第8話 異世界聖戦①/VSリエスティナ(青井理絵)序

 異世界人と異世界人の戦いは突然に起きた。

 それはある意味避けられなかったものがようやく訪れただけなのだが


 きっかけを作ったのはもちろん俺。とは言っても何か手を出したり、邪魔をした訳では無い


 強いて言うなら


 暖かいラーメンを食べながら冒険者ギルドの前を彷徨いていただけだ。


 冒険者ギルドはほぼ機能していなかったので、マフィアのたまり場となっていたのだが


 俺はただそこで美味しいご飯を食べていただけなのだ。

 ご飯を食べて本を読みながら時間を潰し、食べ終えたら帰る。


 これを3日ほど繰り返しただけだ。別に何も邪魔をしている訳では無い……そもそも冒険者ギルドのまえでご飯を食べることの何がいけないのだろうか?


 まあ少しだけ、いい匂いをさせ過ぎたかな?とは思うが


 実際何度かそれをよこせ!と言われたが無視している


 という訳で俺はめでたくマフィアに喧嘩を売られた。


 まあ売られた喧嘩は無視するに限る。


「……てめぇ!聞いてんのか!」


 俺は先程から俺につっかかってくるマフィアの下っ端を片手であしらいながらお茶を飲む。

 いい紅茶だ、香りが違う。さすがは騎士団長が入れてくれた物だ


「くそっ!もう我慢ならねぇ!……てめぇぶっ殺してやる!」


「お、おい!待てボスにこいつに喧嘩を売るなって言われただろ!」


「ああ!?あんな雑魚女の顔色なんざいちいち見てるのには飽きたんだよ?!」


「あぁ俺もそろそろ我慢の限界だ!やっちまえ!」


「くそっ!腹立つ顔しやがって」


 ─?俺は別に普通な顔をしてるんだがな


 俺目掛けてハンドガンをぶっぱなすマフィア。

 その弾丸を俺はラーメン共々箸で止める


「何?!」


 そのまま箸を置く。そしてゆっくりと椅子から立ち上がり


「おやおや……人に銃を撃ち込むとは……うん、いい度胸だ、殺すのは最後にしてやる」


 そういいながら、爪楊枝を俺は投げる。


 着込んでいた鎖帷子の隙間を縫うように飛んで行った爪楊枝は、目の前にいた2人の土手っ腹に穴を穿つ


「?!ぎゃ、い、いてぇ?!」


「ひっ!?血、血が?!」


 さすがにただの爪楊枝とはいえ、この俺が投げたものだ。然るべき威力を発揮する訳で


「お、おい?!貴様何をやった!……ボス、ボスを呼んでこい!」


 俺はゆったりと首を回すと


「……?人に銃を撃ったらダメって知らないのか?第一、俺はただ飯を食っていただけなんだが?」


「だ、黙れ!この食料の少ない時にそんな風に飯を食べるやつは犯罪者以外の何物でもない!……しねぇ!」


 言うねー、と思いつつその突っ込んできたやつの片手を掴むと


「粗悪な剣で何をしようとしてたのかな?ねぇ……?」


 俺ゆっくりと拳を握り、その男の顔を狙い殴ろうとする。しかし


「ん?」


「そこまでだよ!……悪いけど、この三銃士からは」


「逃れられることなど」


「出来ぬぞ?!」


「なーんてな!」


 4人いるけどね?……まあ確かに原作の三銃士も4人いるけど、いやそこじゃなくて


「悪いねぇ……ボスは今忙しいんだ……即刻片付けて休むとするんでな!」


「休日だったってのに騒ぎを起こしやがって!」


「どんな痛い目に合わせてやろうか逆に悩んできましたねぇ!」


「そうです!やっちまいましょう!」


 威勢というか元気が宜しいようで


「あのさぁ……せめて名前言ってくれね?……まあ覚える気は無いけど」


「俺の名はアトス!」「私はアラミス」「俺はポルトス」「私はダルタニャン!」


「「「「4人合わせて……三銃士!」」」」


「ふーん、んじゃあとは任せた……『滅殺鏖殺スクラッパービルドキングV2』!」


 ずん。という音がして俺の後ろに機械でできた2m程のロボットが現れる


「はっ!大したことなさそうな名前……」


「任されたで候、拙僧、容赦なく殺すでござる!お命ちょうだい仕る!」


「「「「え?」」」」


 わずか一撃でそいつらは壁にぶつけられ、そのまま気絶する


 言い忘れていたが、こいつは普通に強い。


 どれくらい強いかと言うと、こいつ一体で国が2つ消えた


「もろい!脆いでござる!拙僧が強すぎるのか?!……あ、エイル殿!お呼び頂き感謝恐悦至極!我、新世界に爆誕で候!」


「うん、なんでこうなったんだろうね」


 ちなみにこいつの製作者はマキナである。ネーミングセンスが死んでる?うん、それはそう


「後片付けよろしく〜」


「こいつに任せるの癪なんで私がやります」


 マキナがひょっこりと出てきた。


「主殿!私のコックピットから出てくるのは恥ずかしいで候!女の子の胸の中から出てくるなど破廉恥で候!」


 え、君女の子だったの?


 それは初耳


 ◇◇



 騎士団長を救出した日の夜、みんなでご飯を食べながら作戦会議をしていたのだが


「普通に殴り込みではダメなのですか?」


 アリアはご飯をもごもごさせながらそう呟く


「こやつ変わっておってな……絶対に自ら殴り込みをせんのじゃ……」


「そうですね、私達を倒した時もこちらから仕掛けない限り動かなかったですからね……あ、そこのハンバーグ取ってオーディン」


「俺の扱い酷くね?……あいよ……まあ確かにこいつはそういう奴だよ」


「バアル!ニンニクを喰らえ!」


「お主ご飯で遊ぶとは良い度胸だな、神様の割に悪魔よりマナーがなっとらんとかふざけとるのか?ラジエル?」


 ご飯で遊ぶなはそれはそう。ともかく


「俺は相手が動くまで動かない……何故かと言うと、それが最前のパターンになるからな」


 そう、相手に動かせる。言い換えれば相手のペースに乗らせるのだ


 そうすれば相手のペースを逆に乱しやすいし何より、それの方が復讐として楽しい


 万全の相手を万全の状態のまま倒す。これは昔からゲーマーだった俺の癖だ


「ならばどうするのですか?騎士団長……ローランはまだ動けないでしょう?」


「姫様!私はいかなる時でも呼ばれればすぐに動きますが?!」


「あんたその傷治ったばっかでしょ!ほら!アリアさんの悲しそうな顔みてよ……分かったらさっさと体を完全に治しなさい!……あ、そこの臓物スープください」


 待て、レヴィアそれ臓物だったのか?レバーとかだと……


「失礼、エイル様、影からの報告ですが……」


 後ろにアイオンが現れる。

 一応彼女には影から常にあいつらの動向をチェックしてもらっていた。


「……ご苦労さま、……ふむどうやらあまりマフィアの子分たちとの仲は良さそうでは無いな」


 俺はその情報を利用することにした



 ◇◇



 まず、俺は彼らのマフィアの子分たちにリエスティナの裏金の話をばらまいた


 当然根も葉もない話だが、それを裏付けるように壁の中に金銀財宝を忍ばせてそれを子分達に発見させてその話の泊をつける


 さらに彼らの冬の間使用する暖房器具に細工を施し故障するようにマキナの手で仕組んだ


 それにより、自分たちのボスは信用ならないという心理的なダメージと


 寒さによる環境のストレスが合わさり



 そして極めつけに冒険者の一部には暖かなご飯を手渡し、それを食べている姿を目撃させ続けた


 まあそうなれば


 大混乱というか暴動ぐらい起きるわけだ


 ◇◇



「くそっ!理一か!……あいつめ、思ってたより小癪な手を使ってきやがる」


 リエスティナは慌てていた。


 一斉に押し寄せる部下からの情報、それらをひとつひとつ捌く前に次から次に問題の報告がくる


 そうして慌てていたが故に


「おや?大変そうだね」


 簡単に理一、いやエイルの侵入を許してしまった


「……理一!……あんたかなり卑怯な手を使いやがって!」


 リエスティナの言葉に理一は


「あぁ、今は俺はエイルって名乗ってるんでな……何感動の再会じゃないか……どうだい?お酒でも1杯飲むか?」


 何が感動の再会……だ!とリエはキレそうだった。

 彼女はワンマンでこのマフィアを動かしていたがゆえの問題


「……なあり、いやエイル……お前は何がしたいんだ!」


「ん?決まってるだろうが……復讐さ……逆に何があるって言うんだ?」


 そう言って肩をすくめる。まるでひょうひょうとしている癖にその立ち振る舞いからは一片の隙すら無かった


「……復讐……か、確かに私たちのことをお前は許さないのだろう……だが過去は過去、今は今だろう?……せっかく戻ってこれたんだし復讐なんて忘れて……さ!」


 そう言いながら、リエは手元に隠していた爆弾を投げつけ、起爆する


「……ちっ!これじゃ殺せなかったか……」


 だが、まるで効果は無かった。


「なら!行くぞ!私の、異世界での経験とスキルをくらいやがれ!」



 そう言って拳を握る。


「拳?君その見た目で格闘系なのか……驚いた」


 どこが驚いてるんだよ、とリエは思う。


 だが、アドバンテージはこちらにある。私のスキルの概要はおそらくアイツは知らないはず……なら


「先手必勝!」


 私は脚に力と魔力を込め、エイルに向かって拳を振るう。


 当然防御の構えを見せるエイル。しかし


「甘い!スキル『透過』!」


 その攻撃はエイルをすり抜ける


「何?!」


「こちとらしっかり鍛えてんだよ!」


 そう言いながら後ろの壁を使い、体勢を回転させ、再び加速し殴る。


 拳に仕込んでいたクローをエイルの無防備な脇腹に叩き込み


「(勝った!)」


 彼女がそう思った瞬間



「……『』」


 


 ??!私は訳が分からずそのまま地面に拳が刺さる。

 慌ててそれを引っ抜くとまるで涼しい顔をしたエイルの姿が見えた


「どうだい?使


 エイルは優しい、されど悪魔のような笑顔で微笑んでいた














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