第5話 動き出す因果

「……アタシは何も言わない!……あたしを拷問したければするがいいさ!……無駄だろうけどね!」


 アイオンは精一杯の去勢をはる。しかしそんな物が通じる相手ではなく


「エイル様〜こいつの上半身潰していい?片ずけるのがめんどくさいかもだけど〜」


「それは最後の選択肢だマキナ……どっちみちにしろまずはこいつから話を聞かないと……な」


 アイオンは内心でやってみやがれ!と思いつつも身体からは震えが止まらなかった


「は!……さっさとやれよ!……まぁアタシは暗殺者だから拷問には慣れてるんだよ!」


 そう言ってみたはいいが、その言葉にターゲットだったはずの男はうーんと、唸ったあと


「レヴィア?コイツの血から何か分かったか?」


 そう言った。


 奥の方から歩いてきたレヴィアと言われた魔族のハーフの女の子は、口の中をもごもごさせた後


「うーん、まあどうやらこの世界の人みたいね……うん……特に異世界のものではなさそうな感じ」


 そう言ってまたゆっくりと欠伸をしたあと


「……ってか訳も分からずにパパからアンタに着いてけって言われたけど……最初の仕事が拷問とか本当にデリカシーにかけるわね」


 そう言って去っていった。


「は、……だからなんだ!私は決して拷問などには屈し」


『あらぁ……終わりましたよォ……?いやぁアナタのその脳髄液……トーっても美味しかったわァ……ふふふご馳走様でした……あ、そうだわァ……これ、何だけどぉ……見る?』


 え?


 私は理解出来ずに、ぼーっとしたあと


「……待て……私の体に何をした?!」


 そう叫んだ


『?何ってぇ?……?』


 そう言うとその女性……いや、首を180度ひっくり返して私の顔に近ずけてくる化け物は歪んだ笑みを浮かべた


 ◇


「アザトース、さすがにやりすぎだ……全く」


 俺はそういうとアザトースを下がらせる。

 額からは脂汗をだらだらと流すその暗殺者に近寄り、そいつの顎をぐいっと持ち上げる


「……ぐご?!」


「さて?君にはもう用がない……先程アザトースが君の脳を半分ほど食べてな……それで君が隠し持っている全ての情報を抜き取ったのだよ……」


「…………え……」


「だから君を生かす価値はもうない訳だ……ふむ、残念だな」


 俺はそう言って手で頭をグッと掴む。


「…………ひっ、や、辞めてください!……お、お願い……します!」


 先程までの勢いはどこに行ったのやら。暗殺者は命乞いを始めた


 まるで人間を相手にしているような素振りが一切ない……それだけで、彼女の心を砕くには十分すぎた


 必死にもがくが、まるで意に返さないようにアイオンを持ち上げる


「……だずげで……ぐだ……ざい……」


「……ふむ、まだ生きたいのか?……」


 その言葉にこくこくと頷く。俺はその顔を見たあと


「……まぁ来世に期待しな?……なぁに……一瞬の痛みしかないからさ?」


 ◇


 逃げようとしても、ぐちゃぐちゃになった足は言うことを聞かないし、腕力が強すぎて逃げるなんて不可能


 そしてその手に力が込められる。


「(あ、死ぬんだ……あーあ、恋とかしときゃ良かったなぁ……)」


 私は何故か、初恋の……そして最初の獲物のことを思い出していた


「(ごめんな……私もあんたのとこに行くよ)」


 そう私は思いながら目を閉じる







 ……が、しかし痛みは一向に訪れなかった


 代わりに、


「……おーい?目ー開けな〜」


 私は恐る恐る目を開ける。


「……なんで私を殺してないんですか……?」


 何故かぐちゃぐちゃになっていたはずの下半身が治っていた


 それだけでなく、ご飯すら用意してあった


 困惑する私に、ターゲットの男は苦笑いしながら


「あのね……人間って増やすの難しいんだよ……ね」


 そう言ってため息をついたあと


「……まぁ君を殺す理由なんてないんだよ……だって…………まぁ言っちゃなんだけど……異世界人じゃない時点で俺は君を殺す気なんて無かったんだよ?」


 そう、笑顔で囁いた



 ◇◇


 俺は別に世界の全ての人間を皆殺しにするジェノサイドなことをしたい訳じゃない。


 実際、それをやった結果があの終末世界なのだから……


 俺は絶対にあんな世界をまたひとつ創る訳には行かない。

 そのためには、現地の人間をできるだけ選別しつつ、しっかりと味方につけるべきだ


 まぁ、それは俺のエゴだ。もし仮にこの暗殺者がアリアや王様といった俺とは別の無力な人間を狙っていたのならば殺していた


 だが、その敵意が俺に向いている限りは殺すことは無い


 ただ、それだけなのだ




 ◇◇



「……で?なんで私は風呂に入れられているのだ?」


「それはマスターに聞いてよー」


「本当じゃぞ……まぁいい湯であることには変わりないからいいのじゃがな……というかお主は機械なのに風呂に入る意味が有るのか?」


「安心してください……私のボディは完全防水ですから!」


「なんか楽しそうだな……俺も混ぜてくれよ!」


「「おめーは男湯に浸かってろ!オーディン!」」


 ……なんの会話をしているのだろうか?


 私はそう思いつつも、久しぶりのお風呂を満喫してしまっていた。


 グロリアスにいた時はこんなにゆっくりとお風呂に入る時間もなかった……そう思うと余計に体がほぐれてしまっている


 まずいな……暗殺者なのにこんなに気が緩んでしまっているのは失格だ早急に逃げねば!


 そうは言うが、この風呂から離れることは出来なかった


 ◇◇


「はーいい湯じゃわ〜お!そうじゃこんなものもあるぞ?」


 風呂上がり、バハムートと名乗る女性から私は何かを受け取る。


「これは?」


「エイルが言うには……風呂上がりに飲むものコーヒーー牛乳とか言うものだそうじゃが……これがまたいいのじゃ!……ああそうだマキナは飲めんのじゃったな?」


「私は完璧で究極の機械生命体ですので飲めますが?」


 私はそれをゆっくりと恐る恐る口に持っていく

 見た目は透明なビンの中に茶色の液体が入っているものだ


 ……もしこれに毒が入っていたら私は死ぬのだろうか?


 そう思いながらそれを飲む


「…………美味しい?!」


 初めて味わった味だ……風呂上がりの体に妙に馴染む、そんな不思議な飲み物に私は驚く


「お!コーヒー牛乳飲んでるのか!……俺も飲むか」


 エイルと呼ばれていた男が歩いてくる。


「驚きました……まさかあの数分でこんなお風呂を作るなんて……さすが勇者様です!」


 後ろからはアリアと呼ばれたこの国の王女様と


「血の温泉は無いの!?……えー作って!作って!」


「誰得だよそれ?」


 レヴィアと呼ばれた魔族の女性が歩いていた


「くう〜やっぱこれだよこれ!……あ〜俺もお風呂上がりに飲みたかったな〜」


 そう言っているエイルという男に私は尋ねる


「……なんで私を殺さないでむしろこんないい待遇をしてくれているのだ?」


 それは純粋な疑問だったからだ


「……なんで、か?……まぁ人っ子1人いない世界にしない為には必要な事だからな」


 ?意味がわからなかった。けれど、その目にはいっぺんの曇りもない……ある意味透き通ったような目に私は心をうたれた


「……もし良かったらこの国に仕えないか?あ〜ちなみに頭の中に埋め込まれていた発信機は壊しといたからね?」


 ……私は自分の頭の中に発信機を埋め込まれていたことを驚きつつ


「……分かりました……私『アイオン』はエイル……あなたに仕えます……どうぞよろしくお願い致します」


 ……その判断が私のこれからをどうするのかは分からない。けれど、私を殺すのではなく1人の人間として扱ってくれているということを踏まえると、今更グロリアスに戻る気にはなれなかった





 ◇◇◇







 ……「何?!アイオンが消息を絶っただと?!」


 カイザー・コウキは自室のベットで横になっている時にその情報を知った。


 と、その時彼の部屋の扉を叩く音が聞こえてきた


「よう……!元気か?……」


「青井……いや、リエ!……お前が来るなんて珍しいな……どうだ?マフィアの方は」


 リエと呼ばれた女は方を透かしながら


「まぁ相変わらずだよ……それであの手紙は本当なのか?」


「あぁ……これはまだ他の奴らには伝えていないんだが……アイオンといううちの暗殺者がアイツらの城の近くで消息を絶った……たぶんもう殺されているだろうな」


「ふーん……?なら私が手を貸すぜ?……うちのマフィアの力で倒してやるよ」


 リエはそう言うと俺の話も聞かずに飛び出して言ってしまった。


 まずい……止めなければ……と思って当たりを確認するが


「………アイツめ『透過』の力を使いやがったか…………クソ!……俺はむやみに動けない以上、あいつを助けに行く訳にも行かない……まぁあいつの事だ案外サクッと仕留めて……いやどうだろうな」


 コウキは新たに発生した問題に頭を悩ませながら深夜の紅茶を飲むために食堂に歩いていった


 ◇◇



「ボス!戻っていたんですか?」


 リエこと『リエスティナ=ボルボロス』は超大国グロリアスとメルバニアの地下に存在する大マフィアの大ボスである



「あぁ!……よしおめぇら!……新しい獲物だ!……なぁに案外さっくりと終わらせれそうな気がするやつだぜ?……」


 そう言って不敵に笑って見せた。





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