第12話 狂気の山脈は越えられない

 吹雪いているな。俺はそう言って窓から離れる


 ここは山の頂きにあるが故にとてつもなく天気が悪い。


「それにしても、この吹雪を引き起こしてる呪いって解呪出来ないのか?」


 俺はアリアに聞くが


「……うーん、私にはなんとも……あ、ですがローランなら知っているのでは?」


「アリア様……私も残念ながら存じ上げておりません……お役に立てず……申し訳ございません!」


「あ〜いや、別にいいんだよ……解呪する気は無いし……むしろ利用する気だから」


「ではなぜ?解呪できるのかと聞かれたのですか?」


 2人ははてなという顔をしている。


 俺は、まあ何となく。と答えて考え込む


「(幸いこの吹雪があるおかげで天然の要塞になってるが……もし外側から解除されたら面倒だな……)」


『(アザトースいるか?)』


『……ナニ?』


 だから首だけ飛ばしてくるな……と何度言えば……


 俺はアザトースに山に仕込んだ狂気の残滓はどうなったか聞く


『アレ?あああレはねェ……』


 珍しく上機嫌になりながら笑顔(たぶん笑顔だと思う)で


『いィ感じノ羽化をハタしたよォ?!』


 それは良かった。こちらも計画に移せ……


 ……羽化?


 俺はさすがに疑問に思い尋ねる


「狂気の残滓が羽化って何だ?」


 ◇◇


「それにしても私の部屋ですか?………筋トレ用具しか無いですが……申し訳ありません……私の配慮が至らぬばかりに……あ、ダンベルとかなら山ほど……」


 なんというか、君女の子なんだからもっとおしゃれして着飾ってもいいのよ?と言いたくなるタイプの部屋だった。


 ローランの性格上、まあ確かに何か配置するものがあるかと言うとそれは無いのだが


「……まぁ!ローラン、味気ないわね!……あたしがちょいと弄ってあげるわ!」


「アリア様?!ありがたいのですが……その……は、恥ずかしいのですが?その手に持ったTシャツをそこに飾るおつもりで?!」


「何よ!悪い?」


 まあアリアのセンスが壊滅的なのはわかるぐらいには酷いTシャツだった。


 ちなみにTシャツは終末世界から持ってきた服屋さんの手で作っている。


 なお、素材は瓦礫やら錬金失敗したゴミだったりするが……その分圧倒的な防御性能を誇るのでぜひ1人1着オススメしよう


「……次の部屋はアリアのなんだが?俺は既に嫌な予感がするのだが?」


「そんなことないですー!私の部屋は綺麗です!……ホントですよ?」


 ◇


「…………ここが君の部屋?なのか……アリア……」


 俺は目を覆う。

 アリアのそのビジュアルから繰り出される圧倒的なセンスのない部屋の配色とそれ以上に集められたゴミが散乱し……


 一言で言えば、ゴミ屋敷だ


「ろ、ローラン?!その掃除道具は……ああ?!」


「アリア様がお片付けが苦手なことは知っていましたが……まさか……ここまでとは……」


「…………えぇ……」


 俺はそっとその場を離れる。なんというか、うん


「……で?なんでさっきから柱の横からちらちらこっちを見てたの?レヴィア?」


「次は私の部屋!見せてあげるわ!」


 ◇


「…………一言いいか?……お前の父親……魔王が苦労したことぐらいは俺でもわかった」


「な、何よ!……え?どこがダメなの?」


「ダメとかそういう話じゃなくてな?……お前さんさあ……?」


「?暖かいでしょ?」


 部屋には所狭しと魔族御用達の道具が置かれ、床からはバーナーがごとく火が吹き出して

 バエルとは異なった地獄を形成していた。


 壁には骸骨(壊滅したマフィアの亡骸)がひっきりなしにぶら下げられ

 そのうちの一体に関しては、口と目から真っ赤な血を無限にダバダバと垂れ流す温泉みたいなことになっていた。


「……そこがお風呂?……」


「うん、血の温泉がないから作った!」


 うーん、この子の本質にはやっぱり魔族の血を引いてるんだなあ……としみじみ俺は実感していた


「タスケテ・タスケテ」


「あ、お風呂が沸いたって……入る?」


「……遠慮します……と言うか今の声なんか骸骨が喋ってませんでした?」


「そりゃそうよ?……これまだギリギリ生きてるし」


 ……「可哀想だからやめたげて?」


 いや、色々な意味でこの子の将来が心配になった。



 ◇


 最後に、アイオンの部屋に入ると


「…………なぁこれ画面黒色しかないんだけど?」


「……真っ暗ですからね……すみません……私はこれが落ち着くので……」


「……うん、まあたまには陽の光浴びなよ?」


 ◇









 ────ここは近くの山脈



「と、トシ様!……地形がまるっと変わっているようです!……この先に進めません!引きかえ……ぐぅ?!」


 俺様はため息を着くと


「ちっ!使えねぇヤツめ……せっかく高い金でかった女だから期待したんだがな?」


 俺様はそう言うとそいつを蹴り飛ばす。


「……あ……」


「おいゴラァ?、さっさと馬車回せよ!……何ちんたらしてんだ?……ちっお前らも使えねぇやつ認定されたいんだな?」


 馬車の馬いや、を引っぱたく。


「あ〜もう頭きた!クソがよ!……せっかく寒い中来てやったのに山の形が変わってるとかまじ無いわ……はぁ……あ〜イライラする!」


 俺様は首と手をポキポキ言わせながら近くにいた男を呼ぶ


「は、はい!な、なんでしょうか……?!」


 俺様は笑顔で


「おう、俺様のストレス発散に付き合え。お前ボーリングの玉な?んであそこの木がピンな?んじゃ」


「え?」


 首をがっしりと掴むと、ぶん投げる


 哀れなことに投げ飛ばされた男は木を逸れてそのまま近くの川に落ちる


 ドボン。と言う冬の、雪景色の中では聞きたくない音が響き渡り彼の周りの人間はみんな目を背ける


「た、助けて!?ひ、か、身体がああああ?!!!!」


 慌てて近くの女性がその人を助けに行こうとするが


「おい?何勝手に俺様の許可なく動いてんだ?……ああ確かお前は……ふーん?」


 女性はこくこくと頷いて旦那の元に駆け出そうとするが


「………あ?イラッときたわ、うん俺様のストレス解消よりその男を優先とか無いわーうん、お前も同じ目に合わせてやるよ」


 そう言うと、驚いて固まっている女の首を掴むと


 ──先程と同じ角度でぶん投げる


 だが、彼女は運が悪かったのだろう


「─あ」


「HAHAHAHAHAHA!!!フォーー!最高だ!俺様の腕は完璧だなぁ!素晴らしいじゃないか!……なあ!……!!!!あ〜スッキリした!んじゃ帰るか」


 寒さに震えるお共を引き連れ、男はくるりと翻して元来た道を帰り始める。


「あ、あああああああああああ?!!!!!!!」


 しかし、そこに目掛けて一人の男が殴り掛かる。

 男は先程、妻をでなくしたばかりだった。

 そんな光景を目の前にした彼は怒りで理性を失い、感情のままに殴りかかったのだ


 だが、相手が悪かった。


「ちっ、俺様の役に立たないゴミは消えろ……ついでにお前はあえて生かしておいてやるよ?……まあせいぜいこの地でそこのゴミを獣からでも守るんだな?」


 そう言うと、腕をへし折り、足を叩きおりながら投げ捨てる。


「うん、満足満足ぅ!」


 そう言って男は趣味の悪い馬車を引き直して再び道を引き返して行った





 その後、しばらくして一人の男の怨嗟が氷雪の大地に響いた




「ゴミ……俺の、俺の妻はゴミだとでも言うのか?!ふざけるなふざけるな!!」


 ─「ふざける……な……」


 男は、そこで見た。


 妻の亡骸にゆっくりと群がる魔物たちの姿を


「お前たちが触れるな?!……ああ……?!」


 だが、そんな彼もまた、氷点下の川に投げられ、そこから這い上がり……そのうえで足と手をおられた状態だったのでなすすべもなく雪に倒れ込む。

 這い上がるための気力もなく


 ただ、目の前で妻だった何かが食べられるのを見ていることしか出来なかった


 それでも、馬車が去った方角を向き直り、睨み返す

 それに意味がないとわかっていても……



 そして、そんな彼にさらに追い打ちを与えるものがあった。


 彼の首につけられていたのは、隷属の首輪。


 その効果は、彼が主人から一定距離離れると爆発する、と言う仕組みのものだ


 それが静かに起爆した。



 ──それをわかっていて、あえて生かしておいてやるよなどという言葉をかけたのが


「蒼原 俊典」……今は、ノウリー・トシと名乗るクズである


 彼は異世界に来る前から、許されるべきでは無い人物であった


 しかし、彼は異世界に来たことでその僅かに残っていた良心すら消え失せ


 ただのクズに成り下がった。





 ────2人の無念の残った亡骸は雪の中、静かに魔物の腹の中に収まる


 こうして、無念ははらされることなく消え失せる



 …………



『おヤ?……イイむネン?……』


 アザトースは狂気を拾うことができる。

 その狂気は無念だったり、深い絶望であればよりしっかりと拾えるのだ



 とてつもなく大きな無念。それはアザトースを通してエイルに伝えられる




 雪の中に散った無念。それは本当に切実な無念だったのだろう


 けれど安心していいだろう。そんなことを理一は決して許しはしないのだから







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