27.全国リトル野球予選準決勝1

 準々決勝から5日後、仙道リトル対三谷リトルの準決勝が始まろうとしていた。西東京都地区全国予選準決勝ということだけあり、観客も多かった。


「今日の先発は永野君ですか。てっきり次の決勝で投げると思いましたね」


「そうだな。ここでエースを投入するということはこの試合を落としたくないのか、決勝をエースが投げなくても大丈夫になったかだな。恐らく後者だと思うが」


月刊リトルリーグの男性記者はペアを組んでいる女性記者に自らの考えを述べていた。準決勝でエースが投げるというのはわりと珍しい。リトルリーグには66球ルールというものがあり、それを越えると4日間の投球禁止が言い渡される。次の決勝までの空き期間は3日なので、66球以上を投げると必然的に次の決勝は登板できなくなる。


(仙道リトルは恐らく野神君がいるから今日の試合を永野君に任せたのだろう。何事もなければ仙道リトルが勝つかな)


男性記者はそう思いながら試合開始を観客席で待っていた。


■■


「矢倉って女子、今日もスタメンだな」


「そうだな」


俺と司はベンチで三谷リトルの練習を見ていた。そしてその中にこの前映像で確認した矢倉夏帆というセカンドがいた。矢倉さんは正直かなり上手かった。難しい打球もグローブを逆シングルにして捕球し、スローイングも難しい姿勢でも安定してファーストへ投げ込んでいた。


(セカンド方向への打球は危ないかもな。守備範囲が広そうだ)


あの身のこなしからすると一二塁間の打球は矢倉さんに全て捕球されそうだった。


(これはちょっと苦戦しそうだな・・・)


俺はそう思いながら、ベンチで練習を見ていた。


■■


(流石に今日は準々決勝で投げた男子は投げないのか・・・)


私は今日の対戦相手の仙道リトルの練習を見ていた。仙道リトルの守備は抜群に上手かった。さすが西地区の強豪だと言わざるを得なかった。そして先発はエースの永野というピッチャー。私達にエースをぶつけて来た。


(こっちも一応永野君先発を想定して練習してきた。いつも通り、やれば大丈夫・・・)


私は気合を入れた。そして主審から整列を指示されたのでグラウンドに集合し、挨拶をした。今日の私達の攻撃は裏であったので、私は守備についた。


■■


 1回の表、仙道リトルの攻撃は1番井上から始まった。三谷リトルのピッチャーはエースナンバーをつけていた。その初球、ピッチャーはインコースに球を投げた。


(さすが、エースの球だな。球威がある)


井上はもう一度バットを構え直して狙いを絞る。狙い球は初球と同じようなインコースのストレート。このピッチャーはカーブという変化球はあるが、そこまで警戒するほどの球ではない。そして2球目、ピッチャーはインコースにストレートを投げた。井上は狙い球が来たので、バットを振った。打球は一二塁間の方向に行き、ライト前のヒットになると思われた。しかしその打球を予測していのか、セカンドの矢倉がその打球を正面で捉えてアウトを取った。


「やっぱりあのセカンド、いい動きをするぞ。狙うなら三遊間だ」


「了解」


続く2番戸塚に井上がアドバイスを送り、戸塚が打席に立つ。戸塚はファールで粘った後、カーブを引っ掛けてセカンドゴロに打ち取られた。そして3番の伊藤もセカンドゴロを警戒したため、カーブを引っ掛けさせられてショートゴロとなってしまった。この回仙道リトルは三者凡退になり、今大会初の初回0点で試合が始まった。


 1回の裏、三谷リトルの攻撃は1番バッターが永野に三球三振をして、2番矢倉を迎えた。矢倉はカット打ちをして、2ボール2ストライクというカウントまで粘った。そして5球目、甘く入ったストレートをショートの頭を越えるヒットにした。


(へぇあの矢倉って女の子、結構いいな!)


仙道リトルの永野は素直に矢倉を称賛していた。永野の球を打てるリトル選手は限られている。しかもそれが女子というのは驚きであり、球場でも歓声が上がった。


(私が打っただけでこの歓声・・・女子がナメられている証拠か・・・)


塁上で矢倉は少しだけ憤慨していた。学生の硬式野球は他のスポーツと違って男女混合でできるルールと決まっている。しかし、それはルール上の話。雰囲気的には男子のスポーツとなっている。


(でもそれは仕方ない。実力で証明する!)


三谷リトルの攻撃は3番バッターを迎えていた。永野は3番バッターに対して初球、カーブを投げた。そしてその瞬間、矢倉は二塁に向かって盗塁をした。永野はまさか盗塁するとは思わず、球速の遅いカーブを選択してしまった。そのため滝上の送球は間に合わず、盗塁成功となった。


(矢倉って子、足も速いのか! ますますいいねぇ!)


永野はそんなことを思いながら3番バッターをショートゴロに沈めた。そして迎えた4番、ストレート2球で2ストライクと追い込んだ永野はここまで大会で見せていない変化球、縦スラを使って三球三振に仕留めた。初回はお互い0点のままスタートすることになった。


■■


「いやーあの矢倉って女の子すごいね! 野神君!」


「そうですね。女子だからといって甘く見ると足元すくわれますね」


ベンチに戻ってきた永野先輩が座りながら俺に話しかけてきた。どうやら永野先輩は矢倉さんの評価はかなり高いらしい。


「あんな選手と一緒のチームだと嬉しいよね!」


「そうですね、女子でも永野先輩の球を打てるようになるには相当な練習量と努力を必要だと思います。その姿勢は見習わないといけないですね」


「うーん、まぁ今はそれでいいかな!」


永野先輩の意図は分からないが、俺は話を切り上げて次の滝上先輩の打席を見守ることにした。


■■


 2回の表、仙道リトルの攻撃は注目の選手である滝上が打席に立った。三谷リトルのバッテリーに緊張が走った。滝上は今大会の打率が7割を越えており、ホームランも6本放っていた。少しでも甘いコースに行けばたちまち打たれる危険性があった。そのため三谷リトルのピッチャーはアウトコースギリギリを中心に攻めていった。3ボール1ストライクとなった5球目はボールになり、滝上はフォアボールで出塁をした。


(滝上とはまともに勝負されないか・・・まぁ予想通りだな)


5番バッターの塚本はこのことを予想していた。トーナメントは1回でも負ければそこで終了。最悪、瀧本は全打席敬遠ということも考えていた。まだ対戦する気があることなのは仙道リトルとしてもありがたかった。


(俺がここで打てば大丈夫だ)


塚本は気合を入れて打席に立った。三谷リトルのピッチャーは塚本に対して初球カーブを投げて空振りをとった。そして2球目も再びカーブを投げて再び空振りをとった。塚本は次ストレートを狙い球としていたが、3球目もカーブだった。塚本はそれを引っ掛けてセカンドゴロになり、ダブルプレーとなった。そして6番糸川、初球のストレートを打ってライト前に受けるかと思った打球だったが、矢倉がグローブを逆シングルの体勢で捕球し、ファーストに送球してスリーアウトチェンジになった。仙道リトルはまたしても無得点に終わった。

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