第14話 国境を越えた愛
カンザス帝国
そこは他の国より少しだけ愛に寛容な国
おかげで、街中では当たり前のように女性と男性の絡みが見ることが出来る。
一言で言うと、ひどく俗物的な
二言で言うと、愛を語るだけで救いようのない国だ
メルバニアがほとんど機能しなくなってから、そこにいた民たちは分散して他の国へと移って行った訳だが
その中でも特にこのカンザス帝国は多数のメルバニア国民も受け入れた
─それだけ聞くととてもよい国に思うかもしれない。しかしそれは間違い
「おら!さっさと起て!これだからメルバニアのゴミ共は!」
「あ〜可愛いわねぇ!さすがカンザス国民だけあるわね……それに比べてメルバニアのゴミたちは……」
「お前んとこのメルバニアン(メルバニア国民の俗称)、餓死したってまじ?……はははざまあないな」
市民たちがこんな会話を平然と公共の場で話しているのだ。
それはもう、国として終わっていると言ってもいいかもしれない
元々、メルバニアとカンザスはあまり仲が良くなかったのだ
国が隣と言うだけで、毎年のように紛争が勃発し
幾度となく血を流したのだから、まあその悪感情や、扱いの酷さは必然なのかもしれない
ただ、それでもある程度昔にはまだマシだったのだ
ノウリー・トシと言う男が帝国に現れるまでは
彼が現れたその日、カンザスにおけるメルバニア国民の存在意義は玩具へと変化した
自分たちの愛玩具。ただのストレス発散のおもちゃ
人として扱うことすら段々としなくなってしまうほどに乱雑に彼らは扱われて行った
◇◇
そんなカンザスとメルバニアの国境付近の村にて
女性と男性が喧嘩していた
「ねぇ!私はあなたが好きなの!分かってるでしょ?!私の運命の人!」
彼女の名は『オリバー・ワトソン』、メルバニア国からこの辺境の村に引っ越してきた冒険者
「無理だよ!僕たちは愛し合うべきではないんだから!運命の人なんて言わないで……」
彼の名は『マルフィー・ニック』、カンザス国の中では割とまともな優しい青年
2人の出会いは森の中だった
たまたま国境を越えて来たワトソンをニックが見つけ、連行しようとしたが
その時に現れた魔物を2人でなんとか倒してから恋心が芽生えた……というものだ
「……分かってるでしょ……私があなた以外を好きになることなんて無かったってことを!」
「確かに君は僕以外を見ることはしなかったし……それに……こんな強くもかっこよくもない僕を愛してくれるのは君だけ……だってことぐらい……」
「……だからって……ってなんの音?!」
そんなふたりの惚気話は、突然起きた轟音にかき消される
それはアビスが起こした『
「……!不味いんじゃない?何かトラブルが……ニック、あんた街に行って衛兵を呼んできてよ!」
「でも君を1人にさせる訳には!」
「いいから行きなさい!あたしが行くと間違いなくカンザスの奴らからはいい目で見られないから!」
「わ、分かった!……すぐに呼んでくるから……絶対に家の地下室から出ないで!」
そう言うと、ニックは駆けていく。
2人はなんだかんだお互いのことを気に入っているカップルだった。
村の人々は耄碌したジジイやらババアばかりで恋に馴染みのなかったニックと
恋する乙女の時代を冒険に費やしたワトソンはある意味惹かれ合うべき運命だったのだろう
─だが、覚えておくといい。この世界において運命は残酷なものだと
異世界からの来訪者が来た時点でこの世界の運命は潰れ、変質した。
ただ、それだけだ
◇◇
「お?なんだお前……へへへいい女を隠してやがったか……おい、お前こっちに来い!」
「いや!離して!」
「ぐへへへ……こいつをトシ様に献上すれば俺たちの評価も上がるだろうな……ぐへへへ!」
ニックが戻ってくる数日前のこと。
あまりに帰ってこないニックを心配し、つい外に出たところを運悪くトシの衛兵に見つかり
そのままトシに彼女は献上されてしまった。
運命は残酷だ。そしてそれは最悪な形に変質しているのだ
◇
結局衛兵には、雪崩でも起きたんだろ!いちいち俺たちを呼ぶな!
とキレられ、そのうえであらぬ窃盗の容疑をかけられたニックはやっとの思いで街から村に帰ってきた
─帰ってきたのだが
「……おいジジイ!どういうことだ!?ワトソンが連れ去られたって!」
彼は知る。ワトソンが衛兵に連れ去られたことを
「……なんでこんな辺境の村にトシ様の衛兵が来るんだよ!!!!」
彼は慌てて馬を駆り、トシの住む城へと飛んで走っていった
それがいくら無謀なことかを知りつつ。
──ちなみに、なぜその村に衛兵が来たかと言うと
理一に会いに行こうとしたけど、山が変化していて行けなかったから他のルートを探せと命じられた為である
その過程で、山に近いこの村にも衛兵が来ていたのだ。
ちなみに衛兵の仕事は、ついでに何人か女を引っ張ってくるというのもあるのだ
◇◇
「ふむ、世知辛い国ですなぁ」
俺はバアルとオーディンとカンザスを訪れていた。
目的はただ一つ、何処まで奴の手が伸びているか……そしてこの国の腐敗状況を確かめるためだ
「ま、現地の人間の選別は最優先事項だからな」
俺の城に腐ったやつや、救いのない奴らはいらないのだから
当然メルバニアの人間を国に戻すためにまずはメルバニア国民だったやつをどうにかカンザスから引き剥がさなくては
だが、まず街に入ったバアルの感想はただ一つだった
「……エイル様、皆殺しにしてよろしいか?」
「……気持ちはわかるが少し待て」
「さすがにこのオーディン、この国が滅ぶべき国だということぐらいは分かりますなぁ!!!」
まあ、酷い有様だ。あちこちで人を平気で踏みつける様子が映し出されている
子供から老人まで、性別問わずものすごい仕打ちを受けていた
「お?!旅人か?……へぇ……この国に来るということはあれか?メルバニアの女で遊ぶつもりかい?」
そう言って下駄な笑をする衛兵をかわしつつ
俺たちは国の中をある程度見て回る。
こういうのは俺は現地に行って確認することが重要だと知っている。
「懐かしいですなぁ……機械兵に汚染された村を迷わず光の槍落として消し飛ばしたら実は機械兵が良い奴で助けて貰ってただけだった……とかですな」
「あれは酷かった……本当に申し訳なかったな……あれで確かラジエルとバアルで殴り合いになったんだっけ?」
俺はふと懐かしい思い出を思い出していた
「お!あの姉ちゃんかなりイケてるねぇ!」
「オーディン、ここは婚活会場じゃないぞ?……はぁ……連れてくる奴ミスったか?」
「ミス?いやいや大正解でしょう!……いや〜この国ならば俺もたくさんのべっぴんさんに告白されて……それを」
「……お前のあのグッズみたいなやつはいないと思うが?」
「?!いやいやエイル様!……何事も諦めてはなりませんぜ!」
「いねぇよ!巨乳褐色ケモ耳ロリ(年齢は1000歳越え)でしゃべり方は『ごわす』で第2フォームで巨大化するとか!」
「性癖のオンパレード……でございますな……ま、ワシはそう言った話は興味あらぬがぬ故に……」
「そういえばバアルは恋とか、恋愛沙汰の話無いよな……」
「ふむ……強いて言うのであれば……ソロモン様はワシの初恋の人じゃった……それぐらいですかな」
ソロモン。バアルと戦った時に彼が最後まで護り続けた亡骸のこと。
復活はだいぶ先になるからということだったのだが、俺も正直忘れていた
「バアル……後で帰ったらソロモン生き返らせてあげるけど何か要望とかある?」
「……あのままでお願い致しますかな」
と、俺たちの目の前をふらふらと歩いている一人の男の姿が目に入る。
その見た目は、まるでぼろぼろ。ボロ雑巾。
そしてその右手は無くなっていた
「君、何かあったのか?」
俺の言葉に、叫び倒したかのような声で震えながら
──「何も……無かった…………無かった……無かった……無かった無かった!……」
そう言ってまた目を背け、独り言をブツブツと呟く男の目は、既に何もかもを失った、そんな目をしていた
「──君、少しだけ話を聞かせてくれないか?」
彼は不幸な男だった。
それ故に、最期の幸運が訪れたのだろう。
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