16.VS東山リトル2
3回の裏、仙道リトルの攻撃は7番の金村からの打順だった。金村は1ボール2ストライクと追い込まれ、相手の決め球のカーブで空振り三振をした。続く8番川谷莉子もカーブを捉えきれず、三振をした。
(初回よりカーブの精度が上がっている。やっぱり狙うならストレートだね)
9番の村上は右投げのピッチャーだが、左打席に入った。村上への初球、相手のピッチャーはアウトコースにストレートを投げ、カウントを1ストライクにした。続けて相手ピッチャーはインコースにストレートを投げた。コースも良くストライクゾーンにも入っていた。
(来た!)
しかし村上はそれを狙っていた。村上は狙っていたストレートを弾き返し、ボールを高く上げた。ライトがそのボールを追うが、ボールはフェンスを超えてホームランとなった。これでスコアは0-2となった。しかし続く1番の磯辺がカーブをセカンドに転がしてアウトになり、スリーアウトチェンジとなった。
■■
(ホームランを打てたのは大きい。これで私がこの回も無失点に押さえればピッチャーとして使ってもらえる確率が上がる!)
私はベンチまで靴紐を結び、気持ちを整理していた。
「村上さん、大丈夫?」
ベンチ前で靴紐を結んでいる私に野神が話しかけてきた。私は靴紐を結び直し、野神の方を見た。
「私は全然平気よ。それより野神、あんたがうかうかしている内にエースナンバーを奪うわよ!」
「そぅ。大丈夫ならいいけど・・・ うん! 頑張って!」
少しだけ野神が私を心配した様子をしたが、すぐに私は送り出してくれた。私は野神に背を向けてマウンドに上った。
■■
3回表、東山リトルの攻撃は8番からの攻撃だった。仙道リトルのバッテリーは下位打線にも手を抜かず、決め球のフォークを使ってバッターを仕留めようとしていた。
(カウントは1ボール、2ストライク・・・村上さんのフォークで内野ゴロ、上手くいけば三振でスタートできる!)
川谷高史はインコースにフォークボールを要求した。村上もそれに頷き、フォークボールを投げた。
(しまっ!)
村上は投げた瞬間に自分が失投をしたことに気づいた。投げたフォークは抜け球となり、甘いインコースのボールとなった。それをバッターは捉え、左中間を割るツーベースヒットとなった。その結果を受けた川谷高史は審判にタイムをとり、マウンドへと向かった。
「今のは気にしない方がいい。挟んで投げるフォークだから失投も想定内だよ。ランナーのことは忘れよう」
「そうだね。投球プランはこのままでいいよ」
川谷高史がポジションに戻り、試合が再開された。9番バッターには先程のフォークの失投を加味して、ストレート投げてセカンドゴロに討ち取った。1アウトになり、打者が一巡して1番を再び迎えた。
(村上さんのストレートの球威は落ちていない。このままストレートで押し切るか・・・)
川谷高史はフォークを使わず、ストレートで打者を押していた。しかし、ボールは全てカットされ、2ボール2ストライクとなった。
(これは明らかにフォークを待っているな・・・ストレートをインコースに!)
川谷高史の要求に村上は首を振った。
(川谷・・・相手がフォークを待っていることは分かっている。でもここでファークを使って打ち取れれば、狙い球を絞らせることを出来なくさせられるわ!)
村上は川谷高史のフォークのサインに頷いた。そしてインコースにフォークを投げ込んだ。フォークは川谷高史のインコースの要求通りに投げ、ストライクゾーンへと向かって行った。しかしそのフォークボールは初回よりも落ちなかった。落差のないフォークはバットのマシンで捉えられ、フェンスを超えてホームランとなってしまった。これで2-2、同点となった。
■■
(やっぱりこうなるか・・・)
俺が予想した通り、村上さんのフォークボールはホームランにされてしまった。やはりあの時に伝えておくべきだったと後悔している。
「野神、村上がなぜ打たれたのか分かるか?」
ベンチの奥に座っていた滝上先輩が俺に話しかけてくれた。俺は村上さんのフォークが打たれた原因に心当たりがあった。
「握力ですね」
「そうだ」
フォークはボールを指で挟んで投げる球種。そのため、握力の強いほうがフォークの精度は上がる。しかし村上さんの握力は仙道リトルの体力測定で測った時、14キロぐらいだった。小4女子としては平均ぐらいだと思うが、フォークを使う握力にしては物足りなかった。
(村上さん・・・)
その後村上さんはフォークを中心に狙われ続けた。幸い、ストレートを引っ掛けさせてダブルプレーを取ることが出来て、3回表を終えることができた。しかし、あの後ホームランも絡んで3失点していまい、5-2となって逆転された。
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「村上、次交代だ。だがベンチでなく、お前にはファーストについてもらう」
「はい・・・」
私は交代を告げられた。ファーストと交代ということなので、莉子と守備位置を変えるのだろう。莉子は打席が回ってくる前にキャッチボールを始めていた。
「村上さん・・・」
「野神、さっきはあんなこと言ったのにこのザマはちょっと恥ずかしいね」
エースナンバーを奪うと言って、この回に5失点をしてしまった。エースどころか、ピッチャーとしても不合格だと思った。私は顔を伏せた。涙を野神には見せたくなかったからだ。
「村上さん、これ貸してあげるよ」
野神は自分のハンカチを渡してくれた。私はそれを遠慮なく受け取り、涙を拭いた。その後も野神は何も言わず、私の隣に座ってくれた。
■■
「川谷。次はお前がピッチャーをやれ。村上とチェンジだ」
「わ、私がピッチャー・・・」
3回表の守備が終わり、ベンチに戻ると梶監督から4回表にピッチャーをしろと言われた。その指示を聞いた瞬間、私の心臓は張り裂けそうだった。由佳でも6失点をしてしまった打線相手に私は通じるのかと。
「莉子! 俺の打席が来るまでキャッチボールするぞ!」
私は高史に誘われ、肩を温めるためにキャッチボールをすることにした。事前のアップで投球練習をしていたため、肩自体は出来ていたが、念には念を入れた。
(司は・・・由佳のところか。いや! 司を頼っちゃダメだ!)
私は心細くなって司を探したが、司は由佳のケアをしていた。それを邪魔するわけには行かないので、私は頭を振って気持ちを切り替えた。
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3回裏、2番の平田がショートゴロに倒れたが、3番の小松原がヒットを打って一塁に出た。続く4番の塚本が長打を打ち、ノーアウト二塁三塁のチャンスを迎え、5番の木部がフォワボールとなった。これでノーアウト満塁となり、6番の川谷高史を迎えた。川谷高史は先程の反省を活かし、同じくストレートを狙い球としたが、力まずコンパクトなバッティングをして、センター前ヒットをした。これで5-3となった。しかし続く7番金村がダブルプレーに倒れるが、その間に三塁ランナーが生還し、5-4となった。だが反撃もここで終わり、8番川谷莉子が三振してチェンジとなった。
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(大丈夫! 私ならできる!)
バットを片付けた後、私はマウンドに上がってピッチング練習を始めた。数球投げ込んだ後、主審が試合再開を告げた。
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