがって!」


 俺はどうでもよさげな顔で


「いや自業自得だろが……?その体に現れてる結果は全てお前に対する恨みつらみの結晶だぜ?……いやぁ人の恨みって怖いねぇ」


 そう口に出しつつ、俺はこいつの釘バット風の武器を取り出す


「お、お前……それは俺の武器!……テメェ如きが何触って……ひい?!」


 俺はそれをトシに放り投げる。

 ビビってしまった彼はそれを取り損なうが


「ほらほらー君が武器も作れないほどに弱ってるって聞いてさぁ……可哀想だと思ったんだよね……もし良かったらそれ、使う?」


 そう煽る。


「な、なめやがって……俺様だって炎の魔法を使えば……『フレイムボディ』!どうだ!一時的に肉体を痛みから解放するこの魔法は!」


「で?……だから……?」


 俺は呆れたふうに言いながらお茶を取り出してそれをゆっくりと口に含む


「……てめぇのそのスカした顔、めったうちにしてやるよ!?!オラァ!」


 確かに彼の肉体は一時的にとはいえおそらく全盛期の状態だったのだろう


 だが、所詮戦闘センスが無さすぎた


「はぁ……ガッカリだ……弱すぎる」


「な?!」


 釘バットを振りかざすが、それを左手だけで受け止める。焔が迸るがそれを逆回転させ


「ごぼっ?!」


 そのまま蹴り飛ばす。

 俺はその姿勢のままさっき出てきた悪魔を呼び出す。


「な、何をしやがった!……お前」


 俺はその2人を眺めてにんまりと笑い


「ほら〜君たちで俺に挑みなよ?……ねぇそれがベストだと思うんだけど如何かな?…あ〜無理か所詮雑魚、だもんね〜」


 2人は呆気に取られたあと、顔を真っ赤にさせるぐらいに憤慨する


「俺と契約しろ!」「言われなくとも!」


 こうしてやっと全盛期に戻ったトシを眺めながら俺は


「(さてと……彼は気づいて無いかもだけど既に彼の精神は崩壊してるんだよね……それにいつ気づかせるべきか……ん〜愉悦のタイミングはまだここじゃないな)」


 そう言って心の中でにっこりと笑う


 ◇◇


 その様子を傍から見ていたバアルとオーディンは


「相変わらずあのお方は恐ろしい」


「ですな……我々なら慈悲を与える余地すらなく殺しているというのに……そこまでして……」


「ボク的に言うとあの人はとても優しいよ?……」


 モーガンがその会話に割って入り、それにソロモンも乗っかる


「そうですね、あくまで彼がやったことを彼の精神の中でとどめ続ける……そんな無駄なことをわざとやってあげている……それに彼の心をわざと保たせている……本当に慈悲深い方ですね」


 そう言って微笑む


 ◇◇


 焔を纏い、肉体の傷を再生させながらトシは立ち上がる


「行くぜ?……「言われなくても」!」


 さながら少年漫画の覚醒シーンのようにかっこいい感じでトシは足を踏み出すが


「「な?!」」


 バットをゆっくり俺が振るっただけで丸出し紙切れのように吹き飛ばされる


 ◇


「クソ!俺様の能力はこの場じゃ使い物にならねぇ……!」


「まあハーレムはまだ残ってるんだろ?……ほらほらー全力で来ないと死んじゃうよー?」


 その言葉に俺様はぐっ、と唸る


 確かにカンザス国内にはまだ俺様のハーレムは存在している

 そいつらの力を借りればこいつを……いや理一を倒せるかもしれねぇ……だが


 俺様のスキル『姦封獄ハーレム』は確かにスキル状態の奴のステータスとスキルを俺様の物として使える……だがそれをするとそいつはハーレムから解放されてしまう……


 もし、コイツに勝った後に全ての女と男が開放された場合俺様のカンザスでの立場が無くなってしまう……せっかく5年かけて築きあげた王国での地位を全て捨てるのはさすがに……


 そんな俺様の考えはわずか一振の攻撃で砕かれる


「オイオイ?雑魚がよ?……何お前は自分の立場を……人に愛されなくなるのが怖いのか?……ああ?」


 その言葉に俺様は唸る。いや唸ることしか出来ない

 そうしている間に、俺様の横を理一のバットが轟速で振りが下ろされる


 避けるもまるで俺様は紙くずのように壁に叩きつけられる


 ふと、辺りを見るとそこは俺様の実家だった場所……いや、正確には俺様の…嫌な記憶の…場所だった


 俺様はかつての、自分の過去が唐突に頭の中を駆け巡っていた







 もし異世界に転移した時に貰えるチート能力が、を体現しているのならば……俺様は



 ────ただ愛して欲しかった。




 親は俺様を4歳の時、捨てた

 散々殴り、蹴り飛ばして……その挙句にである

 幾度となく「お前さえいなければ私は!」と言われ続けた

 架橋の下、そこで俺様はただ一人泣き続けた。

 そんな俺様はそう言った子供を保護する組織に引き取られた


 だけどそいつらは俺様を愛してなどくれなかった

 仕事だから当然?それはそうだ


 それでも俺様をただ一人愛してくれる女がいた


「はーい、トシ君〜ご飯ですよ〜」


 そこまで美人じゃなかったと思う。ただ、とても優しい……俺みたいなひねくれた男にすら優しい女性だった


 俺様はそいつがどんどんと欲しくなった


 そいつには確か彼氏がいた。とてもイケメンで、そいつにはピッタリのやつだった


 俺はそいつが憎らしかった。齢8歳にして既に俺様は人として道を踏み外しかけていた


 俺様は他の子供よりガタイが良かった。それ故に俺様はひとつ決断をした


「そうだ、あの男からあの女を奪おう」と



 ある日の晩俺様はそいつらの家に侵入した


 驚くその男を殴り、気絶させて俺様はその女を奪った


 でも抵抗するから思わず殴ってしまった。その時のその恐怖で満ちた顔を見て俺様は初めて人を屈服させる喜びに感動していた


 それからのこと?ああ忘れもしない


 喚くそいつを無視して幾度となく楽しんだ。そして俺様は捕まった


 だが、後悔はしていない……いや、もっと楽しんでおけばよかった……殺してしまったのは少しやりすぎたと後悔はしているか


 その後、俺様は金持ちの男に引き取られた

 そいつは俺様を人目見て気に入り、養子にしたいと申し出てくれた


 その後はそいつは俺様の望みをなんでも叶えてくれた……ただ愛してくれていたかは知らない


 だから殺した。社会的に、徹底的に


 俺様に愛をくれないやつなどいらない。ただそれだけだ


 俺様はそいつの稼業を継いでたくさんの財を成した……まあそれでも本当の愛は貰えなかったがな


 ◇◇



 その過去を見て、エイルはため息を着く。


 すまん、全く共感できない……なんと言うか、それで人の道を踏み外していいわけが無いだろうが?


 俺は改めてこいつはやはり心の根底からぶっ壊さないとダメだな?と理解した


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