3.ジュニア初練習
「
「
「か、
小学校に入学してすぐ、ジュニアチームの練習がスタートした。俺達はユニフォームに着替えて、練習をするグラウンドへと向かった。仙道ジュニアはちょうど俺達の通っている小学校のグラウンドと体育館で練習があるのがよかった。変に移動するのは面倒くさいからだ。そして、俺達新入りの挨拶が始まった。
「川谷高史です! 希望ポジションはキャッチャーです! 近藤選手みたいになりたいです! よろしくお願いします!」
「川谷莉子です! 希望ポジションはピッチャーです! 頑張ります! よろしくお願いします!」
「野神司です。希望ポジションはピッチャーです。よろしくお願いします」
今年は俺を含めて6名が入団した。全員の挨拶が終わり、俺はちょっとびっくりした。俺の世代のジュニアにピッチャー志望の男子が俺しかいなかったことに。そして野手は全員キャッチャー志望。これも近藤選手の影響だろうか。野球の花形はピッチャーだと思っていたが、そうではない無いらしい。
「よぉし! 挨拶は元気でよろしい! 俺は監督の
ジュニアの監督の佐藤さんから挨拶があり、俺達は指示されたようにみんなで練習の見学を行った。先輩の内野手と外野手はそれぞれコーチによるノックを受けており、ピッチャーとキャッチャーはそれぞれキャッチボールをしていた。俺と莉子と高史は三人で固まり、その様子を見ていた。
「おっ来たな新入り達。俺は一応コーチをやっている
(へぇ監督だけじゃなく、コーチもいるんだな)
俺のイメージだとコーチが付くのは高校からだったが、この仙道ジュニアにはすでにコーチがついているらしい。それだけ野球に力を入れているということなのだろう。
「今年はキャッチャー志望が多いんだったな・・・よし、滝上! 来てくれ!」
須藤コーチはあの滅茶苦茶すごいキャッチャーの名前を呼んだ。キャッチャーのプロテクトをつけた滝上先輩が俺達のところに走ってきていた。
「なにか御用ですか? コーチ」
「新入りのピッチャー希望のピッチングを見ていてくれ。俺はキャッチャーの指導をしないといけないからな」
「はぁ、分かりました」
滝上君はなんか嫌そうだった。まぁ自分の練習時間を削ってするのが嫌なのだろう。しかし、後輩を育てるのも立派な仕事だと思うぞ。
「ピッチャーを志望している人はこっちだ」
俺達は滝上君につられて、グラウンドのピッチングスペースへとやって来た。簡易的なマウンドが用意されている。ブルペン的なところなのだろう。
「じゃあまず女子のお前から投げてくれ」
「お前って・・・私は川谷莉子です!」
莉子は結構可愛くなった。黒髪のロングヘアでパッチリとした目、小学校に入学したら男子達の注目の的になっていた。本人は野球しか興味無いので、関係なさそうだったが。ちなみに莉子からちゃん付け禁止令を食らったため、呼び捨てにすることになった。
「じゃあ、行きます!」
莉子は俺とは違い、サイドスローのフォームで投げた。しかし、ボールは滝上君のミットには届かなかった。莉子は確かに俺達とのキャッチボールで一度も実践の距離に届いていない。やはり身体が出来ていないので、特に女子には厳しいのだろう。
「まぁ、そんなものだろう。次の女子」
そうして滝上君は次のピッチャー志望の女子を呼んだ。村上さんもロングヘアだが、茶髪の感じがする。天然のものだろうか。それに何か小1にしては大人っぽい感じがする。ちなみに村上さんもミットには届かなかった。
「次、男子のお前」
「お前って・・・はーい」
俺は滝上君に呼ばれ、数回キャッチボールをした後、マウンドに上がった。初めて上がるマウンドはちょっと嬉しかった。滝上君はキャッチャーの構えをとり、準備万端のようだった。
(さて、俺の野球人生の最初の投球だ。本気投げて驚かせてやる!)
俺はいつものようにオーバースローの投球フォームでボールを投げた。そして俺の投げたボールは滝上君のミットに・・・・いかなかった。ボールはなぜか山なりの軌道で滝上君の頭上のフェンスへと当たった。
(あれ? なんでだ?)
俺は首をかしげた。いつもと同じように投げたのにボールはミットに行かず、山なりになって大暴投となった。今までそんなことはなかったので不思議だった。
「どうしたの、司? 調子悪いの?」
「いや・・・そんなことはないんだけど・・・」
俺の投球を見た莉子が心配そうに近づき、俺に確認をした。俺の指はいつも通りだし、身体も痛くない。理由が分からなかった。
「おいっお前。名前は?」
「え? 野神司です」
「野神、もう一度投げてみろ」
滝上君は俺の元に来てボールを渡してくれた。そしてもう一度投げるように催促をした。俺は頷き、再び準備をする。滝上君が座って構えたところで俺は再び振りかぶってボールを投げた。しかしそのボールは滝上君の前でワンバウンドしてミットへと入った。
(また上手く行かない・・・)
その後も滝上君は俺にボールを返して、もう一度投げろと言わんばかりにミットを構えた。俺は要求通り投げたが、どれもストライクゾーンには入らず、暴投ばかりだった。何級か投げた後、滝上君はマウンドの俺の元へ駆け寄ってきた。
「コントロール出来ないみたいだな」
「そうですね・・・キャッチボールだと上手く言っているんですけど・・・」
「マウンドで投げた経験は?」
「無いです」
「ピッチャーは通常マウンドでピッチングをする。そしてマウンドには傾斜がある。今度はそれを考えて投げろ。そしてボールを送り出す瞬間、リリースポイントを毎回一致させろ」
そう言うと滝上君は再び元の位置に戻り、キャッチャーミットを構えた。早く投げろと言わんばかりのオーラを放っている。俺はマウンドの傾斜を考えて踏み込み、ボールも一番力が伝わるタイミングで離した。するとボールは見事に滝上君のミットに届いた。
(おっいい感じだ!)
ボールを受けた滝上君はまたしても俺の所まで来た。
「今のはボールだ。ストライクゾーンに投げ込め」
「いや、そこまで求めるの・・・」
「あと投げる時、軸足に体重が乗っかるようにしろ。できるだけきれいに体重が移動できるようにもな。あと股関節も使え。体全体で球を投げる感じだ。いいな。あと1球だ」
それを伝えた後、滝上君は再び定位置に戻り、ミットを構えた。俺はとりあえず言われたように投球フォームを修正し、振りかぶってボールを投げた。投げたボールは俺でも分かるくらいベストピッチだった。ボールもマウンドからでも分かるぐらいストライクだった。てか真ん中だった。
(あれ? 結構いいボールだと思ったんだけどな・・・)
滝上君はその場から動かなかった。そして数秒後、滝上君は俺の元へとやって来た。
「ナイスボール・・・でもど真ん中だ。俺ならホームランだ」
「そ、そうですか・・・」
そう言うと滝上君はコーチのもとに行ってしまった。俺達は微妙な空気の中、コーチが来るのを待っていた。
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