4.初の被本塁打
「お疲れ様。高史どうだった、キャッチャーは?」
「あぁ! 難しそうだが、楽しそうだと思ったよ! リードとか、スローイングとか覚えることはたくさんあるけど、俺は絶対に小3までのうちに力をつけて、リトルでレギュラーになる!」
高史は決意を目に宿していた。高史はすでにリトルを見据えていた。その後俺達は再び監督に集められ、走り込みをして今日の練習は終わった。俺は川谷母の車に乗ってマンションへと帰宅した。母さんはまだ仕事のため、俺は川谷家で勉強をすることになった。
「お邪魔します。司いますか?」
「お母さん、おかえりなさい!」
川谷家のインターホンが鳴り、確認すると母さんが帰ってきていた。俺は母さんの元に行き、自分達の部屋に戻っていった。ちなみに小学校に上がったので、ママからお母さんに呼び方を変えた。ちょっと母さんは寂しそうにしていた。
「どうだった? 初めての練習は?」
「うん! マウンドで投げるのは難しかったけど、滝上っていうキャッチャーからいろいろ教わって投げられるようになったよ!」
「え!? もうマウンドで投げられるようになったの! もしかしてミットまで届いた?」
「うん」
母さんは俺がマウンドでしっかり投げられることについて少し驚いていた。俺は滝上先輩にコツを教えてもらっていたのでわりとすぐ投げられたが、本来はそうではないのだろうか。
「もしかしてうちの子って天才なんじゃ・・・」
(いやいやそんなことは・・・でも野球チートがあるからそうなのかな)
母さんの様子から俺は明らかに他の子供より野球が上手いのだろう。今にして思えば、俺の一個上のピッチャーは今日マウンドで投げていなかった。キャッチボールしたり、筋トレしれしたり、俺達と同じように走り込みを行っていた。
(もしかして俺ぐらいの年齢でマウンドからミットまで投げられるのってすごいことだったのか? でも滝上先輩はそんな気配一度も出してなかったし、うーん・・・)
そんなことを考えながら俺は母さんと父さんの帰りを待って、一緒に夕飯を食べた。
■■
「ほう、小1でマウンドからミットまで届く子がいたのか。剛はどう思う?」
「あいつはすごい投手になると思う。しっかりと練習すればプロになれると俺は思っている」
俺は父さんに野神のことを教えた。俺の父さんは元プロ野球選手で今はプロ野球の球団職員をやっている。俺は父さんの影響でプロ野球選手を目指して、努力をしている。
「具体的にはどんな感じなんだ?」
「コントロールはまだないよ。でもスピードとスビン数はいいと思った。球速は今のところ60キロは超えていると思う。スピン数は多分一番」
「い、1年生でか・・・」
正直、俺はジュニアのピッチャーに期待はしていなかった。大抵のピッチャーは小3までまともにストライクゾーンに投げられないと言われている。実際俺の同級生は俺の元までボールを投げ込めなかった。初めていいピッチャーが現れたと思った。
「ま、あんまり無理はさせるなよ。お前の要求は高すぎるから。特にピッチャーは繊細だから気をつけろよ!」
俺は父さんにそう言われ、一応うなずいた。俺は少しだけジュニアの練習が楽しみになった。
■■
「準備体操をしたら、アップでグラウンド1周な。その後はストレッチ、はい開始!」
仙道ジュニアに入団してから1ヶ月が経った。俺達ジュニアのトレーニングと言えばアップのストレッチや体幹トレーニング、キャッチボールをした後にピッチャーはピッチングをして、野手はバッティング練習もする。ピッチャーに関しては週に1回バッティングの練習もする。そうしてリトルリーグに向けての身体づくりを主に行っていた。
「野神、今日昨日言ったことはできるだろうな?」
「確かフォーシームだっけ? うん、一応握りは覚えてきた」
俺は今までストレートというのはただ投げればいいと思っていたが、そうではないらしい。この一ヶ月、俺は滝上先輩と俺のフォーム安定を安定させるために簡単なキャッチボールしかしていない。そして昨日俺は滝上先輩にストレートの握りを教えてもらった。
「よし、じゃあマウンドで投げるぞ」
そう言われ、俺は滝上先輩と一緒にマウンドへと向かって行った。俺がマウンドで投げることは滝上先輩から監督に伝えられていたらしい。高史や莉子、その他の子供も俺の様子を見ていた。俺は滝上先輩と何度かキャッチボールをした。そして俺にボールを返したところで滝上先輩はキャッチャーミットを構えた。
(さて、投げられるかな・・・)
フォーシームの投げ方は教えてもらったが、実践では投げたことはなかった。俺は緊張しながら叩き込んだフォームでボールを投げた。ボールはストライクゾーンの真ん中に行き、ミットの中へと吸い込まれていった。ボールがミットに吸い込まれると周りから歓声が上がった。
「あいつすげぇ・・・ミットまで届いたぜ・・・」
「球速くないか・・・」
「1年生だよな・・・」
歓声の他にも動揺の声が広がっているのが分かった。やはり俺はすごいらしい。ちょっとだけ俺は誇らしくなった。
「次、俺がバッターボックス入るから誰かキャッチャーをやってくれ」
「じゃあ俺やります」
高史がキャッチャーに立候補してくれた。俺は高史と軽くキャッチボールをして準備を進めた。そしてプロテクトを外した滝上先輩が右打席へと入った。
「とりあえず真ん中でいいよな」
「そうだね、というか真ん中しか投げられない・・・」
俺と高史はマウンドで投げるところについて相談していた。相談と言っても俺のフォーシームは現状、真ん中にしか投げられない。コースに投げようとするとストライクゾーンに中々行かなかった。
「大丈夫だろ! お前のボール速くなったし、早々打たれないだろ!」
俺の胸元をミットで叩きながら高史がそう言ってくれた。そして高史はポジションに戻り、ミットを構えた。俺はそのミット目掛けて腕を振りかぶって投げた。
カキーン!
しかし俺のボールは高史のミットには行かず、無常にも滝上先輩のバットに当たった。そしてそのボールはリトルでホームランと認定される、60.95mを超えていった。
(マジかよ・・・)
さっきまでの俺の自身はあっさりと砕け散ってしまった。正直俺のボールなら滝上先輩ですら空振りをすると自身があったからだ。俺は呆然と打たれたボールを見ていた。
「次はコントロールだな。コントロールは即席でできるものじゃない。リトルに上がるまでにしっかりと最低四隅に投げられるようにしろ」
バッターボックスから俺のいるマウンドに来て俺に伝えてきた。どうやらただ早いストレートでは打つのは容易いということを教えたかったらしい。改めて俺は滝上という選手の凄さを感じた。
「はいはい。みんな見ていないで練習をするぞ。野神、お前は走り込みをした後で投げ込みな」
「はい・・・」
監督に言われた通りに俺はグラウンドを一周して、再びマウンドで投げ込みを行った。
(俺の野球チートってこんなもんなのか?)
結構悲しかった。
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