31.全国リトル野球予選決勝1

「全員いるな。今日のスタメンを発表するぞ!」


千陽リトルとの決勝の日、俺達は球場の外で梶監督から今日のスタメンを聞かされた。


1番 センター 井上誠也いのうえせいや 背番号8 右投げ左打ち

2番 レフト 戸塚直樹とつかなおき 背番号7 右投げ右打ち

3番 キャッチャー 木部正広きべまさひろ 背番号12 右投げ右打ち 

4番 ファースト 伊藤興毅いとうこうき 背番号3 右投げ右打ち

5番 ショート 塚本春樹つかもとはるき 背番号6 右投げ左打ち

6番 サード 糸川賢治いとかわけんじ 背番号5 右投げ左打ち

7番 セカンド 斎藤明さいとうあきら 背番号4 右投げ 右打ち

8番 ライト 加藤裕二かとうゆうじ 背番号9 右投げ右打ち

9番 ピッチャー 宮本涼みやもとりょう 背番号10 右投げ右打ち


どうやら俺は先発ではないようだった。というか、宮本先輩はこのことを事前に聞いていたみたいだった。人一倍真剣な顔つきをしていた。練習試合での借りを返すつもりなのだろう。


「もちろん、今日は他のピッチャーも場合によっては投げてもらうつもりだ! 準備は怠るなよ!」


俺達は大きな返事をしてグラウンドへと向かった。グラウンドに入ると、すでに観客席にはかなりの観客で埋まっていた。


(マジかよ・・・リトルだぞ、プロじゃないんだぞ)


前世では考えられなかったことだった。これも野球がワールドスポーツとなっているおかげだろうか。学生はもちろん、社会人っぽい人もいるような気がした。


「4年生は初めてだと思うが、全国に行くとこれの比じゃないぞ。野球は世界で愛されているスポーツだ。必然的に見る人もたくさんいる。それは何もプロだけじゃない。リトルリーグから有望株に目をつけて、後を追っかけるという人も少なくないからな」


俺達4年生が圧倒されていると監督が説明してくれた。俺はこの観客があることも俺を登板させなかった理由の一つだと思った。俺達4年生は大勢の前で投げることを体験していない。中身が大人な俺でも圧倒される雰囲気で、正真正銘の子供がベストなパフォーマンスを発揮できるとは到底思えなかった。だから全国の経験がある宮本先輩が先発することになったのだろう。


「梶監督、コイントスの結果、私達は先攻となりました。これが向こうのオーダーです」


長内コーチは事前に先行後攻決めとオーダーの交換に行っていた。渡された千陽リトルのオーダーを見て、梶監督は難しい顔をした。そしてオーダー表を俺達に見せてくれた。


千陽リトル


1番 セカンド 井ノ原生真いのはらいくま 背番号4 右投げ左打ち

2番 センター 安藤智あんどうさとし 背番号8 右投げ左打ち

3番 ファースト 木村圭きむらけい 背番号3 右投げ右打ち

4番 ショート 奥山実おくやまみのる 背番号6 右投げ左打ち

5番 レフト 市川晴則いちかわはるのり 背番号7 右投げ右打ち

6番 キャッチャー 田中勉たなかつとむ 背番号2 右投げ左打ち

7番 サード 堀川翔太ほりかわしょうた 背番号5 右投げ右打ち

8番 ライト 渡辺晴彦わたなべはるひこ 背番号9 右投げ右打ち

9番 ピッチャー 加山圭吾かやまけいご 背番号1 右投げ右打ち


(向こうは完全にベストオーダーって感じだな。・・・岡野さんは控えか)


先発は予想通りエースの加山だった。その他にも背番号が一桁台の選手ばかりが並んでいた。こうなると滝上先輩のいない俺達は俄然不利となった。


「向こうはベストオーダーできた。こちらは滝上がいない、モチベーション的にもベストとは言えないだろう。だが、それでも全力で戦え! それが相手のため、そして自分のためになる!」


俺達は梶監督の言葉を真剣に聞く。全員の目が全力で戦うことを物語っていた。


「野球は白球を支配できたものが勝つ! さぁ行け!」


「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」


スタメンの先輩達はグラブを持って、フィールド練習を始めた。


■■


「やっぱり滝上は出てこないか、まぁ出していたら梶監督を失望していたがな」


「監督、ぶっちゃけ滝上のいない仙道打線は俺なら抑えられます。完封してやりますよ」


千陽リトルのエース、加山はこの大会を取ったと考えていた。仙道リトルの要は滝上剛、それがいない打線はパンチ力に欠けると考えていた。


「ていうか、先発って野神じゃないんですね。てっきり俺は野神と投げ合えると思ったんですけどね」


「梶監督も4年生をこの舞台に先発で出すのは気が引けたのだろう。下手にプレッシャーを感じて、自分の思うようなプレーが出来なかったらトラウマを植え付けてしまうからな」


「そうですか。でも、あいつの投げっぷりなら問題ないと思ったんですけどね」


加山は練習試合で見た野神のピッチングが忘れられなかった。あのチェンジアップは神奈川の甲斐谷を彷彿とさせる球だった。だから加山はそんなピッチャーと投げあって勝つことで、自身の強さを証明しようとしていた。


「加山、最初から全力でいけ。最悪バテても岡野が投げる。安心しろ」


「了解」


仙道リトルの練習が終わり、千陽リトルの練習が始まった。いよいよ全国リトル野球大会西東京都地区予選決勝が始まろうとしていた。


■■


 10時になり、西東京地区予選決勝が始まった。選手たちは全員グラウンドに集結し、整列して挨拶を行った後、それぞれ攻守の準備をした。


 1回の表、仙道リトルの攻撃は1番井上から始まった。千陽リトルの加山は初球、インコースにストレートを投げた。球速100キロだった。この1球で加山が初回から全力で投げていることが井上には伝わった。2球目もアウトコースにストレートをなげ、空振りを取り、3球目、インコース高めのストレートを振らされて三球三振となった。仙道リトルの2番戸塚は2球ストレートをファールにしたが、3球目にシュートを投げられて三振となった。そして3番の木部、今大会初スタメンの木部であるが緊張はしていなかった。キャッチャーの経験を活かし、5球ほどファールを使って粘って2ボール2ストライクとした。そして6球目、アウトコースのストレートをバットに当てたが、セカンドゴロとなり、仙道リトルは三者凡退となった。


 1回の裏、千陽リトルの攻撃は1番の井ノ原から始まった。仙道リトルの先発宮本は初球ストレートを投げたが、それをバットに当てられてライト前ヒットとされた。続く2番安藤は手堅く送りバントをして、1アウト二塁という場面を作った。仙道リトルは初回から得点圏にランナーを背負う形となった。そして3番木村を迎えた。仙道リトルのキャッチャー木部はタイムを取ってマウンドに向かった。


「大丈夫です。宮本先輩。球は走っています。とりあえず低めに集めましょう。それにまだ1回です。何とかなりますから」


「あぁ、そうだな」


木部がキャッチャーのポジションに戻り、試合が再開された。木部は3番木村に対して初球から低めのカーブを要求した。木村は予想していなかったので、タイミングを外されてバットの先に球を当てた。その球はピッチャーゴロとなり、2アウトとなった。そして迎えた4番の奥山、宮本は強気にインコースへストレートを投げた。奥山はそれを見逃しストライクとなった。続く2球目、今度はアウトコース低めのところにストレートを投げた。奥山はそれをファールにして2ストライクと追い込んだ。4球目、5球目とボールが続き、6球目はアウトコースにストレートを投げた。奥山はカーブが来ると思っていたので引っ掛けてしまい、ショートゴロとなってスリーアウトチェンジとなった。お互いに0点からのスタートとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る