11.初の先発試合

(仙道リトルの先発は聞いたこと無いな。小4の子か?)


丸西リトルと仙道リトルでは地力が違う。監督の俺から見ても仙道リトルの子供達、特に滝上君の実力はもはやリトルの域を超えている。だからこその新戦力を試すのかと思った。


(だとしても、ただでは終わらせませんよ。梶監督)


俺は丸西リトルの子達にスタメンの発表をした。


■■


(初めての対外試合、しかも変化球禁止。条件付きだが、初先発。緊張よりも楽しさが勝つな・・・)


仙道リトルは裏の攻撃、そのため俺はマウンドへと向かった。投球練習はもうすでにしており、今日のコンディションも確認済み。今日も絶好調だった。俺は今日投げるマウンドで軽くキャッチボールをし、丸西リトルのバッターがバッターボックスに立つのを待った。準備が出来たところで今日の主審がプレイボールを告げた。


(初級はアウトローか。しかもストライクギリギリ。よし)


初球俺は振りかぶって慣れ親しんだフォームでフォーシームを投げた。ボールはいつものように真っ直ぐ滝上先輩のミットへと吸い込まれていった。返球を受け、次の要求はインローギリギリのところだった。俺は滝上先輩のミット目掛けてボールを投げ、ツーストライクを取った。インコースに投げたので相手のバッターはのけ反った。どうやら俺のストレートは怖いらしい。明らかにバッターが縮こまっていた。俺は気にせずにアウトハイにボールを投げ、見逃し三振にした。


■■


(な、なんだあの子は! なんていう球を投げるんだ・・・)


俺は驚愕していた。去年まであの野神って子はいなかった。つまりは小4ということだ。それなのにあの体格であの球のスピード。去年の滝上君にも驚いたが、これまたものすごい子供が現れたと思った。


(これは・・・ヒットすら難しいかもしれないな)


■■


「ふぅ!」


俺は1回表を三者三振にしてベンチへと戻った。今日もストレートのフォーシームがよいと思ったので、変化球なしでも充分渡り合えると思った。


「野神、キャッチボールはしておけ」


「はい」


俺はベンチでスポーツドリンクを飲んだ後、控えの木部先輩と一緒にキャッチボールをして身体を冷まさないようにしていた。そしてキャッチボールをしながら俺は仙道リトルの試合を見ていた。


カキーン!


1番の左打席の塚本先輩が引っ張って綺麗な左中間ヒットを打った。それがツーベースとなり、ノーアウトで得点圏にランナーを置いた。続く井上先輩もライト前ヒットを打った。塚本先輩は脚が速いので、すぐに三塁を蹴ってホームにスライディングをした。セーフになり、0-1となった。なおもノーアウト一塁で3番の戸塚先輩が難なくヒットを打ち、ノーアウト一塁二塁になり、4番の滝上先輩を迎えた。そして滝上先輩は初球を難なくホームランにした。0-4となった。


(流石は滝上先輩だな。小学生用のフェンス軽々越えるもんな・・・)


改めてもう一度対戦したいなと思った。ホームランを打たれて開き直ったのか、5番の加藤先輩、6番の松永先輩が出塁したが、7番の斎藤先輩がダブルプレーとなり、8番の糸川先輩がショートゴロとなり、攻守を交代した。


(次は俺からか。チャンスの場面で打ちたかったが、仕方ない。4点もあれば大丈夫だ)


俺はすぐにベンチに戻り、グローブを取ってマウンドへ向かった。2回の表も俺はストレートのみで三者三振に仕留め、交代した。2回裏の攻撃は俺からなので、すぐに準備をして打席に立った。


(相手も見る限り今日はストレートしか投げていない。変化球を覚えていないのか、オレと同じように投げるなと言われているのかは分からないけど、ピッチャーの俺には甘く来るな)


俺の予想通り、インコースの甘めのボールが来たので、俺はそれを引っ張って打った。打球はフェンスを超えてホームランとなった。0-5となった。その後も打線が繋がり、滝上先輩の2打席ホームランもあって、0-8となった。


「野神、10点差が付いたらコールドで4回終了となる。あと2回頑張れ」


「はい!」


監督から激を入れてもらい、俺は3回表の守備についた。3回表は下位打線だったので、全員をストレートで見逃し三振にした。これで俺は丸西リトルのスタメンを全員三振に沈めた。3回裏の攻撃は滝上先輩の前でスリーアウトとなり、無得点となった。


(よし、行くか!)


4回表、1番から始まる好打順だったが、俺はストレートで三者三振にした。これで4回12奪三振だった。4回裏、滝上先輩が3打席目もホームランを打ち、0-9となった。そして加藤先輩のツーベースと松永先輩のヒットで10点目が入り、4回コールドとなった。試合終了だった。


■■


「いやーやっぱり強いですね! 梶監督!」


「そう言っていただけると幸いです」


監督達がグラウンドで挨拶しているのを横目に、俺は隅で投球後のストレッチを行っていた。そう言えば今日、ボール球を使わなかったので、投球数は4回で36球という省エネのピッチングだった。


「野神、いいか」


「なんですか? 滝上先輩」


「お前チェンジアップ覚えて見る気はないか?」


「チェンジアップですか?」


チェンジアップはストレートと違い、遅い球。緩急をつけるために俺が最初に覚えようとした変化球の一つだった。スピードの遅いカーブを覚えようとしたところ、間違ってドロップカーブを覚えてしまったため、機を見て覚えようとしていた変化球だった。


「そうですね、監督と相談して決めますけど、覚えようと思います。でもなんでそう思ったんですか?」


「お前のストレートは速い。今日球速を測ってみたが、すでに今日最速105キロは出ていた。これに大きく垂直に変化するカーブ、そしてタイミングを外すチェンジアップを覚えればお前はすでにシニアでも活躍できるだろう」


「あ、ありがとうございます! そこまで考えてくれて!」


「そんなピッチャーからホームランを打てれば俺はプロになれる」


「・・・そうですか」


滝上先輩は滝上先輩だった。俺とはベクトルが違うが、一生懸命プロになるために頑張っているようだった。


■■


「チェンジアップか・・・いいだろう、身体への負担が少ない球種だからな。無理のない範囲でやれよ。ただし今日はダメだ。昨日投げたからな。ランニングでもしておけ」


俺は試合の次の日の練習、監督にチェンジアップを取得していいかどうかを聞いた。そして監督からの許可を得たので、明日から本格的にチェンジアップの練習をしようと思った。


「で、俺に協力してほしいと」


「そうそう、高史なら暴投しても大丈夫だろう! 他のキャッチャーじゃ申し訳なくて・・・」


「まぁ、いずれお前の球を受けるから別にいいけどよ」


高史をランニングに誘ってチェンジアップの練習に付き合ってもらうことを了承した。そして俺は高史と練習をしてチェンジアップを覚えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る