28.全国リトル野球予選準決勝2
(2回も無得点かぁ・・・)
仙道リトルは滝上先輩に打順の回るこの回も無得点に終わった。向こうが滝上先輩とまともに勝負してくれないことは想定していた。そのため他の先輩達は、特に塚本先輩は気合が入っていたが凡退に終わり、次の糸川先輩は矢倉さんの見事な守備で討ち取られた。
「こりゃ下手すれば1点勝負になるかもな!」
永野先輩は少し嬉しそうにベンチから立ち上がり、マウンドへと向かった。それとは対象的に他の先輩方の足取りは重そうだった。
「高史、どう思う?」
「そうだな、正直嫌な雰囲気があるな。でも、この回無得点に終わればなんとかなるだろ」
(それをフラグっていうんだけどな)
俺はそんなことを思いながらグラウンドに出ている先輩たちを応援した。
■■
2回の裏、三谷リトルの攻撃は、5番バッターから始まる打順だった。ピッチャーの永野は初球ストレートを投げ、これがストライクとなる。次もインコースにストレートを投げて、2球で2ストライクと追い込んだ。そして永野は3球目、縦スラを選択して投げた。しかしこれを5番バッターがギリギリのところで食らいつき、セカンドの斎藤のところへ飛んだ。その打球は奇しくも前の打席で糸川先輩が討ち取られたところだった。三谷リトルの役らはこれを捕球したが、逆シングルの捕球など練習していない斎藤は取ることが出来ず、ライト前ヒットとなった。
(縦スラを当てるとは。初回で見せたのは悪手だったか? とりあえず、ストレートで様子を見るか。いや、逆にストレート狙いの可能性もあるか・・・)
三谷リトルの6番バッターが打席に入り、構えをとる。永野は滝上のサインに頷き、一塁へ牽制球を投げる。これはセーフとなるが、帰塁の様子を見る限りでは盗塁の心配は無いと永野は判断した。それは滝上も同じであり、初球カーブを要求した。永野はそれに頷き、カーブを投げた。しかし6番バッターは永野のカーブを捉えてショートの頭を越すヒットを打った。これでノーアウト一塁二塁となってしまった。たまらず滝上はマウンドへと向かった。
「永野。三谷リトルはお前の変化球狙いだ。ストレート多めでいくぞ」
「あぁ、俺もそう思う。でも今日の俺、あんまりストレート良くないからしっかりとリードしてくれよ!」
マウンドで打ち合わせをした滝上は、キャッチャーのポジションへと戻った。そのままプレイが再開され、三谷リトルの7番バッターを迎えた。その初球、永野はアウトコースにストレートを投げるが、これはボールとなった。続く2球目も同じコースに投げたが、次はストライクゾーンに入り、1ボール1ストライクとなった。
(俺たちが変化球狙いだと分かって、ストレートに切り替えてきたか)
三谷リトルの考えは永野達が考えていたとおりだった。永野は変化球に自信を持っているピッチャーであるのは過去の配給から予想していた。そのため、変化球に絞ってバッティング練習を三谷リトルは行っていた。三谷リトルの4番から縦スラの情報を手に入れて、この回から攻略に向かっていた。
(今日は永野のストレートがあまり調子良くなさそうだし、ストレートも狙ってみるか・・・)
永野が投げた3球目、今度はインコースにストレートが来た。バッターはそのボールをカットしてファールとなり、1ボール2ストライクとなった。そして4球目、真ん中に来たストレートだったので、バッターは打ち返そうとしたが、球はバットの下にいった。縦スラだった。三谷リトルの7番バッターは空振り三振だった。
(あの感じ、今日の俺のストレートを見て欲が出たな。これで変化球が効果的に使えるな。さすが、滝上!)
心の中で滝上を称賛したが、それでも1アウト一塁二塁のピンチには変わらなかった。しかし続く8番バッターを迎えた永野はストレートをアウトコースとインコースに散らし、最後もストレートで押し切って三振に仕留めた。
(よし。これで2アウト一塁二塁。次はピッチャーだな。なんとか打ち取れそうだな)
三谷リトルの9番バッターのピッチャーを迎えた永野は初球カーブを投げた。バッターは初球変化球だと思わなかったのか、バッターは空振りをした。続く2球目、今度はストレートを投げ、ストライクとなり、0ボール2ストライクとなった。そして3球目、永野はカーブを投げた。バッターはそれをなんとかバットの先に当てて、セカンド方向に転がした。しかし、アウトかと思った打球はセカンドの斎藤がグラブで取りそこねた。斎藤は慌ててボールを斎藤は握ってファーストへと送球した。だが、三谷リトルのピッチャーがヘッドスライディングをして、結果セーフとなった。
「バックホーム!」
滝上がファーストに叫んだ。二塁のランナーが斎藤のエラーを見て、三塁を蹴ってホームへと突入していた。慌ててファーストの伊藤がボールをホームへと投げる。二塁ランナーはスライディングをして滝上と交錯してしまった。そして結果はセーフとなり、0-1と先制されてしまった。しかし悪夢はそれだけではなかった。
「滝上! 大丈夫か!」
滝上はホームベースの上で左手首を抑えていた。永野がすぐに駆け寄って状態を確認した。
「すまん。手首をやってしまったらしい」
「・・・マジか」
永野はすぐに梶監督を読んだ。滝上の状態を告げると驚いて難しい顔をしたが、すぐに交代の指示を出した。滝上は一旦検査のため、病院へと向かって行った。そして代理のキャッチャーには滝上の同期の
■■
「滝上先輩・・・」
「安心しろ、野神。折れた訳ではなさそうだ。必ず戻る」
「戻るかどうかは医者が決めることだぞ、滝上。長内コーチ、病院への同行をお願いできますか?」
監督からの指示に従い、滝上先輩は長内コーチと共に病院へと向かって行った。ベンチでは不穏な空気が流れていた。
「高史、やばくね?」
「あぁ、やばいかもな・・・」
滝上先輩という主軸を失うのは想像以上に戦力がダウンするは明白だった。仙道リトルに暗雲が来た。
■■
「どう思います?」
「さっきのホームでの交錯で左の手首を痛めたんだろう。骨に異常がなかったとしても今大会はもう出ないかもな。未来ある子供に無理はさせられないだろう」
月刊リトルリーグの記者の女性記者が男性記者に対して、先程の接触のことを聞いていた。男性記者は滝上がもう出ないと予想していた。
(しかし仙道リトルはまずいかもな。滝上君は間違いなく主軸のバッター。それに正直言って他のバッターはそこまで突出した選手はいない。案外ジャイアントキリングが起こるかもしれん)
その後、キャッチャーを交代した仙道バッテリーだが、1番バッターをストレート2球で追い込み、縦スラを引っ掛けさせてピッチャーゴロにし、スリーアウトチェンジとした。しかし、仙道リトルにはスリーアウトとしたが、暗い雰囲気が漂っていた。
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