33.全国リトル野球予選決勝3
2回の裏の千陽リトルの攻撃、1アウト二塁の場面で7番の堀川に仙道リトルのピッチャー宮本は左中間を割るツーベースヒットを打たれて、スコアを0-1にされた。しかもなお、1アウト二塁というピンチを迎えていた。
(くそ、甘めのコースに要求したのは間違いだったか! 思っていたよりも真ん中に来てしまった!)
仙道リトルのキャッチャーの木部は少し後悔した。宮本の調子を上げようと思ったが、逆に点数を入れられてしまう結果となるリードをしたことを。
(何とかこれ以上の点数は避けないと・・・)
千陽リトルのバッターは8番渡辺だった。仙道リトルのバッテリーはなんとしてもアウトにするため、初球にカーブを要求した。渡辺はそれを見逃し、1ストライクとなった。続く2球目、次もカーブを要求して空振りを取り、2ストライク。そして3球目、渡辺はストレートが来るものだと思って準備していたが、3球目もカーブだった。渡辺は体勢を崩されてセカンドゴロとなってしまい、2アウト二塁となった。
(次は9番の加山さんか。加山さんはバッティングもいいから、甘く入ったら持っていかれるな。宮本先輩、最悪歩かせてもいいのでギリギリを!)
キャッチャーの木部はストレートをインコース低めに要求した。宮本もそれに頷き、初球を投げた。しかし、これは外れてボールとなる。続く2球目、インハイへのストレートを要求したが、これもボールとなった。そして3球目、次はカーブを投げた。これを加山はバットに当てるが、ファールとなる。カウントは2ボール1ストライクとなった。
(加山さんはカーブ狙いか? もう1球カーブを!)
キャッチャー木部のサインに宮本は頷き、4球目もカーブを投げる。これを加山はまたしてもカットし、2ボール2ストライクと追い込んだ。
(次はアウトコースのストレートです! これで仕留めましょう!)
宮本は頷き、5球はアウトコースへのストレートを投げた。しかし、それはコース甘めに入ってしまった。それを宮本は見逃すはずがなく、セカンド方向へ飛ばした。
(まずい! 長打コースだ!)
木部は追加失点を覚悟した。しかし、加山が打った打球をセカンドの斎藤が飛び込んでギリギリのキャッチをして、ファーストに送球した。スリーアウトチェンジとなった。
■■
(1点入れられちゃったかぁ・・・)
俺はベンチで天を仰いだ。この2回の攻撃はどちらも1アウト二塁という場面を作ったが、千陽は得点できて、俺達は得点できなかった。今のチームの力を現しているような感じがした。
「野神、投げる準備をしておけ。次で松永が登板する。もし松永が打たれたらお前を出す!」
「はい!」
俺は高史を誘ってブルペンへと向かった。ブルペンではすでに松永先輩がキャッチボールをして準備をしており、3回裏の守備に向けて状態を整えていた。
「司、変化球の練習はどうする?」
「・・・チェンジアップの確認だけするよ。カーブは投げるつもり無いから」
「・・・そうか、わかった」
俺は投げ込み練習を始めた。変化球をチェンジアップだけにしたのは、木部先輩が取れないかもしれないと思ったからだ。この前の練習で木部先輩は一度もカーブを取れなかった。この決勝で投げるのはリスキーだと俺は判断した。
(でも、最悪投げるかもしれないな・・・)
■■
「出てきましたね監督、野神が」
「そうだな」
千陽リトルの面々は仙道リトルのブルペンを見ていた。準々決勝で参考記録ながら完全試合を達成した、滝上と並ぶ逸材を。
(あいつは確か、変化球はチェンジアップのみ。それなら攻略することはできるか。俺みたいに隠し玉がなければ)
加山はそんなことを思いながらマウンドへと向かって行った。
■■
3回の表、仙道リトルの攻撃は9番ピッチャー宮本がそのまま打席に立った。理由は仙道リトルのベンチ事情。仙道リトルは4年生から6年生合わせてちょうどベンチに入れる人数の20人だった。リトルチームとしては多いほうだが、現状、代打で出せるのは4年生の選手か5年生の女子しかいなかった。梶監督は女子選手のことを信頼していないわけではない。だが、加山の球威の前に女子が通用するのかと疑問に思ってしまったのも事実。そのため、宮本を打席に立たせた。
(この判断が吉とでるか、祈るしか無いな)
そして9番宮本は打席で狙い球を絞っていた。フォークを捨て、シュートはカットをして、ストレート勝負にした。そんな宮本に加山は初球、いきなりフォークを投げてきた。宮本はそれを空振りした。続く2球目、加山はストレートを投げたが、これは外れてボールとなった。カウントは1ボール1ストライク。ピッチャー有利のカウントになり、3球目もストレートを投げた。
(来た! これはストレート!)
宮本はインコースに来たストレートを弾き返した。三遊間を抜け、レフト前ヒットとなった。そして仙道リトルの打順は1番に戻り、井上を迎えた。井上は送りバントの構えをして、初球でバントを決めた。これで1アウト二塁。2回の表と同じシチュエーションとなった。
(正直、フォークは打てねぇ。カウントを取りに来た球を狙うしかないか)
(仙道リトルのバッターはみんな、加山のフォークには対応出来ないはずだ。フォーク中心に組み立てていくか)
千陽リトルのキャッチャー田中はこの回も無失点で終わらせる気であった。田中は加山に初球からフォークの指示を出す。加山も頷き、初球にフォークを投げた。バッターの戸塚はこれに対応出来ず、空振り。続く2球目もフォークを投げた。またしても戸塚は空振りをした。これで戸塚は2ストライクと追い込まれた。そして3球目、戸塚はシュートが来たらカットするつもりでいたが、3球目もフォークが来て空振り三振となった。これで2アウト二塁となってしまった。
(向こうはフォーク中心に組み立てられている。でもそれなら攻略する方法がある)
仙道リトルの3番木部は戸塚の打席が全てフォークだったことに一筋の光りを見出していた。
(加山、この打者は決め球にフォークを使うぞ)
キャッチャー田中のリードに加山は頷いた。加山は木部に対して初球、シュートを投げた。木部は空振りして1ストライク。2球目はストレートをアウトコースギリギリに投げて2ストライクと追い込んだ。そして3球目、千陽リトルバッテリーは作戦通りにフォークを投げた。しかし、それを木部はギリギリバットに当ててファールとする。
(こいつ、フォーク狙いか? いや、慣れていないフォークを狙い球にするのはリスキーすぎる。だとしたらストレートか)
キャッチャー田中は再び加山にフォークボールを要求した。加山もそれに頷き、フォークを投げた。
(! しまっ!)
(来た!)
加山は投げた瞬間にフォークが抜け球となったことに気づいた。木部もそれを狙っていた。フォークボールは握力を使う。まだ身体の出来ていない子供が連投するには少々リスキーなものであった。木部はある種の賭けで、フォークボールが抜けるまでカットするつもりだったが、運良くそれが早めに来た。木部はバットをフルスイングし、センターオーバーのツーベースヒットを放ち、二塁ランナーを返した。これで1-1の同点となった。
(何とかこれで振り出しに戻したな)
続く4番伊藤を加山は三球三振に仕留め、3回表の攻撃が終わった。
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