第1話 Youは何して追放されたの?

 すぐに俺の元に敵性存在についての報告が入る。

「アビスです……どうやらのようですよ?……一応確認したんですけど……全員メルバニア以外のやつです」


 メルバニア以外の奴?まぁとりあえずは誘導してくれと指示を出して、奴らを誘い込むことにしつつ


「やあ、お嬢様、お目覚めかな?」


「ひぃ?!だ、……誰……」


 うーんやっぱりラジエル呼んでこようかな?


 ちなラジエルさんは門を維持してくれているため、ここにはいません。後で合流する予定なんですけど


 と、その顔を見てふと懐かしい記憶が呼び覚まされた。

 間違いない……確か彼女の顔、あの時柱に隠れた子とそっくりだ


「少しいいか?君は誰だ?」


「わ、私は……あれ?喋れる……それに体も綺麗になってる……?あと……暖かい……」


「そこの強面のおじいちゃんとイケメンと竜のお姉ちゃんに後でお礼言っといてあげてね……」


「あ、……そうだ……確か……そう貴方は……追放者『リイチ』ですか!?」


「そうだね……昔の名前はそれだよ……今は『エイル』と名乗っているよ……と言うか私のその名前を知っているってことはやはり……って何?」


 女性は瞳から涙を流していた。ボロボロになった服をぐしゃぐしゃに涙で染めるほどに


 俺は無言でタオルを渡す。


「ぐすん……あ、ありがとうございます……」


「で?何があった?この国に……?」


 そう質問すると、彼女は


「……私の名前は……メルバニア=アリアと申します……あ、メルバニア=ソフィアの娘です……」


 あの人に子供?と俺は一瞬びっくりしたが、まぁこの城の崩壊具合から見てかなりの年月がたっているだろうし……まぁ納得か


「そういえば俺が追放されてからこっちで何年経ってたの?」


 俺は少し気になったのでそう質問する。すると


「……5年です……」


 驚きの答えが返って来た。


「5、5年?いやいや……そんな短い間に何が……?」


 すると女性は……おそらく14歳ほどであろうにもかかわらず、凛とした目でこちらを見ながら俺に何が起きたのかを話してくれた


 その話を聞きながら、俺はあの日異世界から追放されたことをいやでも思い出させられていた


 ◇◇


 ─忘れもしない。



 異世界に呼び出されてから3日目の日、俺はいつもの日課であった剣の訓練を受けていた。


 朝から雪が降りしきるあまり良いとは言えない天気だったが、それでもアドレナリンが出まくっていた俺は寒くなかった。


 そうして日課を終えてゆっくりと食堂に戻った時




 ──「お前を捕まえさせてもらうぞ?」


 いきなり後ろから殴られ、倒れた俺を引きずりながら男がそう呟いた


 そうして俺はいきなり牢獄に閉じ込められる。何がなんだか分からない俺はとりあえず自分は無いもやって居ないぞと文句を言う。


 当然俺は異世界に来てから魔法の訓練と剣の訓練しかしていない。


 それに自室と食堂と訓練所しか行っていないからやましいこともしていない。だと言うのに



「こいつに性的な暴行を受けました!……」


「私も!私もです!……俺はソードマスターだからお前たちは俺に従うべきだって……」


「見てください!この傷!あいつの部屋にある剣でいたぶられた跡なんですよ!」


「こいつ、国王様を殺して新しい王になるとか言っていました!……俺はお前を殺せば新しいスキルが手に入るからお前を殺させろ……なんて言われたんです!」


「…………は?」


 俺は意味がわからなかった。ナニヲイッテルノ?

 コイツらは何を?……?


「王様!お願いします!こんなやつと一緒にされると俺達が犯罪者の仲間になってしまいます!」


 そういうのは皇輝……あいつだ。その顔はにやにやと笑っていてまるで、してやったぜ?と言わんばかりだった


 俺は助けてくれ!と言う目で神田さんを見るが


「あいつの目を見てください……女をあんな目で見るやつなんて生きる価値がないと思います!……」


 神田さんはただ、そう言って去っていった。


「……な……なんで……?」


 俺は何故か涙が零れ始めていた。どうして?


「……皆さんの意見は分かりました…………ムドウリイチ……君をこの世界から追放します……」


 俺は嘘だよね?という顔でソフィア様を見る。しかしその目の中にあったとてつもない哀愁の目を見て、俺は確信する。


 彼女は俺を切ったのだ……と。


 俺はそのままうなだれる。ちくしょう、せっかくチート能力を手に入れて……これから異世界を楽しむところだったのに……どうして……


 そんな俺を笑い飛ばしながら皇輝が近寄ってくる。


「よう!……悪ぃな、お前がいると俺の物語にノイズが走るから消えてもらうわ」


「の、ノイズ……?」


「そうさ!お前の力どう見てもチート能力だろ?……ははは!そんな奴がクラスメイトにいたら間違いなく俺の覇道の邪魔になる……だからお前には消えてもらうんだよ」


 俺は謎の装置にセットされながらそう囁かれる。


「……?!ふ、ふざけるな!皇輝!お前!」


 だが、絶叫する俺を見て皇輝はさらに心地よくなったのかさらに教えてくれやがった


「あ〜そうそう、この作戦はほかのクラスメイト全員が賛同してくれたぜ?……お前に自分の可能性を取られるのが皆怖かったんだろうなぁ?!……まぁそりゃあお姫様に初手から愛されてる奴なんざ憎まれて当然だろ?」


「そうそう、お前がいると……デュフフおでのハーレムの邪魔されそうだったからな!へへ」


「あ〜悪ぃな!お前が人身御供になってくれれば俺達のストレスが無くなるんだわ……悪ぃね〜」


 遠くでは女どもが


「ホント気持ち悪いやつだよね!……ジロジロ見てきてさ〜ホント童貞のくせにいきがっちゃってさ!」


「そうよね!wwあんな見た目でカッコつけてもね……正味ダサいよね……ww」




 何も信じられない……そんな絶望が俺をゆっくりと覆い隠していく。


「それじゃ!……あ、そうだ……こいつどこに送る?……あの?」


「それいいね!……良かったな!お前独りじゃないぜ?……まぁ人っ子1人もいねえ世界っぽいけどね」


 俺を捕まえている装置が光り始める。


 どんどんと加速するような感覚、泥水に沈んでいくような感覚の中、俺を見る悲しげな目線がくっきりと頭に残る


「……あぁ王様もお姫様も脅されたんだな…………分かった……いいよ……」




 そんな時ぐらい怒ればよかったかもしれない……泣き叫んで無様な様相を奴らの記憶に留めてやれば良かったかもしれない……でも俺はそんなことする気にもなれなかった





 そうして俺は異世界を追放された




 ◇









 目を開けるとそこは銀世界だった……。てっきりまだメルバニア王国にいるのかと思ったのだが、そんな思いは全て一瞬で打ち砕かれる

 まるでニューヨークのような街並みのビル群。更には



「「「ズシン!……ズシン!!」」」



 どこからか聞こえる音に俺は驚き、立ち上がる……そして俺は見た



「……何だよ……あれ……」



 ビルをむしゃりと齧る大きな機械でできたロボットが数十体は見えていた。


 と、それを巨人が掴んで投げ飛ばし、その巨人の肉体をどこからか放たれた光の槍が貫く。


 俺はそんなありえないような現実を見せつけられていた。


 そして俺はそれに巻き込まれないように地下に潜る



 偶然見つけた地下通路に通じる道をひたすら走る。

 そこにはどうやら先客がいたようで所々に人の痕跡が残っていた。


 そうして俺は必死に走って、走って走って走って走って……


 コケて、また走って……血が出てるのを無視して走る。





 ────「……お前は……」



 そして俺はその地下通路の終点で一人の瀕死の男を見つけた



「お前は……木戸川先生?!」


 間違いない、あのクソ川こと木戸川先生がそこに倒れていた。


 体には巨大な鉄骨が刺さり、今にも死にそうな姿で


「…………お、……むどう……か……ははは……何……でここ……にいる?」


「おい!先生!しっかりしろ……あぁ俺は嵌められてここに飛ばされた!……ってかその血の量……」


「あぁ……お前も……か……はは……先生……なのに……俺は……失格……だな……生徒を……止め……られなか……った……」


 その言葉で理解した。おそらく、先生はあの後彼らの手で俺より先にこの世界に飛ばされたのだろう……


「……なぁ……あいつら……は……無事……か?……」


「あいつらって!あんたをここに送り付けたクソ野郎たちだぞ!?……無事だけどよ……」


 すると、木戸川はにっこりと脂汗を垂らしながら笑って


「……あぁ……そうか……よかった……あいつ……らに……何かあっ……たら……保護者……たいおう……で死んじまう……から……な……ははは……は」


「そんなこと言ってる場合か!おい俺の肩を掴め!……何とかここを出るぞ?!」


 だが、そのまま動かずに木戸川はゆっくりと微笑むと


「……そう……言えば……お前……は……を手に入れ……れるんだった……な?……あいつ……ら……丁寧……に教えて……くれたよ……優しい……王様だった……な」


 俺は何とか体を動かそうとしたが、鉄骨が刺さって動かない。


 クソ……鍛えておけば……


「……ありがと……うな……なぁ……むどう…………もいいか?……俺は……もうダメ……だ」


 待て待てそれはつまり?


「……俺にお前を殺せって言うのか?!……誰が!……例えクソ野郎だと心の中で思っていても人を殺すなんてできるわけが……!できるわけがないでしょうが!」


 そう言いながら俺は涙がなぜかこぼれていた。どうしてこんな奴に涙がこぼれるのだろうか


「……お前……は本当に……優しい子だな……あぁ……先生の最後の……生徒だ……」


「おい!しっかり!……あぁもうクソ!分かった!だから恨むなよ!」


 俺は近くに落ちていた鉄骨の欠片を握り、木戸川の心臓部にそれを当てる


「……はぁ、はぁ、はぁ、はあ、はぁ……!」


 ダメだ、どうやっても俺には人は殺せない……。だけど、やるしかない……苦しそうな先生を介錯してあげる意味もあるとは思うけど……でも


「……やれ!」


「?!」


 先生のその言葉に俺は押されるように、体を鉄骨で貫く。


「……あぁ……これで……いい……あいつらを……頼んだ……ぞ…………」


 俺は過呼吸が止まらなかった。汗が吹き出し、涙がこぼれ落ちる。


 手が震えて鉄骨がカランと音を立てて落ちる。


 唖然とする俺の横で無常なアナウンスが流れる

『木戸川 純一のステータスとスキル『超加速』を入手しました…… 』


 俺はその音声を聞いてからゆっくりと立ち上がり、叫ぶ


「ああああぁああああ!!!!」


 俺の脳内には、木戸川の人生が映し出される。

 やつがどれだけ生徒を思っていたか、そしてそろそろ結婚する予定だったことをも知ってしまっていた。


 こいつの人生、40年間を見た後俺はゆっくりと近くの細長い鉄骨を手に取る


 ……あぁもういいや。


 人はある一定量を超えた時、壊れる。俺の場合はそこだった



「あ〜もういいや、全部ぶっ壊してやる」


 そう言うと、木戸川の死体に着ていた服を被せ


 俺は来た道を引き返す。


 最早ここで死ぬ意味が無い。そう確信した俺は俺をはめたクラスメイト達を木戸川の代わりにボコしてやらねば……という思いで




「やってやるよこの野郎!」



 終末世界へと走り出した







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