10.先発の決定
「み、見たか今の・・・滝上が三振」
「あ、あぁ。調子悪かったのか?」
「調子悪いくらいで三振するか?」
俺が滝上先輩から三振を取ると、グラウンドの内外がざわざわとした。滝上先輩から三振を取るというのはそれほどのことなのだろう。俺は夢にまで見た滝上先輩の三振に大いに喜んだ。
「やったぞ! 高史! カーブが通用したぞ!」
「あ、あぁ、そうだな・・・」
高史も驚いているようだった。あのボールは高史が受けてくれなかったら完成はしていない。俺と高史が成し遂げた三振だと思った。そんなことを思っていると主審をしていた監督がこちらに来た。
「野神、みんなの確認が終わったらちょっと来い。伝えたいことがある」
「分かりました」
俺が返事をした後、マウンドを降りた。次は野手のバッティングの確認だった。男子のピッチャーは
「野神、お前次の土曜日の練習試合に先発してみろ」
「え! いきなり先発ですか!」
「お前の球がどこまで通じるのか確認する。それにスタミナもあるのかもな。安心しろ、ピンチや調子が悪かったらすぐに変える」
「はぁ、分かりました」
俺は先発することを了承し、監督からみんなへの指示を受け取って戻った。
■■
「梶監督。何者ですか、あの子」
「野神のことか? あいつは今日リトルに上がった新入生だ」
「・・・本当ですか」
甲子園常連の
「今日は滝上か。まだ小学生なのに高校のスカウトが見に来るとは」
「えぇまぁ。一応この辺に用事があったのでついでですけど。ですが、来てよかったです。いいものが見られた」
東苑高校は噂によるとすでに滝上の獲得に動いているという。この様子じゃ野神も獲得に動くのだろう。
「先に行っておくが、子供への接触は禁止だぞ」
「当たり前です。ルールの上で行うのがスカウトですから」
柳原はそう言うとグラウンドを後にした。
■■
「えー! 今度の土曜日の練習試合に先発するの! 司!」
小学校の昼休み、俺は高史と莉子に先発の件を伝えた。莉子はとても驚いた声を上げた。
「それにしてもいきなり練習試合か。すごい期待だな。この時期の練習試合はいわばスタメンのテスト。夏に行われる大会の選考も兼ねている。つまりお前は選考するに価値があるということだ。頑張れよ」
この世界のリトルリーグの日程は7月の内に全国大会の予選会が行われ、8月に全国大会が行われる。よってこの4月から6月までの2ヶ月間はそれに向けてのチームづくりがメインとなる。そのため近くのリトルチームで練習試合が活発に行われ、その結果を元に本番のスタメンが決まる。それゆえ、4年生から4月の練習試合に参加することは珍しいことだった。
「あぁ! せっかく先発できるんだ! 力の限りやるさ!」
俺は高史達に全力でやることを約束した。そして時が経ち、土曜日の練習試合。今回は俺達仙道リトルが普段練習をしているグラウンドで試合をすることになった。戦うのは丸西リトルというチームらしい。同じ東東京でよく練習試合をしているらしい。
「野神、ちょっと来い」
「滝上先輩? どうしたんですか?」
「今日の試合ではドロップカーブを投げるな、いいな」
「なぜですか?」
「できるだけお前の情報を渡したくないだけだ。それにドロップカーブを使わなくても丸西リトルの打線ならお前のコントロールとストレートで押し切れる」
そう俺に伝えると滝上先輩はアップを始めてしまった。俺としてはどんな相手にも全力で相手したかったので、少々残念だった。俺もアップをしようとランニングをしようとした。
「あっ野神君! ちょっといいかい?」
ランニングをしようとしたところ、俺の1学年上。小学5年生にして今の仙道リトルのエース、
「なんですか? 永野先輩?」
「いやー噂の後輩君と話したくてね。練習中はなかなかタイミングがなかったから!」
永野先輩は笑顔で俺に近づいてきた。永野先輩はイケメンだった。身長こそ平均ぐらいだと思うが、この年の子供の身長など当てにはならない。なんとなくだが、高身長イケメンに成長すると思った。
「単刀直入に聞くけど、この仙道リトルに入ってよかったかい?」
「え・・・それはまぁ。不満なんて無いですよ」
滝上先輩とも出会えたし、特に不満もなかったので俺はそう答えた。
「あぁ聞き方が良くなかったね。野球選手として仙道のチームに入って満足している? 正直に答えて欲しい」
野球選手として仙道リトルに入ってよかったか、難しい質問だと思った。俺はしばし考えた後、一つの結論を出した。
「そうですね、基本的には満足しています。ただ、このチームにいる限り公式戦では仙道リトルと戦えないことは残念だと思います」
仙道リトルは全国常連。そんな打線と一度は戦いたいと思ってしまうのは、俺が調子に乗っているからだろうか。俺の答えを聞いた永野先輩は満足したのか、笑顔になった。
「そうか、そうか! 良い答えが聞けたよ! じゃあ先発頑張ってね! なにかあっても後で俺がなんとかするからさ!」
そう言うと永野先輩はフラフラっと何処かへ行った。俺はアップをするためにランニングを行った。
■■
「全員集合!」
梶監督から号令があり、俺達は集まった。今日呼ばれたのは俺を除けは小学5年生と6年生のみ。みんなすでに風格がある感じだった。しかし俺もこの度身長が140cmを超えたので、並んでも違和感がなかった。そして監督から今日のスタメンを発表された。
1番 ショート
2番 セカンド
3番 センター
4番 キャッチャー
5番 ライト
6番 ファースト
7番 サード
8番 レフト
9番 ピッチャー
(やっぱり女子は難しいのか・・・)
スタメンが発表されたが、その中に女子の名前はなかった。身体能力の差がもうすでに現れているようだった。しかし、小松原さん含めた女子の目は死んでいなかった。油断しているとすぐに奪われそうだった。
「以上だ! この試合は夏の全国予選の選考も兼ねている! 怪我ないようするのは一番重要だが、ベストは尽くせ!」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
俺の初の対外試合が始まった。
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