15.VS東山リトル1

 6月に入って最初の土曜日、仙道リトルが使用しているグラウンドで東山リトルとの練習試合が始まろうとしていた。俺達はグラウンドに集合後、監督からスタメンの発表が行われた。


1番 ライト 磯辺篤紀 小4

2番 ショート 平田友香 小5

3番 セカンド 小松原理恵 小5

4番 センター 塚本春樹 小6

5番 サード 木部正広 小5

6番 キャッチャー 川谷高史 小4

7番 レフト 金村美咲 小4

8番 ファースト 川谷莉子 小4

9番 ピッチャー 村上由佳 小4


今回の練習試合で元々のスタメンに入っている選手は6年生の塚本先輩だけだった。今回梶監督が使うと言った4年生以外でスタメンに入ったのは控えの選手ばかりだった。


(莉子は先発じゃないのか・・・でも今日、投げるだろうな)


俺は莉子の方を見てみると、ものすごく悔しそうな顔をしていた。それに悔しそうな顔をしていたのは莉子だけじゃなかった。美咲も悔しそうだった。悔しいと思えるまでに美咲が成長していることを俺は嬉しく思った。


(多分、後で美咲もマスクをかぶるだろう。この試合は来月の全国大会予選のスタメン選考も兼ねている。先輩方の目も燃えている)


小松原さんや平田さんもどうやら今日の試合で活躍する気満々のようだった。9人中5人が女子というオーダーだが、俺は勝てると思っていた。


「各自アップして準備を進めろ! 練習試合だからといってくれぐれも気を抜くなよ! それじゃアップ開始だ!」


先行東山リトル対後攻仙道リトルの練習試合が始まった。


■■


「プレイボール!」


村上の投球練習が終了すると、東山リトルのコーチが試合開始を宣言する。1回の表、東山リトルのバッターが右打席に立った。


(初球は村上さんのストレートの調子を見たい、アウトコースにストレートだな)


川谷高史はアウトコースのストライクギリギリにボールを要求した。村上もそれに頷き、右投げのオーバースローで球を投げる。バッターはそれを見逃した。


「ボール!」


初球は川谷高史の要求したコースよりも外に外れて、ボールとなった。川谷高史は続けてアウトハイのストライクゾーンにボールを要求した。村上はミットに向かってボールを投げた。


「ストライク!」


今度の球はバッターが見逃し、高めに決まった。カウントは1ボール、1ストライク。続けて川谷高史はインコースにストレートを要求した。村上の投げたボールはバットに当たり、ファールとなった。


(よし、ツーストライクと追い込んだ! 後はフォークで決められるかだな)


川谷高史は自分の思惑通りに追い込み、村上にフォークボールを要求した。村上もそのサインに頷き、フォークボールを投げた。バッターはボールを捉えたが、バットの下に当たってショートゴロになった。


(当てられちゃった・・・空振りにするつもりだったのに・・・)


村上は不満に思っていた。自分は空振りを取れると思っていたが、結果はバットに当てられた。まだまだ改良がいると思っていた。


(フォークはいつも通り投げられている。これなら決め球として使えるな)


川谷高史は村上の状態を確認して、リードのプランを頭で構築していた。その後の打者はストレートとフォークを利用して打ち取り、無失点で1回の表が終わった。


■■


「お疲れ、村上さん」


俺はベンチに戻ってきた村上さんに声をかけた。ベンチから見ても今日の村上さんの調子は悪くない。これなら大丈夫だと思った。


「ありがとう野神、でもまだ初回。それに空振りを取れると思ったフォークがバットに当てられた。ベストピッチではないわ」


確かに決め球をフォークにしている割には初回で空振りを一度も取れていなかった。やはり変化量がまだそんなに無いのがネックなのだろうか。


「ともかく村上さん! このまま行けば大丈夫だよ!」


「ありがとう野神。でも、私達はライバルだからね!」


大人っぽい表情に一瞬ドキッとしてしまった。それと同時に背中に鋭い視線が突き刺さったので振り返ると、莉子と美咲がこちらをじっと見ていた。俺は愛想笑いをした後、グラウンドを見て応援をした。


■■


 1回の裏、仙道リトルの攻撃は1番の磯辺がライト前ヒットを打って出塁したところで、そのまま二塁に盗塁をした。ノーアウト二塁の場面で、2番の平田が打席に立つもセカンドゴロとなり、ワンアウト二塁になった。しかし3番の小松原が右中間を割る長打を打ち、磯辺がホームに帰って0-1になった。続く4番の塚本はフォワボールを選び、5番の木部もフルカウントで粘ったあと、フォワボールになってワンアウト満塁になった。


(ワンアウトで満塁。ここで打てば村上さんを楽にしてやれる)


6番の川谷高史は自分がここでヒットを打てば村上を楽にできると思いながら打席に立った。


(見た感じ球速は速くない。変化球もカーブだけ。カウントを取りに来たストレートを狙う!)


川谷高史は左打席でストレートを待った。初球は高めに外れてボール。続くストレートはバットに当ててファールとなる。


(次はインコースに来るかもな)


第3球、川谷高史はストレートを弾き返そうとしてバットを強く握る。そしてピッチャーがボールを投げた。


(しまっ! カーブ!)


放たれたのはカーブだった。川谷高史はなんとかバットに当てるもそれはショートの正面に転がったため、ダブルプレーとなり攻守交代となった。


■■


「すまん、村上。チャンスで凡退した・・・」


「いや、大丈夫。私が無失点に押さえればいいだけだから」


俺はバットをしまい、キャッチャーの防具を身につける。先程の打席で俺が凡打をした原因は俺の力みだ。あの時、ストレートを打ち返そうとバットを強く握った。それがキャッチャーに伝わり、狙い玉がバレてしまったと考えられる。リトルに上がって初めての試合、その緊張感で初歩的なミスをしてしまった。


「高史・・・」


「大丈夫だ、司。凡打になった原因は分かっている。この失敗は取り返すさ」


司が心配そうに俺の元へ来たが、俺がそう言うと司はそのまま応援へと向かった。俺も防具を付け終え、ポジションに向かった。


■■


 2回の表、相手の4番から始まる好打順。村上は4番に対してストレートとフォークを混ぜ、8球投げて3ボール、2ストライクと追い込んだ。そして川谷高史はアウトコース低めに構え、ストライクからボールになるフォークボールを要求した。そのリードは功を奏し、4番を空振り三振にした。マウンドで村上は小さくガッツポーズをした。


(よし、三振を取れた。とりあえずこのまま行けるか!?)


■■


「どうだった?」


「小4女子にしてはいいピッチャーですが、次の回で打ち崩せるでしょう。投げさせましたから」


「そうか、そうか」


相手の東山リトルには余裕があった。結局東山リトルの2回表の攻撃はヒット1本に終わり、無得点に終わった。しかし、着々と村上攻略は進んでいた。

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