4-4 そう! 校外学習!
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「……校外学習?」
いつも通りの魔法教室。深夜に行われる非現実を学ぶためだけにある白い空間で、雪冬くんが立花先生の言葉をそのまま繰り返していた。
「そう! 校外学習!」
立花先生はそんな彼の反応を見ると、あからさまに悪戯をするような、そんな笑顔を浮かべながら、テンションを高くして言葉を続けていく。
「いやあ、唐突に思ったことなんだけれどさ。ここのことを魔法学校とか魔法教室とか言って運営しているけれど、いまいちそれらしい学校行事とか、イベントごとがないよなぁ、って思ったんだよね。今日も学校のほうで職員会議があってね、今年の校外学習についてを話し合ったりしたんだけど、養教の僕は基本的に全部の校外学習に参加しなくちゃいけなくてさぁ。
ほら、自分が行きたくもないところに無理に連れていかれるんだよ? そんなの面倒だとしか思えないしさ、不自由じゃない? 他の生徒たちとまわれるっていうなら希望はあるけれど、養教は緊急時のために固定した場所で待っていなきゃいけないしさぁ、こんなのって理不尽でしかないよねぇ」
はあ、と雪冬くんは曖昧な相槌を打って、空間のどこかを眺めるようにしている。こんな場所に何かがあるわけでもないのに、面倒くさいことから意識を逸らすように、彼は違う方向を向いている。
ふと気になって、明楽くんのほうを見てみれば、ポケットから携帯をこそこそと取り出すようにして、背中に隠すようにしながら画面を操作しているようだ。あれで本当に操作できるのかはわからない。私は携帯なんて持っていないから。
「というわけでこの際、魔法教室のみんなをまきこ、こほん、引率して気晴らしをしてしまえば、それでなんかチャラになりそうな感じがしたんだよねぇ!」
「つまりは巻き添えってことじゃないですか……」
雪冬くんは面倒くさそうな様子で、言葉の後にため息を吐いた。私もそれに同調するようにため息を吐きたくなってしまう。
別に、いつも家に帰ったところでやることはない。適当に勉強をするくらいしかやることは思いつかないし、きっとそれさえも無為に時間を過ごす、という分類に入るのかもしれない。
けれど、誰かに空いた時間を強要されることについては嫌悪感、もしくは拒否したい感情が生まれる。
それは魔法教室だから、とかは関係なく、普通の学校行事に対してや、学校で話しかけてくる知人との約束についても同じ具合。それが校外学習というのならば尚更だ。
「……というか、このメンツで? 先生含めて俺たち四人しかいないっすよ?」
明楽くんが呆れるように言葉を吐くと、立花先生は、ちっちっち、と指を振りながら言葉を続ける。現実にこんな動作をしながら言葉を吐く人がいるのか、と私は更に呆れてしまいそうになった。
「なんと、特別ゲストとして、金治くんと観月ちゃんが来てくれまーす!!」
「え、マジで!? 水月先輩も?!」
先生の言葉に、明楽くんは先ほどのあからさまに面倒くさそうな対応から、切り替えるようにウキウキとしたような様子を見せる。
「ほら、彼らももう大学生になったわけで、受験シーズンとはオサラバしたからね! 久々に魔法教室の面々が集合できるんだよ! これって素晴らしいことじゃないかい?!」
「素晴らしいっす! マジリスペクトっす!」
明楽くんは調子がいいように先生をもてはやすような言葉を続けている。もともと、彼は水月先輩を目的に魔法教室へと来ていた節があったから、それなりにうれしいという感情があるのだろう。
うんうん、と立花先生は頷きながら、白衣のポケットをまさぐっていく。すると、数枚のチケットを見せびらかすように手で広げて、扇のような形にした。
「というわけで、思い立ったら吉日ということで、みんなの分の遊園地チケットを買ってきましたぁ! 校外学習は遊園地に行くぞぉ!!」
どこかのテレビ司会者のような盛り上がり、少し頭が痛くなる感覚がして、目を伏せたくなる衝動。
明楽くんはもう乗り気でしかないようで、先生の言葉に合わせて「うおー!!」と大きな声で叫んでいる。雪冬くんは私と同じ気持ちなのか、少しばかり呆れるように、やれやれ、と言った具合で首を振っているけれど、彼の表情自体には笑顔があった。
……私も、こういった人たちのように感情を発露させればいいのだろうか。よくわからない。
よくわからないから、いつも通り彼らを眺めて、そうして頭の中で考え事をした。
■
魔法教室の面々が揃う、というのはだいぶと久しぶりのことだ。去年の五月ごろから最近に至るまで、高校三年生である先輩方は大学の受験を理由に来なくなったので、おおよそ一年ぶりほどの再会、ということになる。
先輩方はいいひとだ。……正直、金治先輩が話すことは難しいし、何を言っているのかはわからないけれど、水月先輩は同性の魔法使いというだけあって、私が信頼して話すことのできる間柄の人だ。少しギャルっぽい雰囲気もあるけれど、そんな雰囲気はさておいて、よくこんな私にもかまってくれる。
校外学習、という言葉を聞いてしまえば、やはり一番に面倒くさい、という感情が沸き立つけれど、今回に関しては言ってもいいのかもしれない。そんな気持ちになってくる。
遊園地というものに行ったことはないし、興味もないけれど、久々に会いたいと感じる人に会うことができるというのならば、面倒くさいという理由だけで断るのは失礼だろう。
雪冬くんの表情をうかがってみる。呆れている顔については変わらないけれど、少し浮かべている笑顔から拒否を示すことはなさそうだ。
「よし、反論する人もいなさそうだから、さっそく今週末に決行しようじゃないか! 僕、頑張って校外学習のしおりとか作るから楽しみにしておきたまえよ!」
立花先生はこれまでの日常で見せたことがないほどの笑顔を浮かべて、扇形に広げていたチケットを私たちに配る。
なんとなく、流されているという感じは否めないけれど、別にどうでもいいのかもしれない。
流されるなら、流されるだけ流されてしまえ。
どうせ、私にはそんな生き方しかできないのだから。
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