第3話 勇者の剣と魔王

 俺は改めてメルバニア城の中を観察していた。

「思いのほか汚いですね……ここが貴方様の故郷なのですか?」


 ラジエルよ……その言葉は思ってもせめてアリアさんの前で言わないようにな


「ははは……すいません……やっぱりこんな小娘に着いてきてくれる王家の人なんてほとんど居なくて……だからこんなに荒れちゃって……」


「いや?君のせいでは無い……そもそもクラスメイトどもがこの国を捨てなければ問題がなかったのだからな」


 そう言いながら俺は勇者の剣を引き抜こうとする。

 やはり俺が勇者の判定になっていたらしく、剣はまるで油を塗ってあるようにスルリと台座から抜ける


「やっぱり貴方様が勇者だったのですね!……あぁお父様、お母様……間違ってなどいませんでしたよ……!」


 俺は軽く手の中でクルクルと剣を回す。─いい剣だ、終末世界の方にも確か似たような性質の剣があったはずだが……


「そう言えばこの剣はなんて名前?」


「─えっと……勇者の剣……としか聞かされていなくて……すいません!役立たずで……」


「いや?いいさ……勇者の剣に固有名詞がない方が……それよりも『マキナ』!」


「はいはーい!」


 俺の声に即座に機械でできた少女が飛んでくる。


「周辺のマッピングは完了しただろ?そのデータをほかの七対に分けてやってくれ」


「えぇ〜面倒臭い……みんな自分でできるでしょ〜」


 相変わらずな性格だな……と苦笑する。


『情報の共有をしろ!とエイル様は言っているのです!……分かったらさっさとしなさい!』


 アビスに怒られて、しゅんとしているマキナ


「はいはい……分かりましたよ〜面倒臭いけど……ほい!」


 そう言ってマキナから送られてきた情報を確認する。


「さすがだな……マキナ、本当に鮮明に世界の情報が入ってくる……あ〜これが魔王軍でこっちが……」


「感謝してね〜って痛い痛い!やめーて!バハ!」


「なんじゃ?知らんのか?バハムート族における感謝の方法はかじることじゃぞ?」


「嘘つくな!……私のデータにはそんなモノないぞ!」


 そこうるさい。とアビスに怒られる2人。正直このふたりは似たもの同士だったりする



 ◇◇◇



 ふむふむ、あらかたわかったぞ。


「よし、今から俺がやるべきことが決まった……まぁどうせクラスメイトどもにはしばらくの間恐怖を味わってもらうとして……」


 俺はふたつしかない権能スキルのもう片方を起動する


「『終末機構』起動」


 手の中に無数の魔術式が展開される。それらはやがてくっつき、ひとつの塊……キューブのような見た目のそれに変化する


『終末機構』……それは俺が創り出した権能スキル。それは終末世界に存在したありとあらゆる能力を一纏めにしたものである


【魔法】【秘術】【錬金術】【魔術】【神秘】【スキル】【機能】【必殺技】【奥義】【戦技】……etc数えだしたらキリが無い……それらの全ての枠組みを俺は一纏めにした


 何故かって?……わざわざ使う時に必殺!とか魔法!とかいちいち覚えるのがめんどくさかったからだ


 つまり俺は武具やアイテムは『終末鎧装』、魔法や異能は『終末機構』にまとめたわけだ……


 それはともかくとして


 俺は目の前にゲートを展開する。これは転移門ではなく、この世界のゲートだ


「な、何をするのでしょうか?……」


 アリアさんが不安そうに聞いてくるが、俺はにっこり笑ってこう返す



 ─「ちょっと魔王城に行ってきます」


 ◇◇◇




 ──「?おや、いきなり武器を構えているとはなんと言うかあまり歓迎されていないようだね」


「……エイル様、当たり前かと……」


 俺はバアルとラジエルと共にこの世界の魔王に会いに来ていた


「まぁいいか……おい!そこの男、魔王であってるか?」


「……誰だ!……我の魔王城には転移は出来ぬはずだが?どうやってきた!応えろ!」


 まぁご立腹よな……


「あ〜まぁ土足で踏み込んだのは悪かったな……まぁ今回足を運んだのには訳があってな……」


 そう言うと俺は地面に掘り投げる


「……?!その剣……は!……なぜ勇者の剣を貴様、持っている!」


「あ〜話すと長くなるから割愛で……まぁこれは本物の勇者の剣だ……そしてそれを」


 俺はまるで散歩の挨拶のように気軽に、一切の含みを持たせずに


「……君たちに差し上げようと思ってね」


 そう言った途端、魔王が驚きの声を漏らす


「……その剣があれば我を殺せる……そんな武器をなぜここに置いていくと言うのだ?!」


「え?だって?……あ、もちろんそれ本物だから悪用とかできないからそれは安心していいよ」


 そうサラッと答える


「……何が目的だ!貴様……まずは名を名乗れ!」


 あ、そう言えば名乗るの忘れていた。


「あ〜どうも、俺はエイル……まぁ一言で言うと仲間に嵌められて追放され男だ」


「追放……?待て?貴様勇者の剣を持てるということは勇者なのだろう?勇者を追放するなど……」


「いやいや本当にしてくれたんだよ……だから俺はあいつらを殺す……それ以外の目的一切ないんだよね……魔王とか倒す気も無いし、なら勇者の剣は無用の長物だろ?」


「……だとしても勇者の剣を置いていくと?……言っていることが巫山戯ている……だが」


 そう言うと魔王はゆっくりと玉座に座る。


「お前エイル様が座っていないのによく」


「ラジエル、少し静かに」


「……勇者、それは魔王を殺す存在……だがそれがその力の全てである剣を差し出すとは」


「どうだ?魔王殿、勇者がお前を殺しに来ない……と言うだけで安心感が違うだろ?」


「あぁ……そうだ……我は感謝せねば……そうだ貴様に我が娘をやろう……ぜひ受け取ってくれ……あの子をこれから起きるであろう動乱に巻き込みたくは無いのだ……」



「……」


 まぁその表情からわかる……たぶん色々な権力争いが勃発しているのだろう……どの種族でもそこは変わらないわけか


「特に我ら悪魔族は血の気が多いですからな……天使よりはマシですがな」


「あら?バアル……またあんたぶっ刺されたいの?」


「ほっほっほ……貴様などに負けるほど我は衰えてはおらぬぞ?」


「……後で腕相撲でもやって決着つけろ」


 俺はため息をついてバアルとラジエルを止める。

 やっぱこの二人連れてきたの間違いだったかな……


「ひとつ良いか……?貴様はどれだけの強さを持っているのだ?……我が見るにそのふたりは明らかにこの世界にはオーバースペックだと認識しているのだが?」


 俺はニッコリと笑い、聞かない方がいい事もあるよ?と言う顔をする


「……分かった……改めて我、魔王ボルス=バレンタインは貴様らの要望を許可する!」


 その言葉の後に、うしろからてとてとと出てきたのは


「ちょっと!パパ!……あたしご飯中なんだけど!」


 魔族っぽい……とは言えどちらかと言うと人間味の強そうな少女がでてきた


「レヴィア……そこの男に貴様を託す事にした……お前は魔王を継ぐ資格がない!だからその男にでも差し出してやろう!」


「え?……嘘でしょ?!パパ!…………私の事嫌いになっちゃったの?」


 突然の出来事に泣き出しそうなその子を見ながら俺は


 ……あぁまたしても託されたのか……これで何回目だ?


 と感じていた。



「まぁそういうことだ、ではよろしくな……ボルス=バレンタイン……お前の覚悟は受け取った……良いのか?俺が手を貸してやっても」


「有難いが……これは我らの問題ゆえ、我が解決せねばならぬのだ…………エイル殿、娘を頼んだぞ」


 俺は混乱しているレヴィアを掴むと、ゲートをくぐる


 ◇◇




「お帰りな……さ……?あれ?剣はどうされました?」


 俺は何食わぬ顔で


「あ〜剣なら魔王にあげた……今の俺には無用の長物だしな」


「…………え?……えぇ?!」





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