第9話 異世界聖戦①/VSリエスティナ(青井理絵)破

 必死に攻撃を続けるが、エイルには全く通じていない。


 ありえない、そう思うことで何とか平静を装うとするが


「あれ?魔法とか必殺スキルとか使ってこないのか……?」


 私は思わず


「黙れ!私は魔法が使えないんだ!」


 そう言ってから、自ら手の内を晒してしまったことを後悔する


「……っ!『透過』!」


 私はエイルの足元を透過させて落下させようとするが


「甘いなぁ……君は」


 そう言いながらその攻撃を躱される。なんて反射神経……そう思った瞬間


「?!ガッ!?」


 私の顔面に拳が突き刺さる。


 そのまま崩れ込む私の腹に、攻撃を打ち込まれ、私はそのままうごけなくなってしまう


「……あ、有り得ない……私のス、スキル『透過』は攻撃を喰らわない……はず」


 そんな様子の私にエイルは


「それは普通フラットな時だけだ……分からないかな?……俺は君と同じように『透過』しているんだよ……」


 そう言って振りかぶった拳は私の肉体を壁にめり込ませる


 ◇◇



 自分の肉体、及び触れたものを透過させる能力。

 それに俺は見覚えがあった。確か『泥王ボルボロス』とか言うスライムの能力だったはず


 かつてそいつと戦い、勝利した時俺も勿論『透過』を『簒奪』している


 そのスライムと根比べをするつもりで似たような『透過系能力』を使ったら何故かそいつに攻撃が通ったのだ


『透過系』のスキルは肉体を一時的に別次元に移すことで透過したように見せる物だ。


 つまり、次元を超える技、もしくは同じように次元を超えたものがぶつかればその効果は相殺される


 少なくとも知っていなければ無敵な能力なのだから、気の毒に俺は思う


 ◇◇



 ─殴られたのはいつぶりだろうか


 私は目元がチカチカして、身体に力が入らなくなっていた。


 異世界人は頑丈だとあの王様は教えてくれたっけ?


 その割に今の一撃で体のあちこちに力が入らない。


 ─嘘つきめ



 私は起き上がりながら、上を見るとそこにはマフィアの連中が私の指示を受けるべく待機していた


 そうだ、まだ手の内は明かしていない。


 私は不敵な笑みを浮かべるとゆっくりと息を整えて


「……ねぇ、エイル……いえ、理一君……能力無効弾ロストって知ってる?」


 そう言うと同時に、私は上に合図を送る


「ロスト?ふむ聞いたことがないが……おや?」


 私はにやりと笑い、叫ぶ


「なら!教えてやるよ!撃て!」


 7色の光が彼を包む。何百通りの爆発がエイルを容赦なく襲う。


「……『能力無効弾ロスト』……墨白……いえ、スミス・ホワイツのスキル……相変わらずすごい能力だよね」


 私は白っぽいスモークの中に見えている影目掛けて殴り掛かる


 あの光を浴びたら一時的に能力が封じられる。その隙を殴る


 アイツに戦闘経験があるかは分からないけど、それでも


「アタシの方が、強いに決まってる!」


 拳につけたクローが綺麗に刺さった。魔力を使用し、盛大に加速した私の拳は確かにエイルの心臓を貫いた


 その手応えに私はにやりと笑う


 ─勝った


 私がそう思った瞬間



 ──「甘いなぁ……ほんと」


 右手でクローごと止められていた。


 そしてそのまま地面に叩きつけられて起き上がる間もなく蹴り飛ばされる


「……?!ガッ……」


 私は鉄の地面をガリガリと削るように吹き飛ばされ、壁に激突する


 スモークを潜りながらゆっくりとエイルは近づき

 告げる


「……君如きが俺に勝てると思うなよ?そもそも地力が違う」


「……地力……だと?……私がお前に劣っているとでも言うのか!」


「逆にそれ以外何があるのさ」


 私は絶叫し、殴り掛かる。

 今、あいつはスキルも能力も使えないはず……なら私がキャットファイトに持ち込めば


 持ち込めば


 持ち込め……ば?



 掴みかかったのに逆に叩きつけられ、起き上がったところをコンボ的な何かで宙に浮かされて殴りを入れられる。


 何故かどういったルートを辿ってもその全てをことごとく躱され逆に私は殴り続けられる




 ──何とか私は立ち上がり、部下たちに告げる


「お、お前たち!私を守れ!」



 ──だが


「あんたには失望した!」


「こんなふうにボコボコにされるやつがボスとか有り得ねえ!」


「負け犬風情が!」



 逆に罵られる。


「はぁ?!……な、なんであんたら……ちょ、待って逃げないで!お願いだから!」


 私の元から気がつくとほぼ全ての部下が逃げ出していた。


「なぁ……お前人望無さすぎねぇ?」


 エイルにそう言われた気がしたが、私は体の痛みと深い絶望に苛まれてしまっていた




 ◇



 ──いつからだろうか、強いひと 強い考え 強い意見に着くようになったのは



「理一が勇者なの納得いかねぇから俺たちで追い出そうぜ!」


 光輝がそう言った時、反対するものはいなかった。

 いや、あの場で反対意見を出したのならば即刻居場所を失っていただろう

 特に私は魔法の適性がゼロだった。


 私以外はみんな魔法が使えたのでもし私が逆らえば間違いなく私も追放されてしまうだろう

 まあ私はその後にも居場所を失ってるんだけどね。はは……


 異世界に来た時、私はやっと自分の親から開放されたことに感謝していた


 いつも口うるさく注意してくる母親に、話を聞いてくれやしない父親


 私が格闘技を極めたいと志願したら、「お前は勉学を捨てるのか?」「あなたは女の子なんだからもっと美しいものを学びなさい」そう言われた


「マフィア映画?そんなものを見て何になる!」


 私はマフィアが好きだ。いや、ああいった沢山の悪い大人を引き連れて行くボスに昔から憧れていた


 だから異世界に来たら、まっさきにマフィアを立ち上げてそのボスになろうと努力した


 幸い、自分には転移時に獲得したスキルがあった。それを使ってマフィアを立ち上げるのは割と簡単……ではなかったかな


 何度も部下とは衝突したし、裏切りにもあった


 どんなに頑張っても、所詮私は映画で見たマフィアのボスのような風にはならなかった


 着飾って、カッコつけて、力を誇示して、沢山の人に恩を売って……自分の夢を叶えるためにやれることはやった。

 部下の願いを叶えるために自分のプライドすら幾度となく捨てた



 ──その末路がこれかぁ……



 あ〜あ、こんなことなら異世界にくるべきじゃなかったな。夢がかなってそれの現実を知って……夢を結果として持てなくなって


 ─私は何のために生まれてきたの?



 私の心の隅でそんな言葉がずっとこびりついていた


 ◇◇



「君の部下は薄情な奴らなのだね……まあ同情は居るかい?」


 俺はそう言って近づいてみる。たぶんこれで彼女の心が折れてくれれば色々とやりやすいのだが


 ─「あんたはなんでそんなに……強いのさ……」


 虚ろになった彼女はそう言って俺を見る


 俺は答えるべきか一瞬迷った。


 だが答えてあげることにした



「……戦ってきた年月が違うからな」


「……そっか……………何年ぐらい戦ってたんだ……お前は?」


「まあ、ざっと20?」


「…………それは勝てない訳だ…………」


「そろそろ諦めてくれたかな?大人しくしてればあまり痛い目に合わせずに終わらせてあげれるんだけどね」


 俺がそう言うと、リエは


「……まあ最後まで足掻いてみる……勝てるかは分からないけど」


 そう言って拳を構え直す。そこにはもうプライドも何も無く、ただ戦いで散ろうとしている1人の女性の姿があった


「はぁ……部下には裏切られて、異世界ではみんなの意見に流され続けて……挙句魔法も使えないとか……ハードすぎる異世界で……最後は復讐に燃える……」


 そこまで口に出し、リエはふと疑問に思った


「お前……復讐に?なんかお前からは同情とか、憐憫とかの気持ちを感じるんだけど……?」


「鋭いね…君は」
















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